第4話 事実

 祖父の部屋から奪ってきた二冊の手帳を開いてみる。No.31とNo.64とそれぞれページ頭に記されている。なぜ、この二冊がジャケットにしまわれていたかもう知ることはできない。


 まず、No.31を開いてみる。相当痛みが激しい。”本”として成立しているのがやっとだ。パラパラとめくっていくが、とても読めたものじゃない。行書体というより、殴り書きと呼べる書き方。明らかに、異常な人間が書いたものだと伝わってくる。それは同時に、ペンのスピードが記録したいもの事に追いついてないことを示している。

 いくらかめくっていくうちに、ここを開けと言わんばかりにページが折られていた。きっと祖父の指示なんだろうが、あてにしていいものか半信半疑で折られたページを開いてみる。


No.31 1967年6月14日 星野国議会のウラ 星野国議会会長及び変革党星野派 司法議会及びA級大企業、書読新聞社の買収、懐柔、恐喝等の私物化の動きあり 音声、写真他の証拠あり 


とメモしたうえで最後に


俺が星野潰しの謎記者だ


と書かれていた。


 1967年7月、メモ通り星野国議会は崩壊した。様々な政治的違法行為を繰り返していたことがバレて、最終的には星野がいた変革党そのものが解体されるという異様な事件は、戦後一二を争う政治スキャンダルとして有名だ。さらに異彩を放つのは、すっぱ抜いた記者が「謎記者」と本名を隠していることだ。「本名が分からない記者の言うことなんて信用ならん」と当初豪語していた星野だったが、日を追うごとに証拠写真や音声、さらには関係者の裏切りの告白もあり、当時の世間は荒れに荒れたという。


 まさか、祖父が「謎記者」だとは思いもしなかった。

 あまりの事実に絶句する。

 さすがに、このまま次の手帳には行けない。

 夜中三時。私は手帳を引き出しに隠して、眠りに就いた。

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