記憶
平成11年 9月上旬
沙羅は前世の元の沙羅の記憶と、この世界でのエリザベスとして、そして沙羅として産まれてからの記憶を繋ぎ合わせてみた。
(そういえば戦争とか経済とかの歴史は全然違うけど、自然災害なんかに関しては今んとこ完璧記憶通りなのよね・・・・・・地球は地球って事か。てか元号もまさか平成そのままとは思わんかったわ、なんでなん)
「災害が記憶通りって事は今年あの台風来るやん・・・・・・」
沙羅の言うあの台風とは、平成11年台風18号の事である。
この台風は強い勢力で熊本県北部に上陸。満潮と重なった事で、宇土郡不知火町(当時)で高潮被害により12人もの人達が犠牲になった。
「エリザベスの時に防災減災に関して日本政府にかなり働きかけてたから、前世より被害は少ないかもだけど・・・・・・」
実際、この世界の日本はエリザベス=沙羅のもたらした未来のメタ情報によって、雨雲レーダー、天気観測衛星の整備や河川補修、地震観測網の整備も早く進み、前世よりは、自然災害による人的被害は少なく済んでいた。
「まあ、台風はもう予測できるもんだしいいけど・・・・・・」
ひとり呟いていると、両親が不思議そうに沙羅を見つめる。
「沙羅、どうした?」
(あっ・・・お父さんお母さんの前だって忘れてた。私達の家の方はそんな被害なかったけど、でも言うべきなのかな・・・・・・)
「う、ううん。なんでもない」
「そっか。沙羅、お風呂入ろっか」
「うん!」
結局、台風の事は言い出せず、父とお風呂に入る沙羅。
「ねえ、ぱぱ」
「ん?どした?」
「さらね、いっぱいおべんきょうとかできてすごいねって、よーちえんでせんせーにほめられたの」(やっぱり言えない・・・夢の話にしても、具体的すぎておかしいもん・・・・・・)
「おお、よかったなぁ」
結局、他愛もない話をして、風呂を上がり、歯磨きをして眠りにつく沙羅。
翌日 幼稚園
「さらちゃん、あしょぼ」
「うん」
幼稚園で同級生と遊ぶ沙羅。遊びながらも、台風やその他の前世の記憶の事を周りの大人達に話すべきなのか悩む。
「でも、子供の言う事なんて真剣に聞いて貰えるかな・・・・・・」
「さらちゃん、どーちたの?」
「う、ううん。なんでもない」
色々考えたが、台風なら予測は出来るから大丈夫だろうと、沙羅は最終的に何も言わない事にした。
そして、その24日・・・・・・
『えー、現在不知火町の高潮被害現場上空に来ています。民家がかなり押し流されたような形ですが、町は事前に避難命令を行い、住民の方達は早めに避難し、幸いにも犠牲者は出ませんでした!』
テレビの中で、上空からの映像と共に、リポーターが状況を伝える。
(犠牲者12人のはずが0?!でも、よかった。他も人的被害はかなり少ない・・・・・・)
高潮自体はやはり襲ってきたが、この世界では人的被害が出なかった。
その事に安堵すると共に、この世界の日本の防災体制の進歩に感心する沙羅であった。
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