第100話 カラフルやなあ
半月で、修道院は見違えるほど美しく生まれ変わっていた。
「お〜、壁も塗り直したん?」
「うん。みんなでね」
「ん? ここの人らで?」
「そうだよ? すごいでしょ!」
メイド姿も様になってきた悠が鼻息荒く自慢する。
「すごいなあ。すごい……カラフルやなあ……」
建物はとっても真っ白だ。元は少し黒ずんでいたが、今は目に眩しいほどの白だった。だが、それ以外の色がある。
「あ、やっぱ、思う? 可愛くない?」
「まあ、可愛ええよ」
修道院は、表、中央に教会の神殿の建物。その左右に小さめな広間がある建物があり、その後ろに食堂と寝床のある横長の建物が並んでいる。全て渡り廊下で繋がっており、通常、出入りできるのは教会の正面のみらしい。
「窓枠の色、よう、あんな赤やら青やら黄色やらあったなあ」
それぞれの建物のはめ殺しの窓枠や、格子窓の格子が、建物ごとで色が塗られていた。
元の修道院は、全体的に黒だったので、ガラリと雰囲気が変わったように感じる。
教会の建物の窓は鮮やかな青。右の建物は赤、左は黄色だ。
「奥の建物は緑なんだよ」
教会部分や左右の建物の奥。そこにある生活スペースとなる横長の建物の窓枠と格子は明るい緑色だという。
「この世界にも、ペンキみたいなのがあってさあ。プリエラ師匠が、なんかカラフルな実を持ってきて、それを煮詰めたらあんな色のペンキができたんだよ」
「ああっ、あれか! せやっ、この時期しか、鮮やかな色のは採れひん言うとったわっ」
その実は、季節毎やその年によっても違う色の実が生る。十二色集めるだけでも苦労しそうだと思ったものだ。それも、とある迷宮の奥深くにしかない。
「白と黒はいつでも採れるんやけどなあ」
ヒストリアの所に建てた家の色も、無難に白と黒を使っていた。
「絵の具としても高う売れるんや〜。絶対に落ちんでなっ」
「そうそうっ。顔とか肌に付くのは洗えば取れるんだけど、服とか布に付いたら取れないの」
「せやせや。重ね塗りせんかったら、ゴワゴワもせえへんし、プリントTシャツみたいなのが出来そうや思ったんよ。変な匂いもないしなあ」
元は植物の実なので、キツイ油のような匂いもしない。寧ろ、爽やかな緑の匂いで、家の壁などに塗ると、虫除けになる。
「それそれっ。それで、みんなで白いエプロン作って、それに絵とか色を付けたのっ。作業着って感じでっ」
「ほおっ。ええなあっ」
カラフルな色の付いたエプロン。元貴族のお嬢様や奥様方も、子ども達と一緒になって落書きを楽しんだらしい。
「貴族の女の人って、あれだよ。大人になると、ハメを外すとか出来ないから、本気で楽しかったみたい」
「なるほどなあ……」
見栄を張りつづけなくてはならなかったのだろう。気の毒なことだ。声を上げて笑うことさえ、自由に出来ないのだから。
「ここ、小さい子どもと一緒に入れられる女の人が多いみたいだね。で、子どもの方は、ある程度大きくなったら、外に出るみたい。ただ……ほとんどちゃんと育たなかったんだって……」
その子どもは、母親と連座で連れてこられた。今回の元第二王妃のように、ここで子どもを産む者も多かったようだ。そして、酷な環境から、長生きはしなかったという。
「未成年でも、問題を起こしてここに入ったら、男の子だけはある程度の年齢になると聖皇国に送られて、神官になるんだって。まあ、神官って言っても……あそこで体罰とか受けてた人たちみたいな扱いだったみたいだけど」
クイントの第二子と偽られていた子のような存在が、そういった扱いになっていた。
「そうやったんか……よう調べとるやん」
「まあね。それで、リンちゃんは? 何か調べるって言ってたよね?」
「せやで」
この修道院は、メイドや使用人の養成施設のような形に生まれ変わる。完全にそれではなく、職業訓練施設も兼ねるものにするつもりだ。
自分の罪を認めて、反省したら、新しい自分になって別の人生を送ってもらいたい。
そして、メイドや使用人を養成するということで、ここを意義ある存在に出来ると思ったのだ。
「御三家の盟約の洗い出しをな」
「ん? ごさんけ?」
かつてこの国の繁栄を願った三つの家の盟約。消えかけたそれを復活させようと考えたのだ。
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