第084話 裏ワザで!
周りに人の気配が完全になくなったことを確認し、ベッドに並んで座る。
隷属の腕輪の力を過信しているのだろう。もう騒ぐこともないと、見張りさえ下げたようだ。
「ほんなら、本題や。その腕輪。それ、隷属の腕輪なんよ」
「っ、れ、れいぞく!? そ、それっ、奴隷とかっ……そういう!? ど、どうし、どうしたら!?」
着けているのが気持ち悪いとでもいうように、思いっきり顔を顰め、腕輪を遠ざけようとする
隷属という言葉から、自分の意思さえ操作されるようで怖いのだろう。その予想は外れていない。だが、騒いでも仕方ないのだ。
「まあまあ、落ち着きいて。どうにかするために、ウチが出てきてん」
「あ、そ、そうなんだ……どうにかできるんだ?」
「任せえ。そんなら、ちょい見してみ」
「うん……」
腕ごと差し出す。リンディエールは、魔石を確認し、今一度鑑定する。
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守護の腕輪(偽装/隷属の腕輪)
・主人の腕輪を外す
・魔力を限界まで注ぎ込む(10000)
・主人よりレベルを上げる
いずれかの条件で使用不可となる。
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リンディエールは小さく頷く。
それを見て、悠は不安そうに小さな声で尋ねる。
「大丈夫そう?」
「問題あらへんわ。一応、説明しとくか?」
「うん。お願い……」
「ん」
リンディエールは、鑑定で出た情報を彼女に伝えた。
「……一番可能性があるのは?」
「二つ目や。魔力を注ぎ込むやつな」
「魔力……一万って……どんな量なの? 簡単な量なら、付けてる人でも出来ちゃうよね? ってことは……結構な量だと思うんだけど……」
着けている者が、無理に壊そうとして、魔力を使うことは十分にあり得る。この世界だからこそ、腕力よりも魔力に頼るだろう。
「ああ。まあ、問題あらへん」
「……転生だもんね……チートだよね……察した」
「さよか。そういうことや」
「うん。ならよろしく」
「あ、まだ続きがあるんよ」
焦らないでくれと、手で制し、もう一つ、この腕輪に仕掛けられた裏ワザを教えた。
「魔力を一息に破壊可能な魔力量の五倍以上……五万以上を流し込んだ場合、主従が入れ替わるらしいんよ」
「……マジの裏ワザじゃん……」
「せやろ? これを知らんで使っとるあいつらが、かわいそうに思えてくるわ」
「あははっ。ざまあ〜」
彼らが絶対の性能を信じているのは、周りから見張りが消えたことからも分かる。恐らく、この裏ワザ対応をした者たちも、それと気付かれないように気を付けてきたのだろう。
もしもの時に、同胞が同じように助かるように。
「ってことも踏まえて、どれにする?」
「もちろん、裏ワザで!」
「了解や!」
リンディエールは、魔力を注ぎ込んだ。現在の魔力量は七千万を超えているのだ。加減が難しいが、五万以上ならいいのだからと、少し多めの設定で注ぎ込んだ。
「っ、な、なんか光ってる……」
魔石に光が宿った。これが成功した証拠のはずだ。
「よし。これで大丈夫やろ。確認するわ」
「うん……」
鑑定する。
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守護の腕輪(偽装/隷属の腕輪/効果逆転)
対となる隷属の主の腕輪を着けた者を従えられる。
魔石に触れながら口にする。
同時に命じられるのは、二つまで。
明確にすること。
命令は上書きされていく。
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効果逆転の表示が出た。成功だ。使用方法も出ている。
「命じられるのは、二つまでや。それも、きちんと明確にせんとあかんらしい。簡潔に考えんとな」
「う〜ん……なら、私に危害を加えないとか?」
「せやな。それは重要や」
「だよね……ちょっと考えてみる。あ、かけ直したりとかできる?」
「二つまでで、上書きされるみたいや」
「そっか……で、これをバレないようにしないとダメなんだよね……ちょっと考えてみるよ。どうせ、あっちからの命令があるから、静かにしてても変じゃないしね」
ゆっくり考えることは出来るだろう。
「帰れないってのは、確かなんだよね……大会は……諦めるしかない……か」
「残念やって言葉で終わりたかないやろうけどな」
「うん……悔しい……けど……諦めるよ。ちゃんと、次の目標に向かわないとね」
さすがは運動部だと感心する。いつまでもクヨクヨしていない。無理やりにでも切り替えられる意思の強さはすごいと思う。
「その意気で頼むで。もう数日後には、ウチが華麗に、ここから盗み出してやるでな」
「……ん? あ、そういえば……そう言ってたね」
「言ったで。ウチは有言実行や。期待しとってや」
「ははっ。うん。待ってるよ」
「当日の衣装から全部、乞うご期待や!」
「衣装?」
首を傾げていたが、気にせずリンディエールは彼女の部屋を後にした。
「次はあっちの塔や!」
まだまだ、下調べは続くのだ。
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