第076話 アウトやろ!!

聖皇国に飛ばしたヒストリアの目と耳。それは小さな鳥だった。


その鳥をはじめてまだ幼いリンディエールに見せた時から、これまでかなり改良を重ねてきた。


より見つけられ難く。視界の共用だけでなく、それを行使しているヒストリア以外にも見え、聞こえるようにすること。何より、鮮明に見えること。


これらは、リンディエールに出会わなければ、ヒストリアも改良しようなどと思い付かなかっただろう。


ヒストリアだけでなく、過去に誰も、それを変えようなどと考えることはなかったはずだ。それが仕様。そういうものと納得してしまっていることを変えようと思うことは容易ではない。


しかし、そこは物に溢れていた世界の記憶を持つリンディエールだ。便利なものはより便利に。既存の物も改良出来ればと考えることができた。


黒く大きな鷹のような姿だった偵察用の目は、スズメほどの大きさにした。


『まあ、魔獣もおるし、それに簡単に負けんようにゆうんのも分かるけどなあ。戦うより逃げろやろ』


そもそもが偵察用なのだから、戦う必要はないだろうと。これにより、一気に目立たなくなり、お陰で他の魔獣や魔物に襲われるということもなくなった。


次にリンディエールが言ったのは色だ。


『黒て……闇に紛れるんは黒ゆう考えがどうやねん。闇にも色があるやろ。それに、夜やと、そもそも見辛いやん』


これを聞いて、ヒストリアは目を丸くした。そうなのだ。その鳥の目を通して見る術だ。灯りのない夜は耳しか使えない。それが当たり前だった。


『こっちから手は出せんのやから、もっと改良しても悪くないやろ。監視カメラと盗聴器と一緒やでな。使い方を間違えんなら、ええやろ。ってことで、もっと改良するで!』


そこから、体の色を変えられるようにし、目をカメラのように倍率を変えられるようにした。耳も精度を上げ、この世界で間違いなく最強の盗聴器付きの監視カメラが出来た。


『視界共有やと、酔わん? 外部出力できる道具……作らん? そんで、上映会や! ドローンもビックリやで!』


スクリーンとして作った壁に、映像を映すようにした。すると、格段に全体へ目を向けることが出来、小さな発見も出来るようになった。耳の部分は、スピーカーまで付けた。こういうところに完璧を求めるのがリンディエールとヒストリアだ。


この後しばらく、上空からの映像にBGMを付けて楽しんだ。記録もできるようにしてしまったのは、やり過ぎたかもしれない。


そんなこんなあった改良。これにより、聖皇国が異世界召喚を行ったと思われる日から三日後。


この日、昼過ぎから、ブラムレース王や宰相のクイント、ヘルナとファルビーラ、ファシードとケンレスティン魔法師長、それと、ヒストリアと引き合わせてから頻繁に連絡を取るようになったベンディも転移門で呼び、ヒストリアの前に集った。


《呼び立てて悪いな》

「いいえ。リア殿が重要と言うのですから、構いませんよ。もちろん、大した用がなくてもいつでも呼んでくだされ!」


ブラムレース王が恐縮というより、呼んでもらえて心底嬉しいという表情で告げた。これに、ヒストリアは照れ臭そうに答える。


《さすがに一国の王を用もないのに呼べないだろう。まあ、だが……友人とはそういうものだな》

「そうです!!」

《ははっ。そうか》

「ヒーちゃん……」


ヒストリアが友人と口にしたことに、リンディエールは一人密かに胸を熱くしていた。それは、側にいるグランギリアも同じだったようだ。香りの良い紅茶の入ったカップをリンディエールの前に置きながら小さな声で呟いた。


「ご友人とは、良いものですね……」

「せやな……」


それぞれがそれぞれにヒストリアへ言葉をかけながら席につく。


今回のテーブルと椅子はいつもと少し位置が違う。話し合いの時はいつもは、ヒストリアと向き合う形にするが、今回は真っ白な大きな石版に向けている。


その石版は少し外側にカーブしており、スクリーンとして使う。ヒストリアから見て斜め右手側。テーブルは反対の斜め左側にある。


ヒストリアが大きいため、どうしても距離を取ることになるが、そこはまあ仕方ない。


《先日、リンが報告したと思うが、聖皇国の現在の様子について知らせておこうと思ってな》


頷きながら口を開いたのは、ヒストリアやこの場に集う王達には慣れたファシードだ。


「リンちゃんが言った通り、召喚の儀をしたのですってね〜。なんだか、あの日から変な感じがするのよね〜」

「あ、おばばも? なんか、ず〜っと引っ張られてる感じがあるんよな〜」

「よね〜。ざわざわするわ〜」


魔素の研究もしてきたファシードだ。そういった感覚も敏感に感じ取っているようだった。


そして、ケンレスティンも頷いて報告する。


「あの日、城でも結界が揺らいだのです……他にも、不具合の出た魔導具もありまして……それもその影響でしょうか……点検するようにと言われましたので、現在も魔法師達を当たらせております」

《俺も、対策を考えてはいるが……直してもまたすぐおかしくなるかもしれん。気をつけてくれ》

「はい。こちらでも考えてみます」


まるで微振動によって少しずつズレていくように、儀式によって世界に空けられた穴が塞がるまで、不具合は起こり続けるだろう。


「でもあれね〜。昔は、その儀式のせいって分からなかったんじゃあなぁい? 混乱したでしょお?」


以前にもあったはずだ。その時は、それが原因で穴が空いているからなどと、誰も言わなかっただろう。知られていないから、記録も残っていない。


《そうだな。今思えば、だからこうした時、あの国はそれを利用して力をつけてきたんだ。神に祈れと》

「自分たちで原因を作って、知らん顔してそれを利用するとか、質悪いで」

「何ですか、それは……ずっと騙されていたと? 許せませんね」

「とんでもねえな」


クイントとブラムレース王が憤慨する。ベンディも静かに怒っているようだ。


「……やってくれる……」


そして、当然、ヘルナとファルビーラも怒っていた。


「ホント最悪! 感じ悪いだけでもイラつくのにっ。それで異世界から誘拐でしょ? 神様はなんで許してるのよ!」

「本当だよな。アレらが奉る神って、俺らの知る神じゃねえんじゃないか? 悪神の所業だろ」


うんうんと一同が頷く。この世界では神との距離が近い。信仰心も強いのだ。だからこそ、ヘルナ達の苛立ちも大きい。信じていたものに裏切られたと思うのだから。


《それについてだが……俺の称号が変わった》

「ヒーちゃんの称号が? 『暴虐竜』が変わったんか!? 何!? 何になったん!?」


リンディエールは立ち上がってヒストリアに駆け寄った。


この場の誰よりも、あの称号に納得していなかったのだ。気になるに決まっている。


ヒストリアは、そのリンディエールの勢いに少し引きながら答えた。


《あ、ああ……その……『神竜王』だ……仮とあるがな》

「な、なんやと……っ」


リンディエールは衝撃に目を見開く。そして叫んだ。


「カッコ良すぎやろ!! ってか、そんなカッコいい言葉も付けられるんやん! エセ関西人(爆笑)とか、年上キラー(!)とか、何でウチには変な称号付けるん!? きらめき☆アイドルもアウトやろ!!」

《り、リン……》


今回の主旨である上映会のことなど忘れ、しばらくリンディエールは絶望する。それをヒストリアは必死で宥めるのだった。


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次回、来週です!

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