親友
平成24年 7月14日 熊本県阿蘇地方
前回の司令の意味深な発言を気にする間もなく沙羅達は各被災地へ派遣され、生存者の救助と雨で流れ出した土砂の除去作業に当たっていた。
「井浦!そこ危ないよ!」
泥で不安定な足元で作業する沙羅を、熟練の先輩達が注意する。が・・・・・・
「はい!今離れ・・・・・・きゃっ!」
「井浦?!」
ぬかるんだ地面から脱出しようとした瞬間、足が泥につかまり、沙羅は泥の中に浸かる前に目を閉じた。
(やっちゃったなあ・・・・・・ってあれ、顔に泥の感触がないぞ、それに何か人の温もりみたいな・・・・・・)
「沙羅、大丈夫?」
その声を聞いた沙羅は一瞬、規子かと思ったが、彼女は今回は一緒に来ていないし、規子の声にしては若い気がした・・・・・・そして、沙羅の周りで規子の声に少し似ている人物・・・・・・
「実咲・・・・・・ありがとう」
「あんたは相変わらずそそっかしいんだけん」
そう言って沙羅をヒョイッと持ち上げ、安全圏へ避難させる海軍の桜に錨のマークが付いた作業着姿の実咲。
「にしてん、なんで実咲がここに・・・・・・」
「なんでってあんた、私達も応援に来たったい」
実咲はそう言うと、自身と同じ作業着を来た海兵達に手を指す。
「そっか、実咲んとこの隊だけ?」
「さしよりね、主にあんた達の手伝いだけん」
かくして、実咲達も協力のもと、救助以外の作業も急ピッチで進む事になったのであった。
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数週間後、被災地での任務を終え大牟田の基地に戻った沙羅は、基地内で現地での活動報告書の作成に奔走していた。
「えーと、現場の状況は正に・・・・・・当地区では過去にも度々災害に見舞われた経験から早めの避難が住民の自主的に行われ・・・・・・土砂災害による人的被害はほぼ・・・・・・」
「それで・・・・・・我が隊による救助総数は・・・・・・よし、終わった!」
沙羅はやっとこさ現地の救助活動の詳細を書き上げ、一息付くと、実咲からプライベート用の携帯に着信があり、会いたいと言うので急いで報告書を提出して基地を出た。
因みに特救隊員は有事以外ほぼ自由がききまくる仕事である。
同日 夕刻 熊本市 熊本駅前
通勤通学ラッシュの時間帯で混雑する中、沙羅はなんとか実咲と合流し駅前の喫茶店に入る。
「実咲、あんた軍服で来たらすぐ分かったて」
「いやいや、この熊本で海軍の服は目立つでしょ」
「まあ確かに、陸軍さんですら軍服で普通に歩いとんの見た事ないしね」
「でしょ?それで、最近どう?俊くんとは会えとる?」
「うん、1軍でちょくちょく出るようになってチケット送ってくれるごんなったし」
「俊くん最近頑張っとるけん、変な虫も寄ってきとらんね?」
「寄ってきたっちゃ大丈夫、私が惚れた男ばい?」
「はいはい、なんか止まらんくなりそうだけん俊くんの話は終わり」
「あんたが振ったくせに・・・・・・そういや実咲、作業着に付いとった階級章見たばってん、あんたもう少尉になったつね」
海軍に限らずこの世界の日本軍は完全実力主義で、昇進スピードも同期でかなり差が出るのである。それにしても、実咲のように卒業後少尉候補生期間が数ヶ月しかないのはごく稀な事で、沙羅は驚きを隠せないのである。
「たまたまうちらのクラス(海軍用語で同期の事)だと、私が抜きん出とったって事よ」
「はいはい、まあ冗談抜きにたい、小学校の時お互い語った夢ばお互い叶えてこうして会えるなんてなんか感慨深いよね」
「そうねえ・・・・・・初めて会った時は沙羅が凄い子供のふりしよるように見えて、前世の話聞いてやっぱりって思ったんよね」
「そりゃ人生3周目で2周目は子供時代なかったし」
「そうよねえ・・・・・・でも付き合っていくうちに素の少女の沙羅の顔も見えてきてからね、そのうち沙羅のおかげで色んな人達とも話せるようなって、あぁこの人に出会えて、親友になれてよかったなって」
「そんなんこちらこそよ、実咲のおかげで童心に帰れたっていうか、あまり深く考えたりせんくなって私自身に戻れたって感じなんよね、ありがとう実咲」
「いえいえ、そうだ、俊くんと結婚する時は早めに言うてよね、洋上勤務でも断って行くけん」
「ははは、その時ね」
この日以来、またしばらく会えない日が続くものの、2人の親友の心はずっと繋がったままであった。
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