第077話 任命て……なんやねん!!

リンディエールも落ち着き、いざ上映会が始まった。


導入は上空からの映像。


「最初のアングルもバッチリやな! さすがはヒーちゃん!」


ただ単に偵察の様子とならないのが、今のヒストリアだ。リンディエールからもらった記憶玉で観た映画やアニメで、導入や位置取りはしっかり勉強済みだった。


《そうだろう。やはり、全体から絞っていくことで、場所も分かりやすくなるからな。より楽しめるというものだ!》


気持ち胸を張るヒストリア。とっても得意げだ。だがそんなことよりも、その映像の鮮明さに先ず驚き、次いで、上空から見る国ということに改めて気付き、目を丸くする。


「……これが……上空からの……」


ブラムレース王が呆然と呟く。


「ああ。はじめて見るん?」


同じように、クイントも呆然と見惚れており、目を何度か瞬かせて意識を引き戻し、リンディエールを見た。


「魔法師でも、これほど鮮明に見えるものではないと聞きます……何より、こうした術を使える者は……」


クイントがゆっくりと答えを求めるように次いで顔を向けたのは、ケンレスティン魔法師長。


彼は長く慎重に息を吐いてから深く一つ頷いた。


「……出来ても、今の魔法師では、自分を起点にほんの数キロの範囲の距離を飛ばすのが精一杯です。少し視界を先行させるといいますか……偵察用とはいえ、長い時間の発動も無理です……そうした難しい術ですので、上空からの景色を悠長に眺めるなど……」

「中でも一握りのぉ、魔法師しか見えないものだもの〜。見たことなくて当然よねぇ」


ファシードはコロコロと笑いながらも、映し出された映像に目は釘付けだった。


「きれいねぇ。だいたい〜、やっても夜が普通よ? 空の色に、アレは目立つし〜、昼間に飛ばすのなんていないわ〜」


偵察用としての役目の一つに、戦場を上から見るなどがあるが、大きな黒い鳥だ。撃ち落とすべきものとして認識されれば、一発だ。だから昼間はまず使えない。


《俺もそれが普通だと思っていたんだが、リンに言われて、色を変えたら問題がなさそうでな。昼間は映像も見やすい》

「そうねぇ。夜だと、方向も微妙〜に分かりにくいしぃ……けっこう酔うのよね〜ぇ」

「酔います……」

「いやよね〜」

「あまりやりたくないです……」


うんうんとケンレスティンとファシードが頷き合う。この年になるとキツイしとしみじみ話す二人に、一般的には使い勝手も悪そうだなとブラムレース王とクイントは結論付けた。


一方、冒険者としての視点を持つヘルナとファルビーラは、これが冒険者の中でも使えるようになれば、森の魔獣の偵察なども安全に行えるのになと話し合っていた。


「後で教えてもらわんとな」

「けど、使いやすくなったってことは、悪いことに使う者も増えるってことよ。誓約書付きで、それもギルドで管理すべきかもしれないわ」

「その辺はまた、リア様と相談だな」

「そうね。それがいいわ」


運用する方向で決まったようだ。


この間にも映像は進んでいる。聖皇国の端から、時折カットして町を見ている。


ヒストリアも、この映像が与える衝撃を予想し、導入部を長く取っていたのだ。リンディエールから、編集技術についても合格判定が出た。


そんな中、ベンディだけは、魅入られたようにその映像を見つめていた。


「……スラム……?」


聖皇国は昔から、印象操作に余念がなかった。弱者救済を一つの柱にし、広く人々を救うものであるとしてきたのだ。人族至上主義なのも、善悪をはっきりさせるのも分かる。


だが、だからこそ、明らかな浮浪者や孤児達がうずくまっている様子は、聖皇国にあるべきものではないと思い込まされていた。しかし、実際そこには多くの覇気のない人々が映っている。それを知り、ベンディは不思議に思ったのだ。


その呟きに気付いたリンディエールが口を開く。


「弱者救済と人族至上主義を並べとるんよ? 並べられるもんでもない二つを柱にしとるおバカや。選民意識が強いに決まっとるやん。中心から矛盾しまくりやで」


腕を組み、鼻で笑う。そして、ひと息ついてから、テーブルを叩いた。


「更に! 治癒魔法による治療の代金をぼったくるんよ!? 薬に至っては……コレや!」


そろそろだと思った場所で、ばっちり入った証拠映像。死んだような目をした大人達が、強制労働をさせられている。流れ作業で薬を作っている場所だ。


「ヒーちゃん、ナイスカット! これ、薬の製造工場や。あのやり方、効果なんてスズメの涙やで!」


指差す映像では、機械的に薬草の葉をむしり取り、煮出して、すり潰し、し取る様子が確認できた。そして、なによりも作っている者たちが不健康そうだった。


「魔力もなあ〜んにも入っとらん! それを国内で売るならまだしも、他国に売っとるんよ!? 『効果が薄いのは、神への信仰心が薄いから』やって! 詐欺にもほどがあるわ!!」


わざわざ、信仰心の篤い、自分たちの国民にはよく効くとパフォーマンスまでさせているらしいのだ。


「あ、この国でも引っ掛かっとるバカ領主がったで、後で教えるわ」

「は……?」

「……確かに居そうですね……それもバカみたいな金額を払って……っ……」


ブラムレース王は実態を知って思考停止。国ぐるみでこんなことをするとは思っていなかったのだろう。あまりの衝撃に思考が追いつかないのだ。


そしてクイントは、騙された者がこの国に居ると想像して沸々と怒りが込み上げてきているようだ。


「だいたい! この世界は神が近いやろ! ウチなんて、ほぼリアルタイムで称号が変更されるんやで!? 見とるやろ! やったら神託でもなんでも下ろすのはアリやろ!」


リンディエールは空を見上げて指を差す。平静であれば、神の居る場所が空の上というのは安易だと思うだろうが、今のリンディエールにはそこまで考えられない。勢いのままに、ビシビシと上を指差す。


《……確かに……だが、もしかしたら、リンは特に特別かもしれん……今のステータスはどうだ?》

「ん? 【ステータス】」


ヒストリアに指摘され、何気なく確認した。




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個称  ▷リンディエール・デリエスタ

 (ウィストラ国、デリエスタ辺境伯の長女)

年齢  ▷10

種族  ▷人族

称号  ▷家族に思い出してもらえた子ども、

     家族愛を知りはじめた子、

     使用人と祖父母達に愛される娘、

     密かな愛され系女子(?)、

     目覚め人、エセ関西人(爆笑)、

    *神竜王(仮)の親友、

     魔法バカ(特異)、

     ゴブリンキングを倒した者、

     辺境の小さな英雄、

     忠誠の誓いを受けし者(2)、

     レベリング馬鹿、

     兄に溺愛される者、

     年上キラー(!)、

    *迷宮の覇者(仮免)、

     きらめき⭐︎あいどる、

     竜の加護(特大)、

     神々の観劇対象(ニヤリ)

               【固定】、

    *神々の加護(特大)、

    *神々と繋がる者(任命!)


レベル ▷289

体力  ▷5853000/5853000

魔力  ▷92000100

     /92000100


魔力属性▷風(Max)、火(Max)、

     土(Max)、水(Max)、

     光(Max)、闇(Max)、

     無(Max)、時(Max)、

     空(Max)

ーーーーーーーーーーーーー


増えていた。


「……任命て……なんやねん!!」


空に向かって思わず吠えたリンディエールは悪くない。


**********

読んでくださりありがとうございます◎

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よろしくお願いします◎

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