第123話 校章や

無事にステータスを見られるようになった生徒達は、新学期が始まった時に出ていたステータスの数字を見比べ、目を丸くしていた。


「……こんなに違う……」

「レベル……上がってる……」

「え……これ……兄上よりも上なんじゃ……」


確実に、レベルも上がっていたようだ。生徒達から、驚きと喜び、戸惑いの声が聞こえてくる。


「確認できたようやな。成果は確実に出とるはずや。言うたやろ? 全ては体力や!」

「「「「「……」」」」」


毎回だが、リンディエールが『体力!』と言えば、誰もが不信な顔をする。これにはもちろん、リンディエールも気付いていた。


「相変わらず、微妙な顔してくれるなあ……まったく、嘘やないで?」

「「「「「……」」」」」


信じていない顔が見え、リンディエールは少し不満げにホワイトボードを三つ亜空間から取り出して並べる。


そして、次に紙の束を手に取り、振って見せる。


「これは、冒険者や高レベルの人ら五百人に聞いたアンケートや。その質問の一つが、『氾濫が起きた時や、魔獣に出くわした時に最も必要だと思うことはなんですか?』というもんやけど。これの結果がこうや!」


リンディエールは後ろの方まで見えるよう、大きめの字で並べたホワイトボードに書いていく。そして、書き終えた状態がこれだ。




5位 最後まで指揮できる体力

4位 町まで知らせに行ける体力

3位 耐え切る体力

2位 逃げ切る体力

1位 体力




戦うことを知っている冒険者達だからこそ、それが大事だと思うのだろう。


「……体力……」

「……体力だ……」

「……本当だった……?」


生徒達は唖然としていた。冗談だと思っている者もいるだろう。


間違いなく、この結果を見れば『一に体力、二に体力、三、四も体力、五も体力』だ。


それでも、あまりにも生徒達が信じていない顔をしているので、そこで、リンディエールは教師に声をかけた。教師の内、三分の一は冒険者として活動したことのある者達なのだ。


「冒険者をしとった先生達はどうや? これ、間違おてるか?」

「っ、い、いいえっ」

「私も……体力だと思います」

「俺も体力と答えます」


これに満足げにリンディエールが腰に手を当てる。


「ほらな? これが証拠や。因みに、6位は『あきらめない精神力』や。そこもその内鍛えるで、期待しといてや!」

「「「「「……っ」」」」」


顔色が悪くなる生徒が多かった。


「何はともあれ、成果が出ることは分かったやろ? 無駄に走らせとる訳やないで? 今後も真面目に取り組むように」

「「「「「はい……」」」」」


元気の足りない返事だが、良しとする。


「では、今日の講義を始めるで? なんぼ体力や言うても、限界はあるやんな? そこでや」


演説台に置いてあった大きなB紙サイズの紙を真ん中のホワイトボードに貼る。


そこに描かれているのは、生徒達もよく知っているものだ。


「これ、何だか分かるやろ?」

「校章……」


生徒達がそれぞれ『校章』と呟いた。制服の胸ポケットの端に十円玉サイズの校章バッチがある。


「せや。この学園の校章や。これは、この学園の創設者であるイクルス爺からの贈り物なんよ」


今日、イクルスは来ていない。今頃はまた、ヒストリアとファシードで、魔法談義でもしている頃だろう。


リンディエールはニッと笑って、ホワイトボードに貼った校章の拡大図をコンコンと叩く。


「この中には、実は、広範囲結界の魔法陣が組み込まれとるんや。今日は、これを取り出して覚えてもらう。体操服にも描かれとるし、教室にもあるやろ? 見慣れとるはずや。やから、覚えるとこまでやってもらうで?」


ポカンと口を開けて、呆然とする生徒が大半だ。ここで、マルクレースが手を挙げる。


「ほいっ。会長さん!」


指名というように、リンディエールがビシッとマルクレースを指差す。


「その覚えるというのは、空で描けるくらいでしょうか?」

「せや。けど校章を描け言うとるんやない。中にある魔法陣だけや。今から意味も全部教えるさかい、そう難しいことやない」

「……なるほど……因みに、その魔法陣を発動することは可能なのですか?」

「いや。そのままやと、改良もされとらん魔法陣やで、バカみたいに魔力を食うんよ。やってみてもええけど、簡単に昏倒できるで」


それはどうなんだと、生徒達は眉をよせる。魔力不足で倒れるのは、そうめずらしいことではない。


「それなら……」


それなら必要ないではないかと一部の生徒達が不貞腐れたような顔をした。


「せやから、使えるように、皆んなで改良するんよ。そのためには、魔法陣のこと、結界魔法のこと。広範囲魔法のことを知らなならん。それが今日の授業や」


そうして、リンディエールの魔法陣の講義が始まった。


「この広範囲魔法の効果範囲は、だいたい、この学園の校舎一つを覆えるくらいや」

「「「「「え……っ」」」」」


広範囲というのは間違いない。しかし、そこまでとは思わなかったらしい。


「そんなんで驚いとってどうするん? このままでも、研鑽を積んだら、学園全部もいけるで?」

「「「「「……」」」」」


期待はしているが、本当にかと信じていないような目がリンディエールに向けられた。


「なんや、疑い深いなあ。この魔法陣をそのまま使えるイクルス爺やったら、王都全部を結界範囲内に収めることが出来るで?」

「「「「「……っ」」」」」


衝撃だったらしい。教師も誰も、声を上げることがなかった。


それを見兼ねて、リンディエールは手を叩く。



パンパン!



「ほーい。ぼけっとしとらんで。やるで? 先ずはここにある魔法陣を認識するところから」


そうして、リンディエールは校章の中の魔法陣を書いた別の紙をホワイトボードに貼り付けた。


この授業後、全員が自分と複数人を結界で守れるようになる。それだけで満足せず、家一つ、村や町一つを目標に改良を続けることになるのだった。





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