第142話 同意見だ
ヒストリアを封印したのが、聖皇国だと聞けば、誰もが眉を寄せる。
「あの国から遠く離れた我が国でも、印象は良くないのでな……その上、今よりももっと過去のこととなれば……うむ。あの国が悪いのだろう」
シーシェから聖皇国は五つの国を越えなくてはならない距離だ。
教会は各国にあり、良くない噂が届くまでに、それなりに教会が火消しに回るため、本当にマズイ噂は、国から遠ければ遠いほど曖昧になるし、消えるか上書きされる。
「勇者や聖女を道具のように扱うと聞いたこともある」
ずっと昔から、それは噂されていたらしい。寧ろ、遠い国だからこそ、一度届いたその噂が、消えることなく残っていたのかもしれない。
「今回召喚した子にも、隷属の腕輪を着けさせとったでなあ。まあ、教会の中にも、良心のあるもんが居たんやろな。内側に居ってはどうにもできひんから、外から手を出して欲しかったんかもしれん」
真実を外に出して噂として流し、誰かそれを確認しに来てくれないだろうかと思っていた者達が居たのだろう。
だから、噂は消されることなく、遠くまで届いた。ただし、あまりにも聖皇国が胡散臭くなり過ぎて、対抗できるはずの国も手を出そうと思えなかったようだ。
「国としても、正義感だけで国に喧嘩は売れぬわな」
食事も出来る休憩所にヘルナ達に案内されて座ると、バーグナーはヒストリアがここに居るという理由などを一通り聞き、片肘をついて不貞腐れたように告げた。
これに女王アーネストも頷く。
「仮に、隣の国であったとしても、国として手は出せぬ。だが……大氾濫の原因を勇者や聖女の召喚で作り、それを他国に恩着せがましく解決してやると言っておったとはな……っ、バカにしおってっ」
「それだっ。そうと知ってたんなら、攻め滅ぼしてやったわいっ」
「うむ」
「同意見だ」
王達三人がうんうんと頷く。一緒にヘルナやファルビーラ、それと一足先に遊びに来ていた魔法師長ケンレスティン、その師の技師のおばばと呼ぶファシードもうんうんと頷いた。
「せやなっ。まあ、ウチが一人で乗り込んでもうたけどなっ」
「「「「「……ん?」」」」」
「ん?」
《なんだ? 観るか?》
「「「「「は?」」」」」
「おおっ! それや! あっ、けどまあ、ちょい恥ずいわ〜」
《ならその間に、リンは夕食の準備を》
「っ、そうするわっ。任せとき!」
そうして、リンディエールが華麗に怪盗する様を観賞した。
それが終わった所で、二種類の大きなため息が吐かれた。
「「「「「はあぁぁぁぁ……」」」」」
「「「「ふぅぅぅ……」」」」
今日、初めて観た他国の者たちは、何してんだと頭を抱え気味に。そして、もう一方は何度観ても、やっぱりリンディエールは普通じゃないと再認識して、大きく息を吐いた。
《ふっ、くくっ。まあ、こういうことだ。リン、食事は?》
「出来たで! 時間配分ぴったりや!」
《さすがだな。さあ、気分を替えるためにも、食事だ》
「食事や!」
「「「「「……はあ……」」」」」
色々と衝撃だったようだ。
「なんや。やっぱ、この世界では怪盗はあんまウケが良くないなあ。そうなると……」
《そうだなあ。活動出来る機会がなあ……》
「ないよなあ……けど惜しいなあ」
《だなあ……》
「「「「「……」」」」」
そんなリンディエールとヒストリアの様子に、少し不安を感じる一同。
これにより、奇しくも誰もが『ああ、友人なんだな……』と納得した。
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