体験入隊



平成21年 10月



沙羅と実咲は陸軍の健軍基地で体験入隊イベントに参加していた。

ここのところ、軍隊の国民からの信頼は上昇傾向にあったが、職業としての人気は以前低迷中であり、専門性の高い海軍や空軍よりは多少国民に身近な陸軍から12歳〜17歳頃の少年少女達に向けてこのイベントが計画されたのである。




「俊弥も来ればよかったてからなあ」



「こん暑い中軍隊の訓練とか絶対嫌!て言いよったもんね」



意外にも多くいた参加者の列の隅で話していると、沙羅のよく知る人物が現れた。



「あれ、沙羅ちゃん?」



「あ、村松さん久しぶりですね」



村松 資仁、以前沙羅に接触してきた転生者で、沙羅が発足した転生者の会の創設メンバーの1人である。

彼は沙羅と会ったその後、博文に軍属(基地内の売店の店員)の仕事を紹介して貰っていた。



「そうね、そちらの子は初めましてかな?」



実咲にニコッと微笑み、こんにちはと挨拶する村松。



「こんにちは、初めまして、沙羅の友人の林実咲です」



「村松 資仁です、よろしく、じゃあまた後でね」



チラッと時計を見て売店に戻る村松。

沙羅達は集合時間の為、他の参加者らと共に案内の兵士の誘導で集まり、今回彼女らの指揮を執る少佐の話を聴く。



「本日はここに集まってくれて本当にありがとう、軍隊では日本という国、ひいては君達の安全な暮らしを守る為に日頃から厳しい訓練を行い・・・・・・」



「・・・・・・というわけで、これから軍隊の訓練を体験してもらうが、これはあくまで催事、男も女も様々な年齢の者がいると思うので、決して無理はしないように」



はい!と元気良く返事をして一同はまず基礎のランニングを行う。基地内のグラウンドのトラックを周るだけで、総距離にすれば5キロ程度であるが、中にはこの段階で音を上げるものも多くいた。



「ちょ、実咲、やばい・・・・・・」



「いや、お前が音上げるんかい」



野球の練習でも走り込みはしている沙羅だが、この所各地を飛び回ってチームの練習にも常には参加出来ずにいたので、体が仕上がっていないのである。

しかしそれでも走りきり、その後も主に沙羅や実咲と変わらない年齢の多くの子達が脱落して帰っていく中、最後まで参加する沙羅。



「前世の自衛隊入った頃に比べたらこんなもん運動会よ」ゼェゼェハァハァ



「沙羅、めっちゃゼェゼェ言いよるけど?」



「ま、まあ大丈夫よ」



「少佐も無理はするなって言いよったたい」



「いやあもう最後だし、無理もクソもなかばい」



沙羅を心配する実咲も、平気な顔をしているが全身筋肉痛でやばいとか思っていた。

そんなこんなで無事に体験入隊を終えた彼女達は、軍限定のグッズや戦闘糧食を一般向けにしたレトルト食品等の土産物を求め、村松のいる売店へと向かう。

店の中は他の体験入隊に来た子達や、時間帯も夕方頃とあってローテーションで上がりになる兵士達が帰りに買い物に来たりで大盛況であり、村松が拡声器で注意を呼びかける。



「本日の売店はお陰様で大変混みあっております!商品の在庫は充分確保してありますので、兵士の皆様も、体験入隊のお子様方も、きちんと列に並んで、押したりしないようにお願い致します!」



と、行列に見兼ねた沙羅と実咲はある事を思いつき、村松に声をかける。



「村松さん、大変ですね」



「あ、実咲ちゃん、列に並ばなくていいの?」



「ええ、あの、計算機と出納帳ありますか?」



「え?」



「それか算盤とメモ帳があれば大丈夫です」



「沙羅ちゃん・・・・・・まさか君達!」



「はい、だって普段は基地内の兵士の為の売店だけんレジは2台くらいでしょ?店内もコンビニより狭いしこの数を捌くなら・・・・・・」



「でも君達みたいな子どもを働かせて、後で基地司令に何て言われるか・・・・・・だから気持ちだけ受け取っとくよ」



沙羅はそうなったら司令官室に直接自ら謝りに行って・・・・・・とか、実咲も似たような事を考えるが、そうした場合の村松の心労も考えてここは引き下がる事にした。

というわけで、大人しく列に並び、買い物を済ませ客足がだんだん減って来た所で、村松も仕事終わりとなり、彼が沙羅達の分のアイスを買ってきて、食べながら話す3人。



「沙羅ちゃん、実咲ちゃん、軍隊の訓練はどうだった?」



「やっぱ軍隊は違うよね、普段の野球の練習もきつくて休みたい時あるけど、今日のは本当凄かった・・・・・・」




「沙羅、目上の人には敬語使わんと!」



実咲が注意するが、村松はいいよいいよと止める。



「そっか、そういえば皆の前じゃ敬語だったけど、やっぱ沙羅ちゃんと話す時はそっちの口調のが落ち着くしなあ、実咲ちゃんも敬語じゃなくてもいいよ」



「いえ、そういうわけには」



「実咲ちゃんはなんか本当に軍人さんって感じだね、あの林少佐の娘さんだからかな」



「私の父を御存知で?」



初対面の基地の売店の店員からまさか父親の名前が出るとは思わず、目を見開き村松の話に耳を研ぎ澄ます実咲。

彼はどこで、いつ、父に会ったのか・・・・・・

























































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