進化



 平成18年 夏



 夏休み、自身と俊弥の所属する少年野球チームの合宿で阿蘇の方へ来た沙羅。

 因みにチーム合宿参加人数は投手捕手野手含め24人、その内女子は沙羅を含め4人のみであり、女子全員が同部屋となる。



「ねぇねぇ沙羅、トシくんとのプライベートバッテリーの方はどうなん?」



 年頃の女の子なのでそういう話も気になる所ではあるが、沙羅は遊撃手の美輝の質問を平然と受け流す。



「別に普通よ、普通の小学生同士の恋愛。さぁ、午後練行くよ」



「えー、前はあんなに話してくれたのにー、うちの正捕手と付き合って余裕出てきたかぁ?」



「美輝、あんたもショートのレギュラー定着間近なんだけんもうちょっと気合入れんとしゃがな、まだまだ男の子達に負けとられんよ!」



「へーい、じゃあいきますかぁ」



 練習中



 先程の態度が嘘のように真面目にノックを受ける美輝。



「っしゃこーい!」



 その様子を見てホッとするエースの沙羅だが、彼女もまた悩みを抱えていた。



「ぅらぁ!」


 バシッ


「・・・・・・ナイスボー」



 捕球した俊弥が微妙な顔をしたのを沙羅は見逃さなかった。



「嘘つきねよ!」



 そう言ってマウンドを駆けおり、俊弥に詰め寄る沙羅。



「最近腕が上手く振れないのよ、あんたが一番分かっとるでしょ」



「うん、じゃあ正直に言うね。腕が振れないって言うのは軸足がしっかり地面に残ってない、という事は体が流れちゃうし、ボールに力が伝わらない。まあ最近沙羅ちゃん身長も伸びたし、今までのバランスが崩れとるって言うのはあるけどね」



「そっか、成長期・・・・・・」



 ここ最近、試合でも変な浮き方をするボールが増えてきたと感じていた沙羅、それでも勝ってはいるもののそれが気にかかり、あまりに考えすぎてそんな根本的な事にも気付けていなかったのだ。あれ、これ野球小説だったっけ?



「まあこれから食事とかトレーニングとかでどうとでも立て直せるよ、僕も出来る事なら一緒に出来るギリギリまで井浦沙羅の球を受けたいしね」



「一緒に出来るギリギリか・・・・・・」



 この世界でも男女が一緒にプレイ出来るのは成長の違いもあり、基本的に15歳頃までで、高校硬式野球部も男女で別れている場合が多い。前世と違う事と言えば、高校女子硬式にも甲子園大会に当たるような大きな大会があったり、女子プロ野球の規模が大きい(球団数も男子と同等、日本選手権等は所謂プロ野球と呼ばれるIPB(帝国プロ野球連盟、前世で言うNPB)の運営)くらいである。

 そして、今回不調の原因に気付けた沙羅は、今後また進化を遂げる事となるのであった。


































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