最悪の形になる可能性




 2008年5月 アメリカ合衆国カリフォルニア州 ロサンゼルス市リトル・トーキョー



 沙羅がエリザベスに転生した1936年、昭和11年以前から多くの日系人が生活してきたこの街のとある日系新聞社に、現在は小学6年生の沙羅とその家族の姿はあった。

 今回の渡米は表向きにはこちらの新聞社の105周年の祝賀に招かれたからであるが、沙羅にはもうひとつここへ来る目的があった。




 加州新聞社 応接間


「私がエリザベスの時代には、先代の天生社長には随分お世話になりました。マイクやジョージに隠れて社長に江戸前寿司連れてって貰ったり、私が東京に行く際も色々と教えて貰って・・・・・・あ、満州国大連にもこちらの記者さんを何人か連れて行きましたね・・・・・・いやあ懐かしいですなあ」



 目の前の少女が産まれる50年以上前の第二次大戦時の話をし始め、普通なら困惑する所だが、現社長の藤本は沙羅の正体に関しても、博文から通じて日本政府からある程度話を聞いていた事と、ある事情の為、さほど驚く様子はない。

 ちなみにこの会談は2人きりで行われており、沙羅の両親と弟の千寿は別室で沙羅を待つ。



「それで沙羅さん・・・・・・いや、エリザベス元大統領、今度は何をする気です?」



「今度はって社長、貴方まさか!」



「そうです、貴方と同じですよ、今はヒロ・フジモトですが、前世での名は・・・・・・」



 彼が名乗る前に沙羅は気付く。その笑顔の癖は間違いなく彼のものだった。



「ジョージ・シズラーね」



「お久しぶりです、大統領閣下」



「もう大統領じゃないわよ、てか何をする気って私をおてんば娘みたいに言わないでよ」



「いやいや間違ってはないでしょう、あなたの今の曽祖父殿から日本でのお話も伺っておりましたし」



「うーむ、博さん余計な事話したりしてないよなあ・・・・・・まあいいわ、それで何をする気って別にそんな大層な事は考えてないわよ、私はあくまでちょっと日米両政府とパイプがあるだけのただの小学生よ」



「ただの小学生はちょっとでも国家機関とのパイプはないんですけどね・・・・・・まあ大方の予想は付いてますが」



「あら、話が早いわね、流石は合衆国史上最大の問題大統領の補佐官を務めあげた男」



「それ自分で言いますか、ってそんな冗談は置いといてですね、今回の日本とチャイナの戦争の終結に向けてですよね」



「うん、中共は簡単に屈服はしないし、その為の情報収集を依頼されてるから」



「小学生にそんな事頼むとか、傍から見たら日本はおかしくなったと思われそうですね」



「だから超極秘任務なのよ、そしてここには世界中から情報が集まる。いわば情報百貨店よ」



「あなたがこの会社をそうしたんでしょ、それで中国共産党の核兵器は既に完成しているとの情報も入っています、そして合衆国も日本も兵器としての核はおそらく作れはしますが、条約の関係で現状持ち合わせていません、つまり終戦は最悪の形になる可能性は充分にあります・・・・・・」



 沙羅のかつてエリザベスとして大統領の任に就いていた頃より、少なくとも合衆国と日本では法律により核エネルギーは平和利用に限定され、それを利用した兵器の開発は禁止、沙羅や日本の吉田内閣は前世でマンハッタン計画に携わった科学者達を集め、核のエネルギーは平和利用に徹するようにと通達を行った。

  更に日米は大戦終結から20年の節目となる1963年、国連を通じて世界的な核エネルギー兵器利用禁止の条約を実現してみせた。

もし核兵器の開発を行えば、例え条約批准国でなくとも厳しい制裁が課されるという、半ば理不尽めいた内容であったものの、この条約によって核兵器が世界に産み出される事はなくなる・・・・・・はずであった。

























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