第068話 『友達百人計画』のためや!
祖父母に丸投げし、リンディエールはキッチンに向かう。グランギリアとプリエラは手伝うためついてきた。
ヒストリアも焦らず、そんなリンディエールへ目を向ける。
《良い野菜は手に入ったのか? 『不剛』にも行っていたようだが》
プリエラやグランギリアが住んでいた『不剛の迷宮』。リンディエールにとっては『ちょっと隣に貰ってくる♪』くらいの距離だ。
「行ったで。デザート用のミルクを仕入れにな」
《……あそこは、酪農はやっていなかっただろう》
「言わんかった?
「え?」
珍しくプリエラが素で驚いていた。
「あ、プリエラにも言うとらんかったか。親父さん、外に出てた時に酪農家に世話になったらしゅうて、いつかやりたい言うとったんよ。ほんならって、今育ててもらっててん」
「……父が……話をしたのですか? その……喋ったと……?」
一番驚いている理由はそれだ。娘であるプリエラが声を覚えられないほど、あの村でも喋らない人で有名だった。周りはもう慣れてしまっていて、プリエラの母親も察する能力が高い。そのため、喋らなくても問題無くなっていた。
因みに、大体十年に一度声が聞ければ良いぐらいだと聞いた。しかし、相手はリンディエールだ。とにかく一人で喋る。喋らない人に対して頷きだけでも満足して話し続ける。
これにより、奇跡的に会話できるようになった。ただし、リンディエールはそれがどれほど彼にとって珍しいことなのか理解していない。
「最近は普通に喋るで? 声ちっさいけどなあ。特によく鬼牛に話しかけとるし。親父さんすごいでっ。きちんと会話出来とるらしいんよ。なんや『種族を越える絆』ゆう称号が出たとかで。『従魔師』のスキルも生えたらしいわ」
「……あれほど喋らなかった父が……」
崩折れそうになるほど衝撃だったようだ。喋らそうと努力したことがあったのだろう。グランギリアが優しく労っていた。
そんな会話をしている間に、ようやく王妃達が再起動したようだ。ヘルナが手招く。
「そろそろ挨拶しましょう。ほら、行きますよ」
一歩を中々踏み出せない様子を見兼ねて、ブラムレース王が妻であるリュリエールの手を取った。これにより、リュリエールは目を何度か瞬かせてしっかりと正気を取り戻す。
「あ、申し訳ありません。ご挨拶させていただきますわ」
ようやく普段通りに戻れたらしいリュリエールが、夫と並びながらしずしずと歩み出す。それを見て、ヒストリアが苦笑する。
《あまり近付く必要はないぞ。見上げるのに首が痛くなるだろう。すまないな。人化できれば良いのだが》
「いいえっ。そんなっ」
そう言ってリュリエールは王の腕から手を離して、そこから数歩前に出る。
「リュリエール・ウィストラと申します。王妃となってから、見上げることなどなくなってしまって、とっても新鮮ですわ」
ふわりと笑うリュリエール。その瞳にある感情をヒストリアは読み取った。本気でそう思っていることが分かったようだ。
《それは良かった。ヒストリアという。良い眼をしているな。リンと気が合いそうだ。王妃とは難儀な職業だ。いつでも息抜きに使うと良い》
「っ、はい! そ、その。わたくしも、リア様とお呼びしてもよろしいでしょうかっ」
リュリエールは、キラキラとまるで尊敬する人を見る少女のようにヒストリアを見上げた。
《構わない。ああ、そうだ。リン。彼女にも通信の魔導具をやってもいいか?》
「ん? 別にウチの許可は要らんで。ヒーちゃんがあげたい思った人にやってや」
《……分かった。よければ、これを受け取ってくれ》
リュリエールの前に不意に現れたのは、リンディエールが作った腕輪型の通信の魔導具だ。
「これ……っ、いただいてよろしいのですか?」
《ああ。それがあれば、リンともいつでも話が出来るようになる》
「……通信の魔導具……っ、こんな貴重なものを……っ」
《心配するな。そう貴重でもない量を持っているからな》
「へ?」
これにはリンディエールが答えた。
「ヒーちゃんの『友達百人計画』のためや! 相手が持っとらんと成立せえへんからな!」
そのため、とりあえずと言って、ヒストリアに、作った通信の魔導具を三十個渡してあった。二十個減ったら、また十個渡すつもりだ。減るのも楽しんで欲しい。
とはいえ、通信の魔導具は現在、貴族家で残り一つあれば良い方。大変貴重なのだ。継承出来るものではないので余計だ。寧ろ、今は使わずに大事に取っておく家が多い。通信できる人も少ないのだから、プレミアが付くまで仕舞い込む傾向が強いようだ。
この会話で、察しの良いクイントは気付いた。
「リン……まさか、作れるのですか……?」
「あ……内緒やった……ま、まあええわ。せやで」
そのクイントの目が、一瞬リンディエールが視線を向けたレングを捉えた。
「……レングにやったんですか」
「っ……」
レングが慌てて目を逸らす。リンディエールも逸らしたが、誤魔化せそうになかった。
「……プレゼントしたけど……ええやん。色々なお礼やし」
「……リンの手作り……っ」
「……そんな血涙流しそうな目で見んなやっ。レングが怯えとるやないか。父親の威厳はどこ行ったん」
「……」
「お〜い」
「……」
完全に拗ねた。
息子達の呆れたような視線が注がれているのにも気付いているのかいないのかわからない。
父親うんぬん以前に、大人気なさすぎる。
そして、こちらでも、夫であるブラムレースが分かりやすく拗ねた顔をしていた。
「リュリ……お、俺の方がリア殿と親しいんだからなっ」
「あら。充分これから巻き返せそうですわよ? お会いになったのは少ないのでしょう? 何度目ですの?」
「うっ……に、二回目……」
「でしたら誤差ですわ。リア様。わたくしのことは、リュリとお呼びくださいませ。これからよろしくお願いいたしますわ」
《ああ。よろしくな、リュリ》
「はいっ」
「ぐぬぅ……っ」
どっちに妬いているのか分からない。
ヒストリアはこれらを面白く思いながら、未だ固まって立ち止まっている面々へ目を向けてブラムレースとリュリエール、ついでにクイントにも声をかける。
《ブラムス、リュリ、クイント。子ども達を紹介してくれるか? リンの友人候補だろう。既に迷惑をかけているかもしれんからな》
「お、そうだった」
「そうですわね。さあ、こちらへいらっしゃい」
「……スレイン、レング。挨拶を」
求められて、子ども達は顔を見合わせてからゆっくりと足を踏み出した。
リンディエールの親友と聞いているのだ。別に怖がることもないと、フィリクスを先頭にして王妃達の横に並んだ。ヒストリアの前では、地位もなにもないと、子ども達は自然と理解していた。
一方、リンディエールの父母とシュルツ、ギリアンも、ヘルナとファルビーラに背中を押されて動き出していた。
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