接触
平成19年 6月末
梅雨のジメッとした空気が内地の西側から列島を覆い始める頃、野球の練習に行く途中で怪しげな人物を見かけた沙羅はこっそり後を尾ける。
(あの雰囲気は忍者じゃない・・・・・・そもそも忍者なら私に気付くはずよね、それに村松さんみたいに私を見てたわけでもないし・・・・・・やたらキョロキョロしてるし、空き巣の下見かなんかね)
すっかり探偵気取りで尾行する沙羅だが、背後に忍び寄る影に気付かない。
トントン
「?!・・・・・・実咲?」
「沙羅、なんしよっとね」
「ほら、あの男の人、怪しかでしょ」
実咲はたまたま沙羅を見かけ、沙羅が変な動きをしていたので声をかけたのだが、沙羅の指さす人物を見て表情を変える。最近、実咲も随分成長し逞しくなって来ている。
「沙羅、あれ間諜よ」
「浣腸?艦長?海軍さんなん?」
「違う、スパイよスパイ!」
「空き巣じゃないと?」
「いや、あの胸にさしとるペンかライターか分からんけど、ちっちゃいレンズっぽいのが見えるし、何より沙羅の元に現れる不審者なんて・・・・・・」
「え?実咲、もしかして私の前世の事・・・・・・」
「前から沙羅の言動とか、護衛の忍者みたいのが居るっぽいのは気になってたから、ちょっと調べてみたの・・・・・・ごめんね」
「ううん、さすがは軍人の娘ね」
「それはそうと、行くよ」
「行くよって、実咲あんたまさか!」
「突撃は軍隊の伝統よ」
そう言って不審な男に駆け寄って行く実咲を沙羅も、私は軍人になるつもりないんだけどとか言いながら、必死に追いかけて、不審者の眼前へ出てしまう。
「お嬢ちゃん達、どうしたの?」
男は迷子でも見つけたかのような顔で、走ってきた実咲と沙羅を見るが、2人はじっと男の顔を見据えたまま動かない。
そして、走って切らした息を整え、何かに気付いた沙羅が口を開く。
「あなた、合衆国の黒忍者ね」
「!!」
沙羅のその言葉に男は目を見開き、目の前の少女達を見つめる。
黒忍者とは、要人警護や政治的な情報収集を主たる任務とする普通の忍者部隊と異なり、その更に影で時には海外要人の暗殺等も行う、真の忍者部隊とも呼べる者達であった。大戦時、敵の懐に潜入し終戦工作を行っていたのは彼らである。
だから沙羅も初見では忍者と認識できなかったのであるが、なぜ眼前に来て分かったかと言うと・・・・・・
「さっきチラッとあなたの腕が見えたの・・・・・・そして、そこには私が1938年に普通の忍者と区別するために付けた黒忍者の印・・・・・・九曜紋が見えた」
「黒忍者・・・・・・沙羅、一体なんでそんな・・・・・・」
「あの時はナチスの脅威があったし・・・・・・って、そんな事より、なんでこんなとこに黒忍者がいるのかよ今は!」
少女達の会話を聞いて、戸惑いを隠せない男は、答える前に気になる部分を問う。
「お嬢ちゃん、さっき私が・・・って言ってたが、一体どういう意味だ?」
「合衆国第33代大統領、エリザベス・ジョンストン、それが私の前世。そして、前前世と現世での名は井浦沙羅」
「イノウサラ・・・サライノウ・・・・・・SI!!」
「私に会いに来たんなら求めるものは殆どないわよ、この世界の歴史と、前世、私がエリザベスになる前の世界の歴史は全く違うし」
「いや、君に会いに来たのはSI情報の事もあるがそれだけじゃない」
「?」
SI情報の事と他に、もう一つ重要な何かを求め沙羅に接触を図ってきたという黒忍者の男。
合衆国は一体、沙羅に何を求めるというのか・・・・・・
つづく
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