第099話 立て直し開始

聖皇国の混乱は、時間が経つにつれて、様々な所に影響を及ぼした。悪い影響ではない。寧ろ、今まで見逃されてきた裏の事情が明かにされて行く変化だった。


その一つが、各国にあった特別な『修道院』。それは、監獄とは別に、問題を起こした女性やその子ども達が入れられる場所だ。


劣悪な環境と厳しい戒律。本来ならば、更生を促すべき場所だが、中は神官やシスター達のストレス発散の場だったらしい。目つきが気に入らないからと言っては、鞭を打ち、掃除や料理が出来ていないと言って、寒い地下の小部屋に閉じ込める。


確実な罪ある者なら、これも仕方がない。だが、その中には冤罪をかけられた者も多かった。調べが終わるまで、留め置かれる者もいたのだ。


これらの現状を知ったのは、第二王妃など退場した者たちを調べようと、リンディエールが王宮へ向かった数日後に発覚した。


そこには、元第二王妃とクイントの元妻も入っていたのだ。


「元第二王妃さんなんて、最早別人やんか……それでもお腹の子は無事みたいやな」

「……あ、ああ……」


今日は、ブラムレース王と宰相のクイントも連れて、修道院に確認に来た。そこで、明らかに弱っている元第二王妃を確認した。ブラムレースが近くに来ても、喋る気力もないらしい。


現状をリンディエールが確認して、教皇ソルマルトへ報告してから、すぐに妊娠している第二王妃は保護されていた。例え罪人の子であっても、お腹の子に罪はないという教えだけは、何とか守れたようだ。


同じように、クイントの元妻とその息子が居ることが分かった。


「で? 宰相さん。あの人が元妻と子どもか?」

「……そのようです……多分」

「そんな曖昧な……」

「私の知っている原形を留めていません。顔付きもそうですが、最後に見た時は、二人ともアレの二倍はありましたから」

「ダイエットできたんは良かったかもなあ……」


今回は、現状の確認と、本人確認のためにクイントも来てもらったのだが、あまりの見た目の変貌ぶりに、かなり戸惑っていた。決してヨリを戻そうと、心が揺れているわけではないらしい。


寧ろ、この場所での生活効果に感心しているようだ。


「これだけ効果があるとは……」

「いや……ダイエットのための施設やないで……」


違う意味の施設だと思えてならないようだ。


「ゲームやと、うちもここに来ることになったんかと思うと……感慨深いもんやなあ……」


舞台を退場した悪役令嬢がやって来る場所。それがこの修道院。まさに、その後・・・を送ることになる場所だった。


「ということで悠ちゃん!」

「うっ、はい!」

「教皇さんの許可は取った。うちらで、ここを作り直すで!」

「了解!」

「外の見張りは、ヒーちゃんがやってくれるけど、日が暮れるまでに警備装置と警備体制を練り直すわ」


完全な犯罪者は居ないとはいえ、家から追放された者たちが入れられているのだ。逃すわけにはいかない。とはいえ、逃げる元気も現状ないだろう。


「なら、私はプリエラ師匠を筆頭に、シュラ先輩やセラビーシェル先輩と掃除しながら、動ける人たちに指導開始だねっ」

「頼んだで」

「任せてよ!」


悠はやる気満々だ。監査のようなものは入って環境改善はされてきているが、とっても汚い。先ずは掃除だと、悠は腕まくりする。


「それじゃあ、フリヴィアさんとその息子さんも、もう連れて行っていい?」


クイントの元妻と息子だ。悠は、ゲームでクイントのその妻の名前を知っていた。本人確認はもういいかと、クイントへ目を向けると、はっきりと頷かれた。


「どうぞ。きちんと指導をお願いします」

「任せてくださいよ。母子だけで生きていける自活力を付けてみせますからっ」

「頼もしいですね。さすがは、リンの選んだ人です」

「っ、リンちゃんへの信頼が高いんだね……」

「当然です。リンがアレは男だと言ったなら、私は迷わず男だと断言しますよ」

「……元妻が男なわけあるかい……」


どんな信頼だ。


「悠ちゃん、ええから、連れてってや」

「は〜い」


クイントの元妻フリヴィアは、クイントに何か期待していたようだったが、リンディエールとのやり取りを見て、目を丸くした。恐らく、クイントの印象が彼女の中のものと一致しなかったのだろう。何が起きたのか理解できないという顔のまま、悠に引きずられて行った。


多分、何度思い出してもリンディエールとクイントの関係は理解できないことだろう。強く生きて欲しい。


「ほな、立て直し開始やな」


ここを正しい、あるべき状態に立て直す。そして、メイドブートキャンプの会場を作るのだ。


**********

読んでくださりありがとうございます◎

一週空きます。

よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る