第143話 囮になったん?

一同はその後食事も楽しみ、ヒストリアにも慣れてきた。


アーネスト女王は、少し考える様子を見せながらヒストリアへ問いかける。


「我が国ににも、その昔、魔族や竜人族との交流があったとは聞いたことがあるのだが……もはや伝説の域だったはずだ……リンの侍従を見て、もしやとは思ったがな……本当に存在するとは」

「俺も驚いたぜ。容姿についての情報は、一応頭にあったが、本当に出会うことがあるとはなあ。その上、竜人族とは……」


改めて、バーグナー王もその存在に驚いていた。リンの友人ということで、一旦は呑み込んだが、落ち着いてくると、戸惑うようだ。


《まあ、そうだろうな。俺がこちらで暴れてから、この大陸に存在した魔族や竜人族は全て国に戻ったはずだ》


ヒストリアと敵対する人々を見て、魔族達はこの大陸を見限ったのだ。


《勇者という存在が、少なくなっていた魔族達を悪と決めつけ、女や子どもにも切りかかっていたのでな。人族と婚姻していても、その縁を切って、国に戻っただろう》


これを聞いて一同は、あまりの事情に呆然とする。


リンディエールは、グランギリアへ問いかけた。ヒストリアから、ここまでは聞いていなかったのだ。何より、ヒストリアは確認まで出来ていないように感じた。


出国というか、避難というか、そこまでの確認をする前に、ヒストリアはここに封印されたのだろう。


「ヒーちゃん……囮になったん? そんなん、聞いとらんけど」

《あ、ああ……まあ、立場上な……魔族や竜人族は実力主義のような所があってな。一応、当時一番強かったのだ。だから、逃げる時間稼ぎのためにもと……全部逃げられたのかどうかは知らんが……初めの頃は、ここから魔法的な干渉も何も出来なかったからな》


そこまでの余裕もなかったようだ。今でこそ、外に干渉も出来るようになったが、封印された当初は、外の気配を探ることさえ出来なかったらしい。


使い魔なんてものも外に出せず、ただここに存在しているだけの状態だったようだ。


ならばと、リンディエールは後ろを振り向く。


「グラン。確認できとる? 向こうの記録ではどうなっとるん?」

「そうですね……さすがに私も、その頃のことは知りませんが、記録では多くの者が全ての縁を切って帰国し、以降海を越えて来た者を許さなかったと……」

「ん? 過去形?」


グランギリアの言い様に引っ掛かりを覚えたリンディエールは首を傾げて見せる。これにグランギリアは頷いた。


「はい。交流が無くなれば、早々に人族は寿命を迎えるようになります。学者達の計算では、この二、三百年で、長く保ったとしても、我々ほどの魔力は持てない世代となると……それならば、あの海を越えることは出来ないだろうとの見解が出まして、国護りの結界も解いております」

「あ、鎖国しとったん?」

「勇者はそれなりといいますか、特殊な力を持っていましたから。再び勇者が現れたらと、警戒はあったようです。ただ、結界を張っている間も、誰一人として国に近付いた者は居なかったようですが」


警戒する必要もないとの結論が出たらしい。


「へえ〜、厳しい海路なんやねえ」

「元々、人族の造る船では国まで辿り着けません。空でも飛べないと無理でしょう。来られるのは、中間にある交易用の島まで、こちらから出向いて取り引きしておりましたし」

「出島か? そりゃ、親切やなあ。けど、鎖国中に占領されとらんの?」


魔族を自分勝手に攻撃するような人たちだ。そんな島ならば占拠しようと考えただろう。だが、きちんと対策はされていたらしい。


「元々、取り引きがある時のみ、結界を解いて受け入れておりました。ですので、交易をしていない今は、管理者の一族が五十年ごとの交代で住んでいますよ」

「それは……五十年、出られんとか……?」

「気になりましたか」

「それやったら絶対に退屈しそうやなと思ってな……」


島一つを覆う結界だ。早々簡単に気軽には解けないだろう。そうなると、リンディエールには酷く退屈しそうだと思えた。


会える人も限定されるだろうし、すぐに島の隅々まで探検し尽くしてしまいそうだ。


だからこそ、一日でも早くヒストリアを解放してあげたいと思うのだ。


「ふふっ。いえ。実は、出島から地下通路といいますか、迷宮が本国と繋がっていまして」

「へ? 海峡トンネルか!?」

「間違いなく迷宮です。かなり広いですよ。そして未だ、未踏破です」

「は!? どんだけ難易度高いん!? 是非是非!! 行きたいわ!!」


キラキラした目で、リンディエールは椅子の座面に立ち、身を乗り出してグランギリアに迫る。


人とは隔絶する高い魔力量を持ち、レベルも高くなる魔族でさえ踏破出来ない迷宮。リンディエールが行ってみたいと思うのは当然の流れだった。


これに、プリエラがやんわりと注意する。彼女も強者として、ワクワクする気持ちはわかるのだろう。


「お嬢様。お行儀が悪うございますよ」

「はっ、すんまへん」


リンディエールは椅子に座り直す。そして、今度はヒストリアへ顔を向けた。


「ヒーちゃん! ヒーちゃんの封印解けたら、一緒にその迷宮行こうやっ。そんで、初踏破を! ええやろ!? もちろん、グランとプリエラも一緒や!」

《俺でも半分までしか行けなかったんだが……いや、リンとなら……最後まで行けそうな気がするな……》

「なんや! そないに不安になるような難易度なん!?」

《そのワクワク、キラキラするのやめろっ。今すぐ行けないからなっ? その勢いでまたレベル上げしに行くんじゃないぞ!? そろそろ迷宮ボスも逃げ出すぞ!? 無茶なレベル上げは、体に悪いんだからな!?》


今なら、どんな迷宮ボスでも一発でやれるというように拳を握り、リンディエールはやる気に満ちていた。


「あ、昨日でうち、レベル四百五十になったわ。あと五十、待っとってや〜!」

「「「「「っ、よっ!?」」」」」

《っ、お前はまたっ、どこを周回してきやがった!? そんなバカな上がり方があるか!! 待て……昨日は皇国を見てくると……》


聖皇国の様子を見てくるとリンディエールは出かけていた。それを思い出し、ヒストリアは顔を顰める。


最近は、ヒストリアもやりたい事が出来たため、常にリンディエールの居場所を確認したりしていなかった。心配するような事態になるレベルでもないということもあり、行き先を聞いただけで納得していたのだ。


《あの国に、迷宮はないはず……リン……?》

「あ〜……いやな……その……あるんよ……あの国」

《……どこに……》

「聖堂の地下……」

《地下!?》

「「「「「……」」」」」


聖堂の地下と聞いては、誰もが嫌な予感しかしなかった。











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