第135話 笑ったわ

リンディエールはシーシェの女王達を連れて、もはやリンディエールの屋敷と化している離宮に向かう。


先頭はリンディエールとクロウ。


その後ろにブラムレース王とシーシェの女王が続き、その後ろに王子とクイント、そして、リンディエールが居れば問題はないが、一応はとこの国の近衛騎士が数名続く。


女王が連れて来た侍女達には、滞在してもらう来客用の離宮に先に入ってもらい、部屋を整えてもらっている。


シーシェ側でリンディエールに付いて来たのは女王とその息子の王子、それと外交特使のクロウだけ。


護衛も外してもらったのには理由がある。


「どんな道通って来たん? 仮にも王の護衛が、あないに精神的にもボロボロになるなんて……どんなすごい道があったんや? 是非とも知りたいねんけど」


壮絶な旅をして来たというように、待機となってから疲れを見せた護衛達をリンディエールは気にしていた。


シーシェでも遊びに行っては、城にも自由に出入りしていたため、護衛として来た騎士達にもリンディエールは知られている。


喋り方や服装も違う上、リンディエールはとにかく目立つ。もちろん可愛らしさもあるが、一番は賑やかな所だろう。いつでも楽しくさせてくれると、シーシェの城でも人気者だった。


シーシェにある迷宮も、散歩感覚で行って戻って来ていたことで、強さも知っている。これにより、ここからの護衛はリンディエールに頼むということになったのだ。


シーシェの方でも身内認定されているようなものなのだろう。でなければ他国で護衛なしなんてことあり得ないだろう。だが、お陰で護衛達も休めるというものだ。


クロウが口を尖らせながらぼやく。


「道は普通です。冒険者達に最短ルートを教えてもらって、駆け足気味に来たんですよ。二週間で到着しろって無茶言うんですもん……っ」

「あそこから二週間かあ……うちも後で気付いたんよ。手紙出してから二週間で、来られるんやろかって」

「無理しましたよっ! 普通はその倍は日程見ますからっ」

「……よお頑張ったなあ。クロウの兄さんは、外交言うても、ほぼ机仕事やから、体力キツかったんやない?」

「おかげさまで、ガッタガタですよ……はい」


かなりクロウは精神的にも肉体的にもキツかったようだ。馬車に乗っているだけでも疲れるのだから仕方がない。


「まだアレやろ。馬車に座って走っとるような感覚あるやろ」

「よく分かっていらっしゃる。しばらく乗りたくないですね。あと、筋肉痛がすごいです」

「あんがい、アレは体幹鍛えられるでなあ」


この世界の馬車の乗り心地は最悪だ。リンディエールの方でようやく満足のいく馬車の改良が済んだ所。馬車はこういうものと認識が固定されているため、不満もなく女王であろうとなんだろうと使っているのが現状だ。


よって、次のリンディエールの言葉を、誰もすぐに理解できなかった。


「帰りまでに改良しよか?」

「「「「「ん?」」」」」

「ん?」


反応したのは、クロウだけではなかった。女王と王子だけでもない。


ブラムレース王が確認する。


「リン。改良とは……馬車のか?」

「せやで? あっ、なんや、リュリ姉内緒にしとったか? ん? レングとスレインも言うとらん?」


クイントも何それという顔をしていたので、リンディエールの方から確認した。


「あ〜、まあ、ウチに遊びに来た時に持って来た馬車を改良したでなあ……やから、そないな顔すなや……」

「馬車を改良……聞いてない……」

「くっ。最近本当に生意気に……っ」


ブラムレースは王妃から聞いてないと肩を落とし、クイントの方は、またも内緒でリンディエールからもらっていたかと息子達を恨む。


王族はもちろんだが、貴族家では馬車が個人で用意されている。王妃は王妃専用の。レングやスレインは二人で一台持っているらしい。


「ま、まあ、あれや。試乗会やるか? ケフェラルのおじいも来ることやし」


これに、いち早く反応したのはクロウだ。


「ケフェラル……このお隣の迷宮商業国の? 会談のご予定が?」

「せや。シーシェの親書と同時に同じように親書を送って来とってん。到着ももうすぐやねん。こっちも二週間後に行くて書いてあったんよ」

「そうでしたか……ふむ……」


ここで、クロウは女王と目配せ合う。


そして、答えを出した。


「その感じだと、リンさんとも懇意なんですよね? 会談、ご一緒しても?」

「ええで! おじいも、できたら一緒に言うとったし」

「ん? もうお着き……ではないですよね?」

「まだや! おじいは冒険者やっとったで、通信の魔導具も持っとるんよ。それで連絡取ってん。いやあ、うちもコレあるん忘れとったんよ。そういえばと、三日前に思い出して転移で登録してきたわ。二人して気い付けへんかったなあて、笑ったわ」


リンディエールもケフェラルの王も、お互いその魔導具を持っているとは確認することはしなかった。ただ、腕に付けているのがそれだなとは気付いていた。


同じような通信の魔導具持ってるなと気付いていたが、ここでもお互い、それなりの実力ある冒険者なら持っててもおかしくないなと納得しただけで、登録するというのを忘れていた。


持っている者は少ないため、登録する機会も少ない。なので『友達になったし、連絡先交換しとこう』なんて頭になかったのだ。


「え? 通信の? ん? 転移? ちょっとリンさん? 転移ってなんです!? 通信の魔導具って、王侯貴族か高ランク冒険者でも使えるのを持ってるのは少ないって言う、あの通信の!?」

「お〜、混乱しながらも、きちんと要点は聞き逃さんとは……やるやないか!」

「ありがとうございますっ。じゃなくて! 教えてくださいよっ」


こういう返しが出来るから、リンディエールはクロウを気に入っている。


そこに、王子が口を挟んだ。


「もしかして、リンちゃんは転移でこっちに来てたのかな」

「せやでっ。なんや、入国記録とか調べて、もうとっくに知っとるもんやと思っとったんやけど?」


これにはクロウが全力で手を横に振った。


「いやいやいやっ。転移出来るとか、普通思い至りませんからね? 普通出来るものじゃないですからね? 普通じゃないですよっ!」

「普通、普通て……うちが普通やないみたいやん」

「「「「「え?」」」」」


それは色んな所から聞こえた。


「……今『え?』言うたの誰や? 王様も混ざっとったで!? その辺の騎士! メイドの姉ちゃんら! 警備のおっちゃんらもか!? うちのどこが普通やないねん!? 知っとるけどな!!」

「「「「「ですよね……」」」」」

「「「「「だよな……」」」」」

「全員納得!?」


満場一致で頷かれた。









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