第136話 色々と得だよな
離宮では、普段ここの管理をしてくれている執事のモルトバーンと侍女のユラナーラと共に、リンディエールの侍従であるグランギリアと侍女のプリエラが出迎える。
本来ならばもっと大人数で迎え入れるだろう。なので、リンディエールは先に説明しておく。
「ここ、うちの借宿みたいなもんやねん。人が居らんけど、その分頼りになるうちの侍従と侍女がおるで堪忍な」
「ほお……リンの侍従と侍女か……一人は魔族と見たが……この大陸で珍しいこと」
この大陸には、実際、もうほぼ魔族は居ないらしい。南の海を隔ててある魔族の国とは、国交を断って三百年ほどは経っている。
更に、シーシェは北の端の国だ。大陸の南の先にある魔族の国との交流など、考えたこともないだろう。
少しの警戒心を感じながらも、リンディエールは構わず胸を張る。
「ええ男やろっ」
「っ……そうだな。見たこともないほど男前だ」
女王は、まさかそんな言葉が飛び出すとは思わなかった。だから、正直な感想が口から出る。
これに、リンディエールは満足げに腕を組んでうんうんと頷いた。
「せやろ、せやろっ。グランは魔族の中でもかなりの美形やからなっ」
「お嬢様……失礼いたします。侍従長のグランギリアでございます」
グランギリアとプリエラは、普段はリン様と呼ぶが、こうした対外的な場所では『お嬢様』と呼ぶ。リンディエールの名をなるべく知られないようにするための配慮でもある。
「そんで、こっちが侍女のプリエラや。見た目で判断すると痛い目みるでっ」
「お嬢様……侍女のプリエラでございます」
「うむ……二人とも、只者ではないということだな」
「そう言う事や!」
そんな紹介を終える頃、伝令が来る。
「失礼いたします」
それだけでリンディエールが察して反応する。
「ケフェラルのおじいが着いたか?」
「はい」
伝令も、王ではなくリンディエールが答えて返事をすらことに疑問は抱かない。
ブラムレース王やクイントもそうだ。それをシーシェの女王達が少し不思議そうにしながらも口を開くことはしなかった。
「ほんなら、グラン、プリエラ、姉ちゃん達頼むわ。迎えに行ってくるよって」
「「承知しました」」
「姉ちゃん達、ゆっくりしてちょっと待っとってや」
「うむ」
ちょっと休憩するにもいいだろう。
リンディエールは、ささっと身を翻すと、ブラムレース王とクイントの手を取る。
「ん?」
「っ、リン?」
「お出迎えは遅れたらあかんでなっ」
ブラムレース王は何事かと繋がれた手を確認し、クイントはときめいていた。
しかし、二人の事など気にせず、リンディエールはそのまま転移を発動させる。
「転移や!」
「「っ、あ」」
ブラムレース王とクイントは初のリンディエールとの転移だった。
「よしっ。間に合った〜」
「び、びっくりした……なるほど、転移門とはやはり違うな……」
「リンっ、ずっと手を繋いでましょうっ。いつでもどこでも一緒に行けますからっ」
「いや、宰相はん……片手塞がっとっては仕事困るよって。離してんか」
「っ、くっ……」
「他国の王の前でお手てつないではないで……」
「……わかりました……」
本当に間に合ってよかった。このやり取りはあまり他所の人には見せられない。
先に出迎えのために集まっていた騎士達は、突然現れたリンディエール達に驚きながらも、転移門を知っているため、リンディエールはそういうものと自分を納得させて平常心を取り戻す。
彼らは、知らずリンディエールに鍛えられているようだ。
そして、馬車が到着する。
降りて来たのは、がっしりとした体付きの初老の男性。彼がケフェラルの王だ。
ファルビーラ達より、少しだけ若いと聞いているが、彼はレベルが高い関係もあり、薬で若返ったファルビーラ達と同じ年周りに見える。
「おじいっ。よお来た!」
「おおっ、リン。今日はまた一段と可愛らしいドレスだなあ」
「戦闘用やないからなあ。今日のは機能性よりデザイン重視なんよっ」
「なるほどっ。よく似合っとるぞ」
「おおきにっ」
完全に久し振りに会った親戚のおじさんとの挨拶だ。ブラムレース王とクイントがどう入り込もうか迷っている。
そして、そこでもう一人、馬車から降りて来た者がいた。
「おうそうだ。四年後の話もするし、俺もいつ隠居するか分からんからなあ。次の王を連れて来た。リンは一度会っとるだろ」
「おお。おじいに似とらん、キラキラな王子様やろ? けど、強いらしいやん」
「まだまだ、ひよっこじゃい。ほれ、挨拶せえ」
「はい。ログナーと申します。以後お見知り置きを」
年齢は二十代。爽やかな雰囲気の青年だった。
これにブラムレース王とクイントが動揺する。次期国王を決めたという話しは聞いた事がなかったようだ。
「……次の王って言ったよな?」
「言いましたね……」
恐らく、年齢のこともあり、他国には伏せられていたのだろう。ケフェラルは、王が強いことで有名で、それが当たり前だった。他国に弱みを見せないためにも伏せられていたことだとブラムレース王とクイントは理解していた。
「リンといると、色々と得だよな……びっくりするけど」
「……まあ、びっくりはしますね……」
うんうんと、周りの騎士達も内心頷いている。
今回の会談は、気が抜けないものになりそうだと、リンディエール以外は覚悟を決めていた。
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