第133話 早く気付いて!!

リンディエールはこの日、王の執務室にいた。


「こっちがケフェラルのおじいの手紙? ほんで、こっちがシーシェの姉ちゃんからかあ」

「お、おじい……姉ちゃん……」


ブラムレース王が何とも言えない顔をする。おじいとはケフェラルの王のこと。そして、姉ちゃんとは、シーシェの女王のことだ。


「国王宛ての親書の中に、なんでウチ宛ての手紙が入っとんねん……」

「それは俺が聞きたい……」


王の執務机のが目の前の応接用のテーブルに着き、机に頬杖を突いて手紙をぷらぷらと摘んで振るリンディエールへ、ブラムレース王は困惑顔を向ける。


先日送られて来た隣国のケフェラルと北にある大国シーシェからの親書。その中に、冒険者リン宛ての手紙が入っていたのだ。


親書の方には、四年後の大氾濫についての対策についての相談と、貴身病の治療法、予防法を教えてもらったことで多くの子ども達が健康になったというお礼。そして、改めて交流を持ちたく思うという内容が書かれていた。


この二国は、他国がまったく反応を示さなかった中、すぐに使者を出して貴身病についての対応策を求めてきたのだ。


そして、落ち着いたら大氾濫の話も改めて伺いに来ますと丁寧に頭を下げて帰っていった。よって、この親書が来ることは、まあ予想されてはいた。


クイントがリンディエールの向かいのソファーに移動してきて、問いかける。


「読まないんですか?」

「ん〜、大した事書いてへんと思うで? 遊びにおいでとかやろ」


そう言いながら、先ずはとケフェラルの方の手紙を開く。


「あ、そっちに行くから、その時にじいちゃんやばあちゃんと一緒にお茶しようや、やって」

「ケフェラルの王は、ファルビーラ様達とお知り合いでしたか」

「せや。あそこは、迷宮が多おてなあ。若い頃は冒険者やっとったらしいわ。そこでじいちゃんらのパーティに出会って、一緒に遊んだ言うとったなあ。確か、現役の頃はソロでBランク言うとったか? あの国では、おじいが一番強かったらしいで?」


騎士団長より強い王様と冒険者の中では有名だったらしい。


「それは……なんとも自ゆっ……いえ、周りが苦労されたかもしれませんね」

「言い直さんでも大丈夫や。おじいは自由人やって、自他共に認められとるわ」

「それはどこまで……」

「ん? 普通に国民も知っとるよ? 国王のお披露目の時、偽者やって思った人が続出した言いよったでな。王族やなく冒険者として有名になり過ぎや。半分くらい貴族の方でも驚いとったんやて」

「……貴族が王……その時は王子ですか? その顔を知らないと?」


貴族達も、それまで王子とは知らず冒険者として付き合っていたらしい。そして、王位継承のお披露目の時に王子と知って唖然としたとか。


「おじいは、髪色や目の色から顔立ちまで、嫁いで来た母親の方にそっくりやってん。その母親も早うに亡くして、残る親族の方は、中央に出る言う欲もあらへん、それこそ、片田舎の領地で領主の一族揃って冒険者になるような人たちやったらしいわ。お陰で中央に顔も出さん」

「……それは、良く王族に娘を嫁がせましたね……」

「押して押して押しまくって勝ち取ったとか言うとった」

「なるほど……そこの所、是非とも詳しく聞きたいですねっ」


クイントの琴線に触れたようだ。困惑顔か一転、キリっとした真面目な顔になった。


「隣国やのに、あんま知らんねやなあ。やっぱ、あの森を挟んどるんは、大きいんか?」


余計な事は考えさせないようにと、リンディエールはクイントに問いかける。


「え? ああ、そうですね……繋がる街道はありますが、大きく森を迂回する形になりますから、他の隣国よりは情報も入ってきません。ただ、同じように森があることで、軍の侵攻も容易くはありませんから、昔から警戒も薄いのです」

「あ〜……なるほどな〜。それも、迷宮いっぱいやで、こっちに攻めて来る余裕があるんやったら、そっち攻略して色々手に入れた方が得やしなあ」


これに、ブラムレース王が頷く。


「そうだな。お陰であの国とは過去、一度も戦ったことはない。迷宮から出たものを買い取らせてもらう事も多い。こちらから冒険者達も向かうことで、良い近所付き合いが出来ている」

「近所て……まあ、そうなんやろうけどな……」


近所付き合いと言えてしまうほど、問題のない付き合いをしているというのは良く分かった。


「なら、王様もみんなでお茶会しようや。この分だと姉ちゃんの方も……」


そう言いながら、シーシェの方の手紙を開く。


「あ、やっぱ同じやったわ。お茶会決定!」

「シーシェの女王と……」

「お茶会……」


これまでほとんど交流のなかったシーシェの女王とのお茶会ということで、現実味がないようだ。思考が一時停止したのが表情から分かった。


だが、すぐに二人はとある事に気付いた。


「ん!? 待て待て待てっ! 女王が来る!?」

「そうですよね!? そういうことですよね!? 特使ではなく本人!? ケフェラルも!?」

「……あ、そっか。そうやねえ」

「「早く気付いて!」くれ!」

「ああ……まあ、大変やな〜」


そこからクイントとブラムレース王が大慌てで各方面へと指示を飛ばし出す。


そんな中、リンディエールは手紙をもう一度確認する。そして、小さく到着予定日が書かれているのを見つけた。


「あ……宰相さん! 王様! どっちも到着予定日が再来週になっとるよ!」

「「っ、だから、早く気付いて!!」」


怒られた。とはいえ、彼らにとってはとんでも無いお客さまだが、リンディエールにとってはお友達と会える機会だ。


「は〜、楽しみやな〜」


そうして二週間後、ほぼ同時にこの二国の王が到着した。









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