博さん米寿祝



 ここで時系列は少し戻って平成十四年の夏。

 沙羅の祖父母らの主催で沙羅の父方の曾祖父、博文の米寿祝が開催された。



「ひいおじいちゃん米寿おめでとう!」



「ありがとう、沙羅」



 沙羅が花束を渡し、博文が挨拶を終え、大人達はビール、子供達はジュースでそれぞれ乾杯して、楽しい宴席が始まる。

 そのうち、大人達は酔いが回り、子供達も飽きてくる中、沙羅が中心の博文に擦り寄る。



「博さん、改めておめでとう」



「ありがとうございます、これでもういつ逝ってもいいですね」



「バカ、もう!縁起でもない事言わんでよ」



「でも最期にもう一回横浜に行きたいですね」



「私達が初めて出会った、出会ったのは東京だけど、初めて二人で行った場所ね。てか最期とかまだ早いたい」



「いやいや、年寄りになると飛行機に乗るのも一苦労なんですよ、それに今は歩けてますが、ちょっと骨折でもすると年寄りの体じゃ・・・・・・」



「そっか・・・・・・じいちゃん達に一回言ってみようかな」



「孫の言う事なら多分何とかしてくれますよ、あいつは沙羅さんの事、相当可愛がってますから」



「そうかねえ・・・・・・」



 じゃあ一度言ってみようかなと考えた沙羅は、この時は酔っ払って後で覚えてないかもしれないので、数日後、素面の祖父に相談してみる事にしたのだが・・・・・・



「沙羅、今度じいちゃん達とパパとママと皆で横浜に行こうか?」



 まさかの祖父側から提案され、キョトンとする沙羅だが、一応色々と確認しておく。



「ひいじいちゃんも?」



「そうたい。ひいじいちゃんも後何回遠出でくっか分からんけんね」



「ばってんお金とか大丈夫なん?」



「そぎゃんとは沙羅が心配せんでよか」



「うん・・・ほんで、いつ行くと?」



 もう一度、博文と思い出の地へ。沙羅は、いつになくワクワクしていた。





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