第144話 レベル上げしよかっ

リンディエールは昨日、聖皇国へと散歩感覚で朝から出掛けていた。


翌日に他国の王達との面会があるというのに、全く気にしていないのはリンディエールらしい所だ。


ここに来たのは、前日にある事を知ったためだ。


「ほんまにこの地下にあるん!? けど、あれや! 大体、教会の地下には、アンデット系の出る迷宮があるのがお約束やでな!」


それは、女神からのチャットによってもたらされた情報だった。


数日前にリンディエールは、オススメの迷宮はないかと何気ない質問を神にしていた。というか、ただブツブツと眠る前に呟いただけだ。


『神さんもさあ、うちを見とるんなら、変わった迷宮とかあ〜、あんま人が行かん迷宮とかあ〜、効率の良いオススメ迷宮とかあ〜、教えてくれてもええんやない?』


という感じで、呟いていたのだ。すると、ビビッと何かを感じ、直感的に返事が来たと理解した。


その時のチャット内容がこれだ。


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あるわよ〜♪

今ある大きな国の地下には〜

大体、あるわねえ。

いざという時の天罰用?

国丸ごと消してやるわっ!

って気持ちで作ったやつ〜

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この事実に、何してんだこの神はとリンディエールでもドン引きした。


ないわとの答えに対して、神は『若気のいたりってやつよ〜』と言っていた。


いつだって滅ぼしてやるという、意気込みが、かつては強くあったようだ。


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効率的って言うなら〜

オススメは聖皇国の地下かしらん?

定番のアンデット系よ♪

これがお望みでしょって

ぶっ込んでやったわ(笑)

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勇者達を監視しながら、それが異世界での定番と知った神は、それなら望み通り臭いのを作ってやるわと作ってしまったらしい。


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けどやっぱり臭いの嫌だしい

一度浄化できたら地下都市?

地下街?として使えるようにしたわ

というかあ

国の地下にあるのは、全部

踏破したら魔物が沸かなくなるように

設定し直したから

そのまま秘密基地とかにでも

使っちゃって♪

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国の真下などというのは、色々と不安な場所だ。それに、ずっと地下に爆弾を抱えているようなものではないかと思った。それならばとリンディエールは暇つぶしにもなるし、これらを攻略してしまおうと決めた。


その第一弾が聖皇国。リンディエールも臭いのは嫌だ。嫌な事は先に済ませるに限る。


そうして、聖皇国にやって来たリンディエールだったが、久しぶりに教会内を隠密行動で移動して誰にも気付かれずに進み、理不尽に隠し部屋に閉じ込められている者はもういないかという確認をしてからでも遅くはない。


一時間ほど彷徨うろつき、そしてついでに、教皇であるソルマルトの顔を見ておこうと、彼の執務室へと突撃した。


「やっほー。ソルじいちゃん、あっそびっましょ〜っ」

「……リンちゃん……?」

「「「「「っ????」」」」」


居合わせた五人の神官達が驚き、誰だと一歩後退る。


教皇ソルマルトとリンディエールの間を視線が激しく行ったり来たりするのは、ソルマルトが『リンちゃん』と呼んだからだろう。


相手が子どもであっても、ソルマルトはちゃん付けで呼ぶ人ではないのだから。しかし、そんな視線は気にせずリンディエールは部屋に入り込む。


「なんや。若いのばっかりやん。じいちゃんの補佐? 弟子か?」


五人の神官達は、見た目の平均年齢が四十半ばだ。ソルマルトに息子がいれば、その世代だろう。だからリンディエールは秘書的な存在か弟子だと思った。


「いえ……新しい大司教達です……今までの者は、ほぼ罪人として捕まりましたので……」

「あ〜……えらい腹黒タヌキさんがいっぱいやったもんなあ」


綺麗に頭が変わってしまったらしい。実際、上の方の者が八割ほど、顔ぶれが変わったようだ。


「けど、大司教にしては、若過ぎん?」

「ええ……ですがどうにも……人材が足りませんで……派遣している者達を動かすのは、今の状態ですと更に印象が悪くなりますし……ここはここでやっていくしかないとの結論が出ました」

「そうなん? それは……う〜ん……」

「……」


考え込むリンディエール。気になっているのは、大司教となった者達の年齢だ。本来ならば、人生経験も豊富な者が、その経験に基づいて役割りを担うもののはず。


それに、次の教皇も彼らの中から決まることになる。それは、とても若く人生経験の浅い者が教皇になるということ。


神に仕える者達なのだ。経験と徳を積んだ者が相応しい。


そこまで考えて、リンディエールは決めた。


「よしっ! ソルじいちゃん! レベル上げしよかっ」

「レべ……わ、私がですか?」

「せやでっ。この人らがしっかりするまで長生きせなあかんやん? やから、レベル上げや! 百超えると、肉体的にも若返るんよ。その先は、レベルイコール肉体寿命って傾向があるでな」

「それは……レベルが百ならば、百歳……までは生きられると?」

「そういうことや! ソルじいちゃんは、とりあえず大還暦! 百二十まではいっとこか!」

「百二っ……!?」

「「「「「っ!?」」」」」


五人の神官達は、子どもが何を言っているのかと顔を顰めるというより、危ない事をするのを心配するような顔をしていた。


どうやら、彼らは好い人達のようだ。逆に人が好過ぎて、問題が起きないか心配になる。


「お兄さんらは、今度な。今日はソルじいちゃんだけ連れてくわ。ってなわけで、ソルじいちゃん。迷宮行こか」

「迷宮……っ……私が……」

「あ、心配せんでも、それなりに戦えるだけのレベルになるまでは、パワーレベリングで行くでな。それに、万が一怪我しても、うちが速攻で治したるわっ! 頭さえ残っとれば、きちんと元に戻したるでな!」

「……へ……?」

「「「「「……え……」」」」」


彼らの頭は、理解することを拒否したようだ。










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