12th ステージ

第124話 実況を担当するでっ!

王宮での『災禍の大氾濫』への対策として、貴族達に訓練をすると発表して半年が過ぎた。


その日。王都の闘技場に、全貴族達が集まっていた。その頭上には、観客に顔までしっかり見えるよう、映像が映し出されている。


ヒストリアが使い魔を使って、完璧なカメラワークで上映している。四面になり浮いているスクリーンには、今も貴族達の様子がアップで映し出されていた。


今日ここで行うのは、貴族達のこれまでの訓練の成果を確認し合うもの。リンディエールとしては、『大運動会』のつもりだ。


『これより! 【第一回、学園合同、貴族腕試し大会】を開幕いたします!! ええか! ヤロウども! 怠けとったヤツらはよお分かるでな! 領民達の前で無様な姿を見せんなや? 本気出さんと蹴り倒すから覚悟しとき!!』

「「「「「おおっ!!」」」」」


手を張り上げ、元気に任せろと声を上げるのは、リンディエールが鍛えた学園生達だ。


「「「「「っ、は、はい……」」」」」


目を白黒させながら、涙声で返事をしたのは、どうやら真面目に訓練に参加しなかった貴族の大人達だ。ヘルナやファルビーラに睨まれ、肩をすくめる者たちも多い。


「「「「「はっ!」」」」」


一方、キレよく騎士のように背筋を伸ばして返事をするのは、真面目に訓練に参加してきた貴族達。女性が多いように見える。


そう、夫人達も訓練に参加していたのだ。ヘルナが指導するとあって、護身術など、やる気満々で挑んだ彼女達の大半は、恐らく自分たちの夫をも投げ飛ばせる実力をつけているというのは、今はまだヒミツだ。


「「「「「…………」」」」」


そして、いかにも『え……どいうこと? コレ、なに?』と現実を受け入れられずに観客席に座るのは、大半が一般の民達だ。


今回のこの大会。いつもなら貴族が高みの見物を決め込み、観客席に座るのだが、見下ろしているのは、民達の方だった。もちろん、厳正な抽選によって観覧が許された者たちだ。


「「「「「……え……」」」」」


その民達よりも少ないが、観客の一部は貴族家に仕える者たち。主人達が涙目で闘技場に並べられているのを見て、絶句していた。


家令であっても、訓練をすることになったと聞いていたが、本当にそんな訓練をするとは思っていない。主人達も、泣きべそかきながら扱かれているなんて、カッコ悪い姿を知られたくはないから、実際にどんな訓練をしているのかというのは知らなかった。


そんなことをできるような主人ではないと家令の方も思っている所も多い。結果、王命により、観覧席を与えられた家令や数人の使用人達は、主人やその奥方が、騎士のように整列させられているのを見下ろすことになるとは、この場に来るまで知らなかったのだ。


『因みに、国内の領主館前にて、ここでの映像と同じものが放映されとる。この声も聞こえとるはずや! 自分らんとこの領主へ、罵倒含む声援、頼むで!! もちろん、今回は無礼講や! 野次飛ばしても不敬罪にはならん! これは王も認めとることや! 大体、野次飛ばされるような情けない成果しか出せんとか……ウチが許さんわ! 後日、扱いたるさかい、覚えとき!』

「「「「「っ!!」」」」」

「え? あの子が喋ってるの……?」

「か、かわいい……っ」


映し出されたのは、真っ白なドレスを着た令嬢。マイクを持って手を振る。それに、歓声が上がっていた。


『自己紹介がまだやったな! ウチは、冒険者リンであり、デリエスタ辺境伯の娘! リンディエール・デリエスタや! 今日の実況を担当するでっ! 気軽にリンちゃん呼んでや!』

「「「「「おおっ!! リンちゃ〜ん!」」」」」

「「「「「リンちゃん可愛い〜!」」」」」

『あんがとな!』


恐らく、辺境伯の娘というのは、脳内スルーした者が大半のようだが、これはこれで良しとする。冒険者リンを知っている者も多いためでもある。


『ほんなら貴族の皆さんは準備開始や! その間、この状況が意味分からんってなっとる観客に説明するで? 先日、発表があった通り、数年後に大きな大氾濫が起きると予測されとる。その時、戦うんは、冒険者達だけやなく、魔力適性も高い貴族達や』

「え? 貴族様が戦うの?」

「戦うなんて無理だろ……」

「どうせ、後ろで踏ん反り返ってるだけだろ」

「旦那様には無理では……」

「あの話、本当に……?」


観覧を希望した一般の民達も、いつもの娯楽となるものだと思っていた。貴族とあるが、それはただ、金を出しているからだと。


『無理や思おとるやろ。けど、これは国王命令や! もちろん、皆が予想出来るように、自分たちだけ安全な所に逃げたり、偉っそうに後ろから命令するだけになるのが今までの貴族や。やから、その逃げ道を失くしてやったわ!』

「「「「「……」」」」」


半信半疑のまま、観客達はこれを静かに聞いていた。


『まず、紹介しよか。貴族達を戦士に育てとる教師達や!』


それに応えるように、貴族達が居なくなった闘技場に、出て来た者たちが居た。


これに、歓声も上がる。


『知っとる人もおるやろ! 一人目は、染血の参謀! 冒険者ヘルナ!』

「「「「「ヘルナ様ぁぁぁっ」」」」」

「ヘルナ様だっ!」

「ヘルナ様っ、綺麗っ」


女性達に絶大な人気があるようだ。


『そして! その夫! 英雄、冒険者ファルビーラ!』

「「「「「ファル様!!」」」」」

「すげえっ。ご夫婦でなんてっ」

「え? けど、ファル様は、怪我で引退したって……」

「治ったの!?」


いつもは、ヘルナに知名度が押され気味のファルビーラだが、さすがに王都では知られていた。久し振りに英雄として歓声をもらい、少し涙目だ。


『次に! 第二十四代、剣聖エリクイール!!』

「「「「「……っ」」」」」

「え……剣聖……?」

「剣聖?」

「剣聖って……剣聖?」

「「「「「剣聖様!?」」」」」


一瞬の沈黙の後、爆発したような歓声が響いた。恐らく、各地の領主館前で映像を見る者たちも同時に声を上げただろう。空気が震えたのがわかった。


その後、魔法師長ケンレスティンや、他の高ランクの指導をお願いした冒険者達を紹介し、観客達はようやく現実を受け止め始めたようだった。


すなわち、こんな人たちに指導されるんだから、貴族達も、いやでも戦えるようになるだろうと。


『さあ! 一発目は親子対決! 子どもら、下剋上決めたってや! 親は子どもの反抗期や思って、受け止めえ! 【魔法弾合戦】や!』


そして、発表競技が始まった。









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