第122話 何回か練習〜
ひと月が経ち、生徒達の顔つきも変わってきたようだ。
今日は、講堂で全学年を集め、合同講義をすることになっていた。
「おはようさん、皆の衆」
「「「「「おはようございます!」」」」」
きちんと挨拶が返って来たことに少しばかり感動する。教師達も目を丸くしていた。
「う〜ん。ひと月前までは、うちに向けて不満タラタラな顔しとった子らが、成長したなあ。ええことやっ」
講堂に入った生徒達には、それぞれ自分達で椅子も用意させた。
自分達で倉庫からそれぞれ持って来て整列したのだ。最初、指示したリンディエールに、出来るはずがないと教師達は倒れそうなくらい蒼白な顔色を見せていた。
しかし、教師達の予想に反し、次の瞬間には、素直に生徒達が文句も言わず、入って来た者たちから順に並んで持って行ったというわけだ。
この時、誰かにやらせたりする者は一人もいなかった。ノートなどの手荷物があるので、二人一組になったりして、持ち合う者は居ても、傲慢に命令したり脅迫して持たせる者はいなかったのだ。
ひと月前にはあり得なかっただろう。少しばかり、規律が厳しくなってしまったようにも感じたリンディエールだが、軍人並みでないならいいかなと現実から少々目を逸らした。
一方、教師達はしばらくポカンと口を開けていた。
そんな一幕もありながら、リンディエールの合同講義が始まった。
因みに、この椅子、講義用に特別にリンディエールが発注したものだ。講義用の椅子と言ったらコレだとリンディエールは思って、作らせた。椅子に小さなメモ台が付いているのだ。
だから、ノートと筆記用具は持って来てもらっている。
「あ、先生達も座ってや。ほんなら、先ず今までの成果を確認してもらおか。ここに入学した時や新しい学年に上がる時に、ステータスを確認しとるよな」
これに生徒達が頷く。
「そのステータス情報を記録した紙を、ここに来る前に教室で配られたはずや。それをそれぞれ見て、次に、今のステータスで変化しとるのを横に書きい」
そこで、多くの生徒達が首を傾げたのに気付く。
「なんや? どないした?」
第一王子のマルクレースやスレインは当然のこととして進めていたため、リンディエールはうっかりしていた。
一人の生徒が手を挙げて発言する。
「あの……どうすればステータスを見られるのでしょうか……水晶玉に触れることで見られるもののはずなので……」
「……せやった……一般にもあんま知られとらんのやったな……」
リンディエールは、前世の記憶もあり、ステータスと唱えるて見るのが当然だった。ヒストリアからしても、これは知っていて当然の常識の範囲。
しかし、それが今の時代に適応しているかは別だった。もちろん、知っている者もいるにはいるが、こちらも知っていて当然のことと思っているため、あえて口にしない。これにより、広まらないのだ。
冒険者はプレートでレベルなど、ある程度の情報が表示されるため、必要ないし、大々的に知らしめなくてはならない場には、ステータスを読み取り、映し出す魔導具の水晶が用意されている。
リンディエールがステータスを見せる時に驚かれなかったのは、リンディエールならと思っていた面が大きい。何よりも、その内容の方がビックリで、そちらに気が回らなかったのだ。
マルクレースやスレインなど、リンディエールと行動を共にした者たちは、ヒストリアかリンディエールに教わっており、今は問題なく自分達のステータスも見ることが出来る。
そうしてはじめは教えたのだったと、今頃になってリンディエールは思い出す。
よって、ステータスの見方を生徒達に教える必要があった。
「せっかくやで、ステータスを映す水晶についても説明するわ。コレな」
そう言って、リンディエールは亜空間から水晶を取り出す。
「これに触れる時、魔力を少し吸われるんよ。それを感じたことがある人〜」
手を挙げてとリンディエールが右手を挙げて尋ねると、半数以上の人の手が挙がった。
「その感覚を思い出してな。この水晶は、微量の魔力の放出を促すことで、その魔法を、いわば強制的に行使させとる。ほんまに微量や。ふっと息を吐くくらいな」
ステータスを見るには、本当に微量の魔力で良い。『1』も使わない程度だ。だから、魔力の低い者でも問題なく見る事ができる。
「この水晶のすごい所は、両手で触れても、指先で触れるだけでも、必要以上の魔力は吸収せんいう事や」
これには、教師達も感心していた。どうやら、当たり前の魔導具過ぎて、その仕組みまでは知ろうとしていなかったらしい。
「うちらは、七歳から十五歳までの間に、大抵、初めて教会でこれに触れ、ステータスを知るやろ? もちろん、神様への報告ゆうこともあるけど、ステータス見るだけなら、この水晶、別に持って歩けるんや。もっと小さい時に屋敷に持ってきてもらって、見たらええやんって、思わん?」
「っ、思います!」
「私も……その……体が弱かったので、確かに……」
生徒達は、なぜこれに気付かなかったのかという事で、驚き、動揺していた。それこそ、教会ではなく、この学園にもあるのだ。
「ステータス確認するだけなら、教会に行く必要はないねん」
「「「え……」」」
「っ……ですが、神様への報告……と、祝福は……」
「あの祝福は、形だけやで? なんのご利益もあらへんわ」
「っ、そんなっ」
かなりの衝撃だったようだ。恐らく、平民との差のようなものもあると思っていたのだろう。
「あんな? 神様は差別せえへんのよ。ちゃんと生まれた時に全員に等しく祝福は与えられとる。そのステータスの魔法もそうや。それとまあ、なんや……ある意味GPSみたいなやつやけどな……」
この世界では、神は身近で、きちんと一人一人を見ることも出来るらしい。そのための
「よお考えてみい。まだなんも成しとらん子どもに、なんのご褒美が貰えるん? 祝福や加護は、何かを成そうとする時、成した時に与えられるもんや。その時にご褒美をきちんとあげられるように、一人一人を認識できるように、『確かに生まれましたね』言う確認を教会でしとるだけや」
恐らく、多くの者が、そのステータスこそがその時に貰える祝福だと思っていたのだろう。
だから、それが済んでいなければ、ステータスは見られないとも思っていたのだ。
「生まれた時に祝福として、このステータスの魔法は使えるようになっとるんよ」
「「「「「……」」」」」
色々と驚きの事実に、生徒達だけでなく教師達も混乱気味だ。
だが、リンディエールはそんなことお構いなしだ。
「ほんで、本題や! 水晶に触れてちょっと魔力引き出されました〜次、何て言う? はい、実践してみよ〜!」
この感じで進める魔法の授業は多かったため、生徒達は反射的に、言われた通り、少しだけ魔力を放出して呟いた。
「「「「「【ステータス】」」」」」
次には目を丸くして、自身の前に映し出されるステータスを見つめる。
全員がきちんと出来たのを確認したリンディエールは続けた。
「な? 出来たやろ? 因みに、教会に行くのが七歳から言うんは、その歳くらいになれば、『ステータス』を正確に唱えられるやろ言う理由だけや。あ、心ん中で言うのでも問題ないねんで? はい。何回か練習〜」
「「「「「……」」」」」
呆然とする生徒と教師達。唯一、こうしたリンディエールのビックリ事実発言に慣れているマルクレースとスレインだけは、笑っていた。
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