大日本
ここで時系列は少し飛び、平成14年の暮れの事・・・・・・
沙羅の通う幼稚園では第二次欧州大戦戦勝(講和でなく降伏確認、戦闘停止日から換算)60年を記念して、特別授業を行う事になった。
「皆さんが生まれるずーっと前の時代、日本の国はアメリカやイギリスと一緒に大きな戦争を戦いました。どこと戦ったか分かる人?」
「はい!ドイツです!(60年前って結構近いけどな)」
沙羅が手を挙げて答える。が、教師は怪訝な顔をする。
「沙羅ちゃん、その挙手の仕方は今後控えてくださいね」
と諭され、沙羅はようやく自分の今の行為の持つ意味に気付く。
(あ、ナチス式敬礼!そっか、この世界じゃ日本でもってか、日本じゃ特にタブーか!)
「はい、すみませんでした。先生、お話を続けてください」
「はい。沙羅ちゃんの言う通り、日本は昔、ドイツと戦争をしました。でも、日本は戦争をしたかったわけじゃないの。でも、なんで戦争をする事になったのかな、わかる人?」
なんでだろうと他の子が考え込む中、沙羅は今度は指を上げて答える。自分が見てきた歴史だから鮮明に覚えていた。
「当時、我が日本、そしてアメリカの民間船がドイツ潜水艦によって撃沈される事件が相次いだからです。それに、ドイツ在留日本人が抑圧されていたからです。(満洲に逃げてきた人達の様子も酷いもんだった・・・・・・)」
「抑圧なんて言葉よく知ってるね・・・・・・そうね、日本は宣戦布告・・・つまり、ドイツに対して戦争をすると言う前に、満州国、イギリス、アメリカと共同でドイツ在留の日本人やユダヤ系の人、スラブ人とか差別や迫害を受けていた人達を助け出してたんだけど、それでも数多くの・・・特に日本人やユダヤ系の人達がドイツに取り残されて、酷い扱いを受けてた。そして、沙羅ちゃんが言ったように日本の軍艦じゃない船が撃沈されたりして、日本は同じく中立を保ってたアメリカと一緒にヨーロッパの戦争に参加する事になったの」
そうだったんだーひどいねードイツって等と教室中がざわめき立つ。
「でもね皆、ドイツは本当はいい国だし、ドイツの人達も皆いい人達なの。じゃあドイツはなんで戦争を起こしちゃったかっていうと・・・・・・」
そこから教師はヒトラーや国家社会主義の台頭、ナチス・ドイツの誕生、戦争になった経緯を大まかに分かりやすく説明していく。
「そして、ヒトラー総統やゲッベルス宣伝大臣、ヒムラー親衛隊長官などのナチス党の上に居た人達は我が帝国軍に逮捕されて、その後死刑になりました。ドイツはドイツ国民の手で復興して、今は日本やアメリカとも同盟を結んで友好国、仲良しな国となってますね」
(まあ日本とアメリカの掌の上だけどね・・・前世の日本みたいなもん。日本も戦勝国となれば、そうなるか)
自分達の仕組んだ事とはいえ、少しこの世界のドイツに同情する沙羅。
彼女はこれまでにも戦勝国日本、戦勝国民となった日本人の嫌な姿を少なからず見てきていた。
そして、帰宅後
(この世界の日本は本当に大きい国ね・・・・・・)
樺太、千島、北海道、本州、四国、九州、南西諸島に台湾島や南洋の島々まで描かれた「大日本全図」を見ながら、沙羅は心の中で呟く。
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