花火
平成21年 8月
この世界でも日本の夏といえば、各地で行われる花火大会で、沙羅も毎年実咲や俊弥と江津湖の花火を見に行っているわけだが、彼女達にとっては花火そのものより、浴衣や甚平を着て歩いたり、屋台で買い食いするのが楽しいのである。
「やっぱ浴衣は暑かね、私も美輝んごつ洋服で来りゃよかったばいた」
久しぶりに登場した美輝、沙羅と俊弥の野球のチームメートである。
「私は別に沙羅とか実咲んごつそぎゃんこだわりないけんね、それに沙羅が普段着じゃ俊くんもがっぱりさすばい」
ねえ?と目配せされ、ウンウンと頷く俊弥と実咲。
「沙羅も俊くんも毎年この時期になるとソワソワし出すもんねえ」
「「し、しょんにゃことにゃあし!」」
2人とも慌てて否定するが、実際にお互いいつ花火大会の事を言い出そうか夏休みに入り、沙羅が東京へ行く前からソワソワフワフワしていた。
いつも一緒にいる分、そういう時はお互い余計に意識してしまうのだ。
「まあでもちょっと羨ましいよね」
「そうね、私なんかほぼ野球が恋人みたいなもんだし」
ティーンになったとはいえ、色恋沙汰の色もない少女2人は少し沙羅を羨んでいた。
そのうち、沙羅達がいい雰囲気になり始めたので、2人はこちらは女同士でと暫し別行動をとることにした。
「あら、実咲と美輝はどこ行ったんやろ」
「なんか気遣わせたかな・・・・・・ばってんこれで2人きりやね、この後・・・・・・」
いつもは沙羅の後ろをくっついてばかりの俊弥が、急にキザな事を言い出して照れるというか吹き出しそうになる沙羅。
「やっぱ俊弥は無理にカッコつけんでそんままが一番よか、あ、かき氷買お!ほら、行くよ!」
「むぅ・・・・・・分かったよ、走ると危ないけんね!」
相変わらずだなとか、でもこういうとこが好きなんだよなとか思いつつ、お転婆な彼女の腕に引っ張られる俊弥。
そんな小さなカップルの姿を、かき氷屋のおっちゃんも微笑ましく見つめる。
「あら、可愛かカップルさんばい、何にする?」
「えへへ、私レモン!」「僕はいちごミルクで!」
「はいよ!2つで80銭ね」
「はーい」
代金を払って、花火を見やすいポイントに移動すると、美輝と実咲も同じポイントに陣取ってとうもろこしを齧っていた。
「あら俊くん、いちごミルクとか可愛い〜」
美輝がそう言うと、沙羅が自慢げに放つ。
「そうでしょ、ばってん可愛いけんて絶対やらんけんね」
「親友の彼氏に手は出さんけん大丈夫よ」
実咲もそうそうと頷き、続ける。
「それに俊くんに手出したりすれば、忍者さん達に何さるっか・・・・・・」
博文が沙羅に付かせている忍者達は、今や沙羅本人だけでなく彼女の家族や知り合いレベルの関係者まで護衛や監視を行っているのである。
「ま、まあそうよね・・・・・・」
かつて自身が作り、日本にも提案した忍者組織が思いの外大きく育ちすぎ、複雑な心境の沙羅である。
とまあ、他愛ない会話をしていると花火の打ち上げが始まり、テンプレのような会話をする沙羅と俊弥である。天ぷらのような会話では無い。何その会話。
「綺麗ね」
「さ、沙羅ちゃんの方が綺麗よ」
「ふふふ、知っとるー」
「なっんもう!」
そんな会話を聞いていた実咲と美輝はなんだか居た堪れない心持ちである。
「本当凄いよねあの2人」
「うん、いつもチームでも沙羅がリードしよるけど、プライベートも変わらんね」
と、その2人の顔がどんどん近づいて行くのを見て、サッと目を逸らす少女達であった。
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