恋
前回、実咲の恋バナを聞いた沙羅は、その恋を応援しようと思っていたのだが······
「恋って何だっけ」
そう、沙羅はエリザベスとして転生後、再び転生して今に至るまで、恋と言うものをしてこなかった。
元の沙羅、エリザベス合わせて50年という人生の記憶や経験がある分、幼稚園で同級生の子達を見ても、可愛い子供としか思えなかったのである。
かといって年上といっても離れすぎているような子らばかり······
そんな風に考え込んでいると、隣の実咲が声をかけてくる。
「沙羅ちゃん、どしたん?」
「あー···あんね、みーちゃん。男の子を好きになるってどんな感じ?」
「え、そんなん沙羅ちゃんの方が分かっとっとじゃにゃーと?」
「なんで?」
「なんでって、この前私が好きなひとおるって話した時、沙羅ちゃん凄い経験ありそうな感じやったし」
「んねんね、近所のお姉ちゃんが話してたの受け売りしただけたい」
「あーね。ばってん沙羅ちゃん、本当たまに大人みたいな事言う時あるけん、そうなんかなって」
沙羅としてはだいぶ自然体で子供らしく振舞っているつもりでも、やはり自覚無しにババアの部分が出てくる事があった。ロリババアである。
「私達まだ一年生よ?そぎゃんとっかえひっかえとかできんたい」
「とっかえ?」
「あ、いや、なんでもない。話戻すばってん、好きになるってどんな感じなん?」
「んー、えーとね、なんかこう······好きって感じかな」
「そうね······」
「私もまだよく分からん」
「そっか、そうよね」
まあ同じ子供に聞いてもそりゃそうか、と沙羅はこれ以上考える事を辞めた。
数日後
沙羅はクラスメートの男子達と、近くのグラウンドを借りて野球をしていた。
「やっぱマウンドっていいね」
「沙羅ちゃん、女子は危ないけんレフトに居ろって言うたのに」
そう言うのは沙羅側のチームの捕手をやる三藤俊弥。
「なんねトシちゃん、女だけんってなめとっと?」
「そういうわけじゃないけどたい······」
「てか他にピッチャー出来るのおらんやん、さしより投球練習始めよっか」
「もう分かったよ······」
結局、キャッチャーボックスに戻って沙羅の投球を待つ俊弥。
(怪我でもされたら、僕達が親に色々言われるの分かっとっとかな沙羅ちゃん······)
「じゃあまずは軽く行くよー!」
「おーけー!」(もうしょんにゃーか)
パン!
「え?沙羅ちゃん、軽くって言ったよね?」
「だけん、だいぶ軽く投げたたい」
これで?と困惑する俊弥。
「ちょ、タンマ!」
彼は再びマウンド上の沙羅の元へ行く。
「どうしたん?」
「どうしたじゃないよ!今のも軽く80キロは出てたよ!」
「そりゃそうでしょ、トシくんは経験者だし捕れるかなって」
「捕れるけど!それにしてもさ······沙羅ちゃん、初めて僕達会った幼稚園の時はそんな速い球とか投げてなかったやん」
「あれは遊びだし、今は試合でしょ?」
「試合と言っても部活でもなんでもないこれも遊びだよ?!」
「分かった、少し抑える」
「うん、それで充分勝てるから」
「?」
「僕だって負けたくはない、いや、沙羅ちゃんが投げるのに負けさせたくないからね」
「!!」(今のドキッって何······)
これが、沙羅の初めて異性を意識した瞬間であった。
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