祖父と指と闇
藍咲 慶
第1話 祖父
「・・・ある国議員のスキャンダルを拾ってきた若者がいてな。こいつはすげえことになりそうだ、とそいつはその情報を握りしめていろんな会社に売り込みに行った。多分だが、各社そろってそいつから高値で買い取ったらしい。冷や汗をかきながらもどこか笑っているそいつは、まるで革命でも引き起こそうとしているような感じがしたよ。
だが、その日の朝刊は「急なトラブル」と言って各社休刊になった。一社ならまだしも全社このありさまでは”何か”あったのはさすがにわかる。仕方ないと思ってテレビをつけたが、”何か”を伝えているテレビはなかった。
そいつは、訴えられた。しかも、相手は国議員ではなく国だ。異例だと思って調べ上げようとしたが、この件に関わるなと会社に脅された。だが、様子がおかしいと思ってそいつの家に行こうと近くまで来たら、黒服に手を出された。『これ以上近づいたら消すぞ』と言われたらジャーナリストとしてのプライドなんてそこらのゴミ集積場に捨てた。その後、そいつの裁判は一切報道されなかった。そいつの生存も実はわからなかった。というか、調べようがなかった。会社には脅され、よくわからない黒服に殴られれば忘れたふりをするのも当然だろう。
そいつのデスクには使えない新人が入り、そいつの顔が懐かしく感じるころ一通の手紙が届いた。【ここに来い】の一言。誰だか知らない。が、こういう手紙はおいしい情報か罠の二択。記者として行くしかないと思った。
そいつは、雑居ビルの一角にどっしりと構えていた。おぉと声が漏れるとそいつはフフフと癪に障る笑いを放った。そしてそのまま、『いやぁ、あのまま和解で住んでね』と勝者の余裕をぷんぷん匂わせてきた。例の情報は大っぴらにしないのかと問うと『しない』の一言。それでいいのかと問うと『何、得るものは得た』と万年筆と人差し指が同化した物体で私を差した。その指が怖くて怖くて、逃げ出した。」
ボケた老人とは思えない眼差しで、スラスラと嘘くさい話を浴びせられた。だが、不思議と信じられる気がした。
その話をもう一度聞きたくて、祖父の家に上がり込んでみれば祖父は音を立てずに寝ていた。
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