第120話 野生児
リンディエールはイクルスを連れて、先ずはデリエスタ辺境伯の屋敷に転移し、そこから扉で繋げてあるヒストリアの居る場所への転移門を潜る。
これには、イクルスも唖然としていた。
「……転移門? それも固定式? どういうこと!?」
イクルスも転移門を繋がるのは可能だ。だが、そのまま固定するという考えはなかったらしい。
長く開けておけるということは、それだけ人や物を多く移動出来る。それは軍隊などを一気に送り込めるということだ。
その危険性から、固定するという考え方を排除していたのだろう。
もちろん、リンディエールもその使い方の可能性を理解している。知っていても使っているのだ。
「ええやん。ちょっと離れに繋げとるだけや」
「離れって……どんな離れ……」
リンディエールとしては、もはやヒストリアの所も屋敷の部屋の一つという考え方になっていた。
ヘルナ達も、屋敷の使用人たちも扉を潜れば、ヒストリアの居る洞窟の前に建てた屋敷に繋がっているため、どれだけ離れているかも知らず、本当に繋がった屋敷のように考えてしまうのだ。
「領内やし、歩ける範囲内やもん。王宮の端から端くらいやない?」
「いや、距離の問題と違うからね?」
「距離なんてちっさいこと気にせんと。ほれ、ヒーちゃん待っとるで〜」
「距離が小さい問題?」
首をしかりに傾げながら森の中の屋敷から飛び出す。そして、ヒストリアの巨体が見えた所でイクルスは叫ぶように訴えた。
「どう育てればこんな子ができるのさっ。リア様っ〜」
《ん? リンのことか? リンは……勝手に育ったから知らん》
「そうそう。ウチは自然に放置されて伸び伸び育った野生児やからな!」
「野生児って……良い言葉じゃないよね? え? 良い言葉だった? そんな誇らしく胸張るくらい!?」
リンディエールは腰に手を当て、胸を張っていた。
《リンはまあ……気にするな。お前の学園の子どもらと一緒にしてはいかんぞ》
「それは分かってますよ! あんな腐った大人そっくりに育ったガキ共と一緒にしませんよ!」
《お、おう……なんだ、リン……イクルスの奴、どうしたんだ? 子どもを嫌う奴じゃなかったんだが……》
イクルスは、教師としての顔を持っていた。子ども達の将来を考え、可能性を信じて教育に取り組む。研究者の時の顔とは違う、そんな教育者としての輝かしい顔があったのだ。
それがどうだろう。『可愛い子ども達』と言っていた人が、今や『ガキ共』なんて言っている。
ヒストリアも目を丸くしていた。人が変わってしまったようだ。
「あ〜……まあ、コレ観てや」
リンディエールは少しばかり同情した目を向けながら、今日の記録映像の上映を開始した。
スクリーンとして使う湾曲した真っ白な四角い石。それに投影する。しばらく大人しく一緒に観ていたイクルスだっが、苛立ちが酷くなってきた。
「なんなのだ! この性格の悪さは!!」
「今の貴族の子どもはな〜。ある意味素直なんやで? ちゃんと大人を見て、その真似しとるもん」
問題なのは、悪い所が外を知らない子ども達にとっては良くも悪くも普通で、当然の振る舞いだと思ってしまうことだ。
「これ見ると分かるやろ? 伸び伸び育った野生児、ええやろ」
胸を張るだけあるだろうと静かに、厳かに告げれば、イクルスは真面目な顔で結論を出した。
「野生児最高!! これより推奨!! あのガキ共っ、野生児にしてやるわい!!」
「うんうん。教育は伸び良くいかなあかんよな!」
「野生児バンザイ!!」
《……イクルス……目が……なんでもない……》
子ども達の現状が、あまりにもショックだったのだろう。イクルスは思考を止めていた。目が洗脳されたようにグルグルしているが、ヒストリアは、そっと見なかったことにして目を逸らした。
《リン。子どもには少し優しくな?》
「何言うとん。ウチ優しいやん? いきなり迷宮に放り込むとかせえへんよ?」
《……》
ヒストリアは頭を抱えた。そう、リンディエールは一人で勝手に育った。父母からの関心もなく、本当に一人で。
だからこそ、基準にズレがある。迷宮が遊び場で、危険でも付き添いの大人もいなかった。
《……伸び伸び育ったのも問題だな……》
それをそのまま子ども達に適応してはマズイと、リンディエールも分かっているだろうが、心配になった。
《リン……指導計画……一緒に考えようか》
「っ、ええんか!? やるやる! 一緒に考える!!」
《そうか。ほら、イクルスも》
「むむっ。リア様と……っ、やります!」
《……ふう……》
これならば無茶な指導を止められるだろうと、ヒストリアは胸を撫で下ろす。ただ、子ども達は本当に酷いため、少しはキツめにしようとも考えていた。
そして、子ども達の教育と訓練が始まる。
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