第102話 生き物って……
聖皇国での騒動から二ヶ月が経とうという頃。正確な状況などの情報も確認できたことで、各国は貴族達を召集していた。
このリンディエールが住まうウィストラ国でも、会議が始まろうとしている。今回は貴族の位なども関係なく、本当に全ての貴族家の者を召集しており、それも各家、代表を二名出すようにとの指示が出ていた。
これにより、貴族達は裁判にも使われる大会議場に集められている。
口にはしないが、誰か上位の貴族の裁判が行われるのではないかと、内心不安そうにその時を待っていた。
デリエスタ辺境伯家は、当主であるディースリムと後継ぎとなるフィリクスが出席しており、その右隣には、リフス伯爵家のベンディと長男のケルディアがいる。
そして、左隣には、フレッツリー侯爵家のクイントの長男、スレインが座っていた。
まだ始まるまでには時間があり、周りも緊張しながらも話が弾んでいるようだ。
フィリクスとスレインは隣に座り、小さな声で楽しげに会話していた。
「フィルは相変わらずリン嬢命だね」
「当然だよ。あんな可愛いくて頭も良くて強い妹なんて……っ、普通に考えても最強でしょう!」
「うん。実際最強。なんか、お陰でレングも強くなって来てるんだけど。いつの間にか勉強もかなり進めてるし、最近困ってる」
「え? なんで困るの? 頑張ってるんだよね?」
「兄の威厳は守らないといけない」
「そっちか。でも分かる」
二人は、通信の魔導具をリンディエールから贈られており、これで二日に一度は連絡を取り合っている。
離れていても、なんだかほとんど一緒に居るような気になる。それほどまでに交流を持っていた。もちろん、レングともフィリクスは連絡を取っている。
フィリクスもスレインも、こうして交流を持ったことで、少し子どもらしくもなったようだ。お互い、長男としての悩みなども打ち明けている。スレインの方が上で、今年から学園に入っている。それもあり、母親と、父の違う弟を追い出すのも学園に入る前にと思って強行したのだ。
「そういえば、リンが言ってたよ。スレインの母上と弟さん、頑張ってるみたいだよ」
「う〜ん。何か、もはや別人だって、父上も言っていたな……反省とか出来る生き物だったんだな……意外だ」
「生き物って……」
親として、兄弟として未だに認めていないんだなとフィリクスは察した。こういう所、スレインは頑固だともう分かっている。
「後、半年もすれば、それなりに使える使用人になれるってさ」
「なるほど……それを雇えということか。さすがはリン嬢。ゴミも無駄にしないな」
「……え、良くわかったね。そうそう、とりあえず迷惑掛けた所で働かせるって言ってたよ。監視要員も別で養成中なんだって」
「面白いこと考えるなあ」
「だよね。凄く肩身狭くなりそう。リンは『精神修行!』って言ってた」
自分達がいじめていた者達の下に付くことになるし、人によっては、仕返しもあるだろう。
「確かに、それに、元の所ならどんなことをやっていたか分かるから、それをやり返せるよね。それで自分達がやったことを省みることが出来る。親切だね」
「それは思った。『想像力がないから酷いこともできる』んだよね。『相手の気持ちを察せられる』ように教えてやらないと」
二人してニヤリと笑う。この二人、黒さが似ているというのが、リンディエールの感想だ。
「それ、リンの受け売り?」
「バレた? そう。リンはさ、はっきり言うから気持ちいいよね」
「そうだね。フィルが羨ましい」
「いいでしょう?」
「妬ましい」
「待って、羨ましいまでで止めてよ……」
「無理。ズルい」
本音だ。スレインにしては珍しい。
「え〜、でも、リンはすぐ外に行っちゃうから……リア様の所とか……ちょっと本気で鍛えないとな……」
「あ、だからレング……」
「そんなに鍛えてる?」
「かなり本気」
レングは、学力の方で余裕が出てきたこともあり、魔法や剣の訓練の比重が増したようだ。
そんな話をしていれば、いよいよ会議が始まった。
先ずは
「特別医師団を結成しました。今年中に全ての貴族家、要望のあった商家などの子息、子女の診察を行って参ります」
国を上げての子ども達の健康診断だ。
これを聞いて、半数ほどの貴族達が驚きながらも喜びを露わにする。この場に跡取りではなく先代や夫人を連れて来ているのは、子どもの体に不安を抱えている者たちだ。彼らには何よりも嬉しい発表だった。
そして、次に告げられたのは、聖皇国がした召喚術とそれに伴う世界への影響についてだ。
「現在、大繁殖期に入りました。そして、四年後、千年前に起きた『災禍の大氾濫』が起きる可能性が極めて高くなっているというのが、有識者による見解です」
「「「「「……え……」」」」」
これに会議場に重い沈黙が降りた。
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