第119話 嫌い言うな……
生徒達には、一週間後から特別授業を行うと宣言し、解散とした。
イクルスを回収し、残りの授業を姿を消して見回った後、放課後に学園長や教師達を集めて説教だ。
「生徒に舐められとってどうすんねん! 学園はなあ、学ぶ者の姿勢から、年長者への敬い方や意見や知識をどうやって受け取るかを学ぶんや! 身分が下でも、教えを受けるならば謙虚に! それを教えなどうすんねん! あのガキ共、部下からの諫言どころか、民の声も聞かん独裁者になるわ! お前ら、独裁者育てて国を荒らすつもりか!?」
極端な話だが、はっきりと伝えたことで、教師達は青ざめた。
「っ、そ、そんなつもりはっ……」
「つもりがなくても、奴らは学習しとんねん! 聞きたくない話は聞かない! 身分の低い者の話は聞くに値しないってなあ!」
「「「「「っ……」」」」」
これを、マルクレースやスレイン達生徒会の役員達も部屋の端で聞いていた。同じように顔色を失くしている。
「ここは集団で生活するところや。一人の意見が死ぬこともある。身分が絶対やて生まれた時から身に染みとる子らや。上のもんが黒言えば、白も黒にせなあかん思うとる……まあ、今の大人らも大半そうやけどな」
だからこそ、上の者は間違えられない。明確に話すことができなくなる。
何より、それに従っていれば波風立たず、平穏に生きられるのだから、楽な方を選ぶだろう。
「けど、それやとなあ、考え方が固定されんねん。王や将来国を背負って行くマルク達に全部考えさせてどうすんねん。無責任にも程があるわ」
「「「「「……」」」」」
仮にも教師達だ。考える頭は持っている。少しずつ、リンディエールが言いたいことも理解していっているようだ。
「保身ばっか考えよって……王を暴君にするんも、賢王にするんも、下のもんで出来るんよ。それだけ、一人より多数の意見や想いが重要や言うことや。多くの意見が上がれば、そこから見えんかった答えが見えてきたりする」
「……はい」
それは実感としてあるのだろう。教師には、研究者も多い。
「将来、そうやって意見を言えるかどうか、意見を持てるかどうかを決める大事な時期の子どもをここで預かって、育てとるんや。そのこと、忘れたらあかん」
「はい……」
「……そうだ……ここは……」
「教育する場所ですものね……」
身分というものによって、彼らは色々と見失っていたのだと気付いたようだ。
「これまでに各家の教育方針、考え方を植え付けられとる。他の考え方もあるんやと教えるのがここで一番重要な事や。親の言うことが子どもらには絶対やった。それが違うこともあるんや言うことを教えたらなあかん。そこから、考えさせる力を付けたるのが、教え、育てる教育やろ? 子どもらをきちんと見なあかんよ」
「っ……はい……」
教師達は、いつの間にか子ども達の後ろにいる親を見ていた。その自覚を今ようやくしたようだ。
「まったく、本当なら、こうやってどやしつけるんは、じいじの役目やってんで?」
この間、イクルスは、嬉しそうにリンディエールの説教に耳を傾けていた。目はキラキラしている。
「え? ごめん。何? リンちゃんカッコいいね!」
「……じいじ……まあ、じいじにこれはあんま期待しとらん……それより、子どもらの教育手伝ってんか」
「え……ああいう子ども嫌い」
「分かっとるけどな……学園の創設者が子ども嫌い言うな……」
正直過ぎるのも困りものだ。
「はあ……なら、ちょいウチが躾けとる間、大人ら見たってや。あっちは大分、丸くなっとるから」
「いいよー」
「ほんならそれで。あ、あとここの教師らも鍛えなあかんのやけど」
「それはやるよ」
快諾したイクルスに、学園長をはじめ、教師達が目を輝かせる。こんな目も出来たのかと驚きの変化だ。よほど大賢者イクルスに憧れがあるのだろう。
頼りなく感じるが、実力は本物だ。
「リア様にも褒めてもらいたいしっ」
「この後、ヒーちゃんとこ行くか。おばばにも会いたいんやろ?」
「そうそうっ! ファシーとお茶する!」
「はいはい。ほんならまあ……また後日お邪魔するよって、日程とかの話は明日以降に」
「「「「「はい!! お待ちしております!」」」」」
「……おお……」
これは本当に学園を掌握することになりそうだった。
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