博さん



 平成11年 ゴールデンウィーク


 連休中、祖父母宅に預けられた沙羅は、子供の特権をフルに活用し、エリザベスの時に自ら持ち込んだ連休を満喫していた。

 それと、前世の世界線では太平洋で戦死し、会ったこともなかった曾祖父も存命。その曾祖父と言うのがつまり、博文である。



「ひいじいちゃん・・・・・・いえ、博さん?」



「曾孫の名前が沙羅と決まった時、もしかしてと思ったが・・・・・・転生、してきたのですね。沙羅さん!」



 傍から見ると、3歳の曾孫に敬語で話す曾祖父と色々おかしいが、二人の会話は祖父母達へは聞こえていない。



「それにしても、本当すっかりおじいちゃんになっちゃって」



「そりゃもう84歳ですからね」



「覚えててくれたんだ、私の事」



「この50年近く、一度も沙羅さんを忘れた事なんてありませんよ」



「・・・・・・これまで、ここには幾度も来てたけど、言葉喋れるようになって、ちゃんと博さんと話したかった」



「そういう事ですか。今も、とても普通の3歳児の話しぶりではないですがね」



「そりゃ、前世で30年、この世界のエリザベスさんと20年、50年の人生経験を積んできたんだよ?それで、博さんはじいちゃん達に連れられて熊本へ?」



「ええ。妻は体が弱く早くに病で亡くなり、残されて憔悴していた僕を見かねた息子夫婦が熊本で一緒に暮らそうと言ってくれました。おかげで、沙羅さんとまた会う事もできました」



「そうなんだ・・・しかし、こんな子供の姿で敬語使われるのも違和感あるね」



「はは、確かにそうですね。でも、僕にとっては園児でもなんでもあの頃の沙羅さんのままですから、ついこうなっちゃいます」



 幼い曾孫の顔に、あのエリザベスの顔を思い浮かべる博文。



「ふふふ、博さんもあの頃の博さんのままね。よかった・・・・・・本当、私の事なんて忘れちゃったかなって」



 と、ここで祖母に呼ばれ、博文の部屋を出ていく沙羅。



「沙羅ちゃん、ひいじいちゃんと何のお話しとったん?」


「えーとね、よーちえんのおはなしとか!」


 遠くで博文の吹き出すような声が聞こえた気がしたが、無視してばあちゃんと話を続ける沙羅。



「パパもママも、おしごといそがしーだって。だけんね、さらいいこにしてまっとるの」



「沙羅ちゃん・・・・・・」



 いくら自ら歴史を変えたとはいえ、この世界の両親も多少は苦労しているのを沙羅は感じていた。

 彼女が前世世界で自衛隊に入ったのは、災害時の体験もあったが、そういう事情があったからなのだ。



「でもじいちゃんもばあちゃんもひろ・・・ひいじいちゃんもおるけん、さらいっちょんさみしないよ」



「そうね・・・・・・さらちゃん、ばあちゃん達んはいつでん来てよかけんね」



「うん!ありがとう、ばあちゃん!」



 そして数日過ごした後、今度は母方の祖父母宅へ行き、両親と自宅へ帰る沙羅。

 博さんに会えるのは後何回だろう等と考えながら、帰りの車中で眠りにつくのであった。








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