第125話 放て!
【魔法弾合戦】は、雪合戦の魔法弾バージョンだ。もちろん、怪我をしない程度にあえて威力を
『魔法弾の属性は、水、土のみ! 威力は抑えなあかん。規定の威力よりも強おなったら、周りに張られとる結界が打ち消してまうでなっ。今から二分間、威力の確認や! 防御結界は逆に通常の倍の負荷がかかるで、それも確認し合うように!』
言われた通り、それぞれ威力を確認する。子ども達の方が調整が上手いらしいというのは、上から見ていてよく分かる。
「うわ〜、威力抑えて安定させるとか……難しいぞ……」
「子ども達の方が上手ね」
「あの辺はなんか焦ってねえ?」
「もうこれ、子どもらの勝ちだろ……」
そんな観客の声が聞こえたように、リンディエールが口を開く。
『大人らっ、頑張らんとボロ負けするで! 気張れや!!』
「「「「「はいぃぃぃっ」」」」」
既に泣きそうなのが大半だ。最初から真面目に取り組んでいれば、こんなことにはならなかっただろう。彼らは、こうして成果を発表するとひと月前に聞き、慌ててやり始めたのだ。
たったひと月では、サボっていた分を取り戻せたりはしない。自業自得だ。
『子どもら! 自分の親は仕留める気で行きい! 他の子どもに討たせんなやっ』
「「「「「はい!!」」」」」
大人たちとは打って変わって、子ども達は最初からリンディエールに無理やり扱かれていたため、不安はない。
そして、久しぶりに会った親の自信なさげな姿を見て、イラついているようだった。自分達には、家の恥になるようなことがないようにと煩いほど、事あるごとに言われて来た。それなのに、今の親達はどうだ。それこそ家の恥だろうと言いたくて堪らない様子だ。
他の一般教養となる授業でも、子ども達は向き合い方が変わっていた。
自分達の意見を持ち、なぜそうした意見を持つのかという理由さえ用意している。
親と同じように、平民をバカにし、自分達を上に置くという行動の恥ずかしさを理解していた。
そうして、親から受け継いでいた意見ではなく、自分達の考えを持つようになったため、親への反発心もしっかり育っている。
『自分達がどれだけ成長したか、見せ合う場や。言葉じゃ聞かん奴らにはどうすれば良いか、分かるやろ!』
「「「「「はいっ!」」」」」
『よしっ、時間や! 審判っ、頼むで!』
審判はヘルナ達、指導者達だ。ヘルナがマイクを口に近付ける。
『では、これより【魔法弾合戦】第一試合を始めます。全員、各陣地へ!』
四角く区切られたコートに入る。バスケのコートより、ひと回りくらい大きい。
『なお、魔力切れになった場合は、即退場です。残り一人となった場合と、十分経った時点で勝敗を決します。それでは! 競技、開始!!』
開始の合図と共に、各陣地にある五つの防御壁へと隠れる者たち。それは、大人の方が多かった。とはいえ、全員が隠れられる訳ではない。
人数は生徒と同じ。二クラス分で約四十と数人ずつ。壁一つに隠れられるのは三人ほどだろう。それに、無理して他人を押し退け隠れようとする大人気ない大人達。
そして、そんな大人達の混乱を、学生組は好機と見る。
「放て!」
「「「「「はいっ!」」」」」
クラスの代表生徒が指示を出し、一気に砲撃を開始する。
『これは一方的だ! 逃げ場を失くした大人達はなす術もないぞ!!』
「おおっ、すごいっ」
「あははっ。子どもにやられるとか情けな〜」
「うわ〜、逃げるだけとか……やっぱ、貴族って……」
「いやいや、子どもらも貴族じゃん。なら、未来は明るいってことじゃね?」
「そうそうっ。早いとこ、代替わりしてくれよ〜」
「それだ!」
やっぱり貴族はダメだと失望しながらも、子ども達の頼もしさに、希望を見出す人々。
『こらぁぁ! 何を逃げとんねんっ! 防御結界はどないした! 修練せえっ、言うたやろ!!』
「「「「「ひいっ」」」」」
「や、やらないとっ」
「ぼ、防御!」
「ちょっ、き、キツっ」
「倍の負荷って……っ」
大人達は守ろうと必死だ。攻撃に転じる余力がないらしい。きちんと訓練に参加し、実力を付けた者は、魔力量も上がっているのだが、そうでない者の方が多かった。
そうして、足手まといになる、訓練の足りなかった者たちが一通り退場となるのに、五分とかからなかった。
残ったのは、最初から冷静に結界を展開したり、場所を考えたりしていた五人の大人達だった。
味方だが、人が減ったことで、防御壁を背に隠れることができている。
内、二人が、伯爵と男爵の男だ。残念ながら、学園の生徒に子どもはいなかった。
結果を見れば、きちんと子ども達は、自分達の親を倒せたということだろう。
「このまま、子ども達に負けてはおれんな」
「邪魔なのが居なくなりましたし、どうです? ここらで反撃を」
そう言う男達に、女性三人が声をかける。彼女たちは、二人が男たちの夫人、残り一人は、昨年学園を卒業し、まもなく結婚を控えた伯爵令嬢だった。
「わたくし達もやりますわっ」
「先ずはどうしますの?」
「数を減らすべきでは?」
これに、男たちも頷いた。
「魔力を節約する必要がある。壁を使いながら攻撃だ」
「やるぞ」
「「「はいっ」」」
大人達の反撃が始まった。
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