クリスマスデート前編



平成21年 12月24日 熊本市



沙羅は俊弥と毎年恒例のクリスマスデートに繰り出しているわけであるが、やはりこの時期の人出の多さは堪えるものがあり、辛島公園のベンチで休む2人。



「人混みは疲るんねやっぱ、正に人がゴミんごたっばい」



「明日のクリスマス本番よりイブの方が人多えもんねえ」



「デパートもクリスマスだけんてそぎゃん大規模にバーゲンとかせんでよかてから」



「そぎゃん言いながら服やら化粧品やら色々買うとっとは誰ね」



「それはまあ、ほら、定価より安く買えるとに越した事はなかたい」



「それはそうね・・・・・・」



ふむふむと頷く俊弥。因みに沙羅が政府のスパイのような仕事をした時は、しっかりとギャラが支払われており、彼女にはかなりの蓄えがあるのだが、それでも割引とかいった文言には弱いのである。

と、街の喧騒に疲れ果てた沙羅はある事を俊弥に提案し、ある人へ電話をかける。



「あ、もしもしじいちゃん、私よ私、詐欺じゃないて、沙羅たい沙羅!あんね、今から俊弥とじいちゃん家行ってよか?うん、博さんも最近会うとらんけんねえ、あ、よか?なら今辛島だけん電車と汽車で・・・・・・汽車降りたらバスで行くけん迎えはよかよ、うん、急にごめんね、ありがとう」ピッ




「本当によかと?」



「よかよか、じいちゃん達にも博さんにもあんたば紹介せにゃんたい」



「え?」



「よかけん行くよ!ほら上熊行きちょうど来よるたい!」



実際、沙羅としては将来を見据え外堀を埋める目的もあったが、2人でちょっと遠出する事も中々ないので、純粋にそういう楽しみもあった。



「電車もいっぱいね」



なお、沙羅が先程から電車と言っているのは、市内電車のことである。

この世界では日本各地に市電が残り、熊本市電も前世では廃止されていた路線が未だに存在したり、新しい路線が出来たりしていて、特に熊本駅、上熊本駅、藤崎宮駅、南熊本駅、水前寺駅から中心繁華街へ向かう、またはその逆ルートに当たる路線は連日混雑しており、沙羅と俊弥も箱詰めの電車に揺られて、上熊本駅に到着すると、ふぅーっと息を吐く。




「あー、やっと解放された、汽車ん方はちっとマシやろ」



「そうだろね、汽車は多分座れるばい」



この子達は汽車と言うが、実際にこの時代に蒸気機関車が通常運行で走っている訳もなく、路面電車が身近にある場合電車といえばチンチン電車、他にも私鉄を〇電とか言ったりするが、JR(この世界では昭和40年頃、民営化)は汽車と言ったりするのである。

そんなこんなで、その汽車とバスを乗り継ぎ、玉名の祖父母宅へ到着して、やっとくつろげると安心する沙羅だが、俊弥としてはそうもいかない。



「本当すみませんね、突然お邪魔する事になって」



「なーん、気にせんちゃよかて、俊ちゃんの話はよう沙羅から聞いとったし、聞いた通り可愛か子ね」



「でしょーばあちゃん、なら俊弥ば紹介せにゃんけん博さんの部屋行ってくんね」



というわけで、久しぶりに博文の登場である。



「博さーん、俊弥連れてきたよー」



と、沙羅と俊弥は信じ難い光景を見た。

















































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