第2話 回想
ここ数年の祖父は、認知症が進行していた。だが、体は割と丈夫で死ぬ2か月前までは一人で徘徊するほど、ある意味健康だった。それだけで、孫である私には自慢の祖父だった。
葬式が行われた。無論、小さなものである。わざわざ葬式に来る親族も多い方ではない家系だし、祖父の交友関係もやたらめったらいるわけでもない。しかし、ひとりひとりが弱くも濃い思い出話があることに、さらに胸を張れた。
バタバタと祖父の葬式が終わり、いろいろと思い詰めた日々から解放された。ぐったりと休みたい。そんな気分の今だが、やはり祖父の言っていたことが気になる。いろいろと紐解いていこう。
「国議員のスキャンダルを拾ってきた若者」その若者が気になるが、それ以前に国議員のスキャンダルに照準を合わせる。確かに祖父は10年前まで記者だった。とはいえ、私が知っている記者「祖父」はそんな危なっかしい記事を書く記者ではない。私が知っている「祖父」は、
『季節のたより 椛がきれいな○○公園 ・・・』
のような、万人受けかつおっとりとしたものだ。仮に編集事務所でスキャンダルを書く若者と出会ったにせよ、若者が祖父においしい話を漏らすはずがない。いや、漏らす意味がない。
「異例だと思って調べ上げようとしたが、」この点から、祖父は昔は嘘かほんとかわからないような、スキャンダル関連の仕事をしていた、出来る立場だということが察せられる。ここまでくると、何年前までそっち側の世界にいたのか、気になりだす。
「その指が怖くて怖くて、逃げ出した。」優しい祖父であったが、一度だけ怒鳴りつけられたことがあるのを思い出した。指を差したときである。小さいころに怒られたことというのは、トラウマのように脳裏に残る人が多いが、私のトラウマはまさにそれである。
「あ、じいちゃんだ」
と軽々しく指を差した途端、
「人を指さすな」
と怒号した祖父。その由来は、これかもしれないと小さな発見を得た。
とりあえずはここまでしかわからなかった。「若者」いや「そいつ」が何者なのか、「例の情報」とは何のことなのかが分からないと話が進んでいかない。
今は寝よう。疲れているし。何より、トラウマだが祖父との思い出がまた一つ増えたから。
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