仕事
平成18年 初夏
既に日本政府、外務省、内務省、国防総省等の上層部にはその正体というか魂の経歴を知られている沙羅。
天才児としてメディアに注目され出した頃、博文がつい憲兵時代の同僚であったベテラン政治家に話してしまい知られたわけであるが、だからと言って政府から沙羅にアプローチ等はなかった。国としても、選挙権(この日本は昭和中期頃から18歳選挙権)すらない小学生に何を頼っても仕方ないとの向きがあったからである。
だが、ここの所その向きというのも変わりつつあった。
「私みたいな小学生に助言求めるとか、大丈夫この国?」
熊本市内、米国系のファストフード店でそう嫌味たらしく言い放ってシェイクを飲みつつ、眼前に座る若い男性を見つめる沙羅。彼は内務省の役人であり、中央から沙羅の事を伝えられ、今回はあまり目立たないようにと私服で沙羅との会談を行っていた。
「曽祖父殿に聞いた通りはっきりしたお嬢様ですな・・・・・・」
「お嬢様って・・・・・・博さんの事は知ってるんですね」
「はい、あの方と貴方・・・エリザベス元大統領はこの日本国が名実共に東アジアの盟主となるきっかけを作ったお方ですし」
「買いかぶりすぎね。それで、なんで内務省が貴方を私によこしたのか気になるんですが?防災省は?」
「防災省はこういう仕事のやり方はあまりしないようですし、その、内務省は漢字の通り内務、大日本国内の事はほぼ管轄しておりまして・・・・・・それで、これから起こる災害についてやそれからの復興に関する助言をお嬢様に貰いたいと」
「はぁ・・・ではまずそのお嬢様ってのはやめてください、なんかムズムズするので」
「ではなんと?」
「沙羅でいいですよ」
「はい、沙羅さんの前世で記憶している災害等はこの世界でも発生しているんですよね?」
「ええ、私の生まれる1年前の阪神淡路大震災もそうですし、平成11年の台風や翌年の芸予地震、平成15年の宮城沖地震、平成16年の台風や中越の地震・・・・・・前世ではこの時期は日本領でなかった外地や朝鮮台湾樺太千島に関しては分かりませんが、北海道から九州の本土四島に於ける大きなものは大体記憶しており、時期的にも前世と一致します」
「これから起こるであろう事も?」
「おそらく・・・大きい物で言えば、再来年の平成20年、岩手県と宮城県の内陸部でかなり強い地震があります。平成22年は昭和35年の時程ではないにしろ遠くチリの地震の津波が三陸沿岸を襲います。そして平成23年3月11日・・・・・・」
「政府内部でも噂の超巨大地震ですか?」
「はい、震源は三陸宮城沖ですが、そっから茨城沖までの3つの断層が連動して、地震の規模の大きさを示すマグニチュード、この世界にもあるいわゆるモーメントマグニチュードの値は9.0まで達します。地震と大津波で特に南三陸から千葉県の沿岸地域は壊滅的な被害を受けます、この世界の日本では堤防建設、産業分散等にも力を入れているようですが、それでも相当の犠牲者、経済被害を覚悟せねばならないでしょう」
SI情報があるとはいえ、あの超巨大地震が齎した前世の被害範囲やその総額を考えると、現世でも万全な対策はもとより望めないと断言する沙羅。
「前世の福島の大熊町や双葉町、浪江町にまたがっていた原発は現世にはないのでその事故の心配はないですが、津波は特に早いところだと地震発生から数分で、警報も間に合わずに到達します」
「そして、青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉までも・・・・・・そんな地震が本当に発生するとは到底・・・・・・・・・」
「前世の私達や日本政府も実際に起きる前はそうでした」
「では今の日本に出来ることは・・・・・・」
「人的被害を少なくする事に絞り、今一度防災省の方とも調整し、避難勧告等の在り方や宅地造成、避難を円滑にする為の道路の整備を見直すべきでしょう」
そう助言して、内務省の役人と別れた沙羅。
帰宅後、これからこの世界でもまたそういう仕事をしなきゃならんのかと一人ため息を付き、眠りについた。
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