忘れていたもの



 この世界で自身本人として再び転生した沙羅は、その奇妙な人生の中で長らく忘れていたものを思い出していた。



(政治的なしがらみとか権力闘争もない普通の日常・・・家族がいて、友達がいて・・・・・・そんな当たり前な幸せを長らく忘れていたなんて・・・・・・)



 そして平成15年の春、沙羅は小学校に入学する。



「沙羅ももう1年生か」



「うん!さら、小学校楽しみ!」(幼稚園でも前世と同じ友達は居たし、学校でも!)



「ほら、ランドセル背負からってみせて」



 本人よりも両親の方がテンション高めで、沙羅もクスッと微笑む。



(なんか懐かしいなこの感じ)



 数日後、両親と共に祖父母達へも晴れ姿を見せに行った沙羅。

 父方の家では、博文が感慨深げにランドセルを背負う沙羅を見守る。



(沙羅さん、可愛いですね)



(あんた、もうボケてんじゃないの?)



(ボケてませんよ)



 ひそひそと話す二人を微笑みつつ見守る周りの者たち。



「沙羅ちゃんは本当にひいじいちゃん好きねえ」



「うん!だって昔の話とか面白いもん」



「まあ確かに、アメリカの元大統領の人と一緒に居たなんて、ばあちゃんも最初は嘘だと思ったもんね」



(あんた、変な話してないでしょうね?)



(変な話って別に、そんな事は・・・あっ)



(あって何よ!)



(まあまあ。笑い話になってますから)



「本当に仲良いわね。お義父さんも、沙羅ちゃんが大人になるまで長生きしてくださいね」



「お、おう・・・まあボケちゃったら、さっさと見捨てていいからな」



「何言ってるんですか!まったく」



「はっはっはっ」



「親父は当分死なんよ」



(じいちゃんの言う通りね)



 その後、大人達は入学祝いとばかりに酒盛りを始めた為、沙羅は博文と二人きりで遊んでいた。



「本当に博さん、長生きしてよね。せっかくこうしてまた会えたんだし」



「はっはっはっ。大丈夫、沙羅さんが立派な大人になるまでは死ねません」



「そういうのフラグっぽいからやめてよ」



「確かにそうですね。沙羅さんも、今度は大人になっても酒や煙草は控えるように」



「はいはい」



 これより数週間後、入学式を終えた沙羅は早速、学校で新しい友達が出来た。



「わたし、みさきっていうの」



「わたしはさら」



「さらちゃんはおうちどこなの?」



「二町内だよ」



「そうなんだ。私は三町内だよ」



「みさきちゃん、これから遊べる?」



「うん!ママに言ってくんね!」



(そうそう、こういうのよ、こういうの。学校で勉強して、友達と遊んで・・・・・・幸せだなぁ)



 久しぶりに子供の時の純粋な気持ちを思い出し、学校の友人達との時を大切にしようと思う沙羅であった。












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