第5話 No.64
小さな紙に大きなことを書いて死んでいった祖父。
わざわざ残すくらいだから、誰かに伝えたかったことなのだろう。
そんな、女々しい祖父の想いを感じたとき、No.64の文字の前にたじろぐ自分があほらしく思えた。
深夜、物音を立てぬよう慎重に開いた。狂気じみたNo.31は放置し、カバーが気持ち新しい手帳を拾い上げる。構ってほしそうな祖父がそこにいると信じて、不安を握りつぶした。
この手帳はどうやら、途中から白紙のようだ。全体的に、荒ぶった字でもなく、年老いたというか、熟成したというのか、余裕を感じた。さらには、折り目がない。どこから見ろと指示がないことから、最初から見ることにした。
No.64 1989年4月9日 相変わらず金田国議会は安泰である 15年は続いた 例の星野を潰したのが良かったのだろう 金田センセとはこれからも仲良くしていきたい
(中略)
1989年6月17日 天仰陛下逝去 新年号幕開け 金田国議会支持率過去最高 星野を金田センセと潰してはや20年 おかげでこちらの仕事も潤っているし、これからもひいきにしてもらいたい
(中略)
1990年3月24日 新入り菅野が同行 気が利く後輩で、これから伸びるのではと期待
(中略)
1999年7月6日 菅野がおいしい情報を握ったと報告 だが、何故か話さない 同時に金田センセサイドから電報 嫌な予感が的中する
1999年7月7日 例の星野の件で金田センセと協力し、様々な証拠と情報操作をした ついでに「反金田」系の国議員を徹底的に潰した 見返りとして、一家が不自由なく暮らせる費用を頂いていた さらに、多民党金田国議長の息のかかった記者として、仕事を優先してもらった これらが明るみに出たら終わりだ 金田センセと協力し、動くことにした
ここでNo.64は途切れた。一体、祖父が具体的に何をしたのかはこの手帳からは読み取ることができない。
このままでは行き詰ってしまう。そう思った私は、残りの空ページをひとつひとつたどっていった。いや、たどるしかなかった。そして、縦書きの住所を見つけ、颯爽と駆けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。