第121話 気合い入れえ!
学園でのリンディエールの特別授業が始まった。
「そこ!! ダラダラ走るなや! 全力見せてみい!! 腹に溜まっとる不平不満は力に変えや! それとも何か! 良い子ちゃんになったんか!? 必死さが足りひんぞ!!」
リンディエールはお手製の黄色いメガホンを口に当てて檄を飛ばしていた。
各学年はAクラスからDクラスの四クラス。今の時間は一年生四クラス全員だ。
今日が初日の授業。二時間ぶっ続けで授業枠をもらっている。
「先ずは体力や! 体力が一番大事やで! 一に体力、二に体力! 三、四も体力で、五も体力や! 因みに、六は精神力やでな? 根性も鍛えるで〜!」
先ずはとゆったりとしたマラソンのスピードだが、五分間走を始めたのだが、彼らはほとんどまともに走ったことがないらしい。
「フォームがなっとらん! 運動下手ばっかやんか! 腕は腰より少し上辺りに。そこっ! 足上げ過ぎや! 背中に棒でも入っとるんか!? ちょい上体外らし過ぎやわ! 転ぶぞ! ほれっ、転んだっ」
貴族の令嬢はもちろん、令息達も屋敷でさえ走ることを制限されて育つ。走り方も何もないだろう。
ダンスや剣術は、かなり体力が要るので、それなりの体力はあるはずなのだが、継続的に長くというのは中々ない。
そして、転ぶ者が続出している。
「っ、くそっ、なんで、こんなっ、走ってるっ、だけじゃっ、ないかっ」
「ううっ、痛い……っ」
「子どもがっ、授業なんてっ、できっこっ、ねえんだよっ」
「や、やめたいっ」
「わたくしっ、たちがっ、なぜっ、こんなっ、ことをっ」
「お父っ、さまにっ、言い付けっ、ますわっ」
「わたくしっ、もっ、こんなっ、ことっ、やめさせっ、ますわっ」
息も絶え絶えになっているのは、リンディエールが、最初の二分ほど、風魔法で無理やり走らせたからだ。そうしなくては、ただ歩くだけのダラダラした時間になるところだったのだ。
その後も、走らない者は、強制的に風で押して走らせていた。
「まだ五分も経っとらんでっ? 喋っとる余裕あるんやったら、二分追加するか!?」
「「「「「っ!!」」」」」
ピンポイントでサボり出した者の背中を風魔法で押されるため、生徒達は強制的に動かされる。それもかなり速め。それなら自分で走った方が良いという速さ。嫌だと言っても、どうにもならない。
「よし! 二分追加や!!」
「「「「「っ!?」」」」」
「冗談や! 五分まで後一分! 気合い入れえ!」
「「「「「っ……」」」」」
そうして、なんとか五分走り終わった。
全員がへたり込んでいる。
そこで、リンディエールは転んで傷ついた足や擦りむいた手を魔法で癒す。ついでに汚れや汗もさっぱり消した。
「っ、え……治った……っ」
「痛くない……っ」
「あれ? 汗が……」
「汚れが消えた……っ」
これらの魔法は、現代ではこれほど広範囲に一気に出来るものではなく、彼らは特にこれが必要になる場面に出会ったことがなかったため、さすがに驚いたらしい。
「便利やから、汚れや汗を落とすのは覚えた方がええ。ということで、今日の魔法の授業はコレや。自分にだけでも効くように練習や!」
「っ、これを出来るように?」
「せや! これがマスターできたら、アレや。夜会なんかでやるんやろ? 気に入らん奴にワインかけたりかけられたり。それされてもキレイに復活できるで!」
「「「「「……」」」」」
「ん? なんでそないに表情消すん? その辺の子らは、さっきより顔赤いけど? ダメなん? あんたらには、めちゃくちゃ実用的な魔法やんな? ワインかけ放題やで?」
「「「「「……」」」」」
きっといつかやっただろうという者達は、下を向いて恥じ、やられたかもしれないと思っている者達は、これは確かに使えると興奮気味になる。
そして大半は、なにそれ状態だった。
「ほれ、やるで? 仕組みはこうや!」
あらかじめ地面に書いてあった説明書き。これは、五分間走の間にちょこちょこ書いていたものだ。
それをそのまま地面を盛り上がらせ、垂直に立てた。黒板代わりだ。
「……なにこれ……」
「こんなことできるのか……」
驚愕する生徒達のことなどお構い無しで、説明を続け、最後にコレでしめる。
「あ、この土魔法もいずれ覚えてもらうでな?」
「「「「「……っ」」」」」
「……覚えられるものなの?」
「本当にあの子がずっと魔法を……?」
今更になって、走らせるために背中を押していた風魔法もリンディエールがやっていたと認識したらしい。
どこかで見ている他の教師か誰かがやっているものとばかり思っていたようだ。
「さっさと始めるで? 今から三十分でこの魔法の練習。十五分休憩を挟んで、その後はクラス対抗の色合戦や! 色の付いた水風船を五百個投げ合ってもらう」
水風船といっても、リンディエールが水魔法で作り出したものになる。
「当たったらそれを今の魔法で消すんや。もちろん当たらんのが一番やな」
雪合戦みたいなものだが、当たればピンクや黄緑、茶色、青、黒などの色が付く。少し濃いめに絵の具を溶かした水のようなものだ。
「いかに早く五百個の球を相手に投げて当て、自分たちをキレイに保つかを勝負する。三色以上色が付いた後、二秒以内に魔法を発動させなかったら失格」
それらの審判は残りの二クラスで行う。
「失格になったら、ここのグラウンドを試合が終わるまで走ること。やから、わざと負けんようにな?」
「「「「「……」」」」」
サボろうとしていたらしい者たちが目を泳がせた。逃す気はない。
「以上のルールはここにも書いてある。よく見とき。さあ、始めるで? ここでマスターできひんと、ずっと走ることになるでな?」
「「「「「っ……」」」」」
強制的にだが、気合いは入ったようだった。
そんな感じで、リンディエールの授業は行われた。
雨の日は一時間ぶっ続けのダンスなど、体力作りを目指して組まれた授業方針。これにより、ひと月で驚くほど彼らは成長することになるのだった。
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読んでくださりありがとうございます◎
また一週空けさせていただきます。
よろしくお願いします!
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