エセ関西人（笑）ってなんやねん！？ 〜転生した辺境伯令嬢は親友のドラゴンと面白おかしく暮らします〜

第067話 一緒にご飯しようや

昼食を終え、オヤツにマフィンをプレゼントしてから屋敷に戻ったリンディエールは、シュルツとグランギリア、プリエラに明日の夕食について伝えた。

「そういうことやで、料理長に伝えといてや」

家令のシュルツへ向かって告げると、納得できないような変な顔をしていた。

「……お嬢様……料理長より先に……いえ、承知しました」

自分が主人であるディースリムに伝えればいいかと、すぐに表情を取り繕い、シュルツは了承を口にして頭を下げた。

「何人か給仕には必要ありませんか？」

「グラン、プリエラ。どうや？」

二人に話を振れば、苦笑して返された。

「我々だけでも構いませんが……シュラとラビはどうされますか？」

そう言われてリンディエールはシュラとセラビーシェルにもまだヒストリアを紹介していないことに気付いた。

「あ、もう教えとる気でおったわ……二人も連れてくわ。そんなら手も足りて大丈夫やんなあ」

「ええ」

今来ている客と王や宰相、ベンディもと人数は多い。それでもグランギリアとプリエラならば問題なく回すだろう。そこに二人が加われば余裕も出来る。

それで大丈夫だと、グランギリアがシュルツに頷き掛ければ、次の確認事項を提示された。

「分かりました。では、護衛はどうされますか？」

「要らんよ？　あの辺は魔獣も避けよるし、ウチだけやのおて、グランもプリエラも広範囲に索敵かけられるしなあ。万が一のことがあっても、じいちゃんとばあちゃんも居（お）る。心配あらへんわ」

ファルビーラとヘルナは、先程通信を入れたら当然行くと言った。二人にとってヒストリアは貴重な年上の友人らしいのだ。

更に、王や宰相を呼ぶならと、魔法師長のケンレスティンにも声をかけた。休みが取れると師匠であるファシードに会うため、リンディエールに転移門をお願いするほど、こちらに来るのが当たり前になっている人だ。

彼にとっても、ヒストリアは尊敬する年上の友人。よく通信もしてきているらしい。それでもリンディエールにヒストリアに会うことをお願いしないのは、ヒストリアにとっても、リンディエールにとってもお互いが特別な存在だと知っているからだ。

二人の時間を邪魔しないようにと気を遣ってくれていたのだ。だからこそ、彼らは会える機会を何が何でも逃したくはなかった。

「なるほど……」

シュルツが何か考え込む。というか、言うか言わまいか何かを迷っているように見えた。

「どないしたん」

「いえ……その。私も会ってみたいのですがっ」

「へ？」

シュルツが恥ずかしそうに目を逸らす。

「ずっと気になっておりました……今のお嬢様があるのは、その方の力もありましょう。それがどのような方なのか……申し訳ありません。差し出がましいとは理解しております……ですが……」

「シュルツじい……」

家令であるシュルツが、主人やその家族の交友関係を知ろうと考えるのは寧ろ当然のこと。それは、主人達を守るために知っておくものだ。

けれど、今のシュルツはそうした当然の義務としてではなく、リンディエールを救ってくれた恩人に会いたいという純粋な気持ちを持っていた。

それがリンディエールにも感じられた。だから、答えは出ていた。

「ええで。ついでや。ギリ兄も連れてくか。一緒にご飯しようや」

「っ、よろしいのですか？」

「構わへん。ヒーちゃんにもええ機会や」

ヒストリアも、最近は特に楽しそうなのだ。何日かに一度、通信の魔導具に登録した人たちから代わる代わる通信が入るためだ。

くだらない愚痴から、魔法や戦い方に関する相談。その日の面白い出来事や、時に国の政策に関するものなど様々な話をされるらしい。それを一つ一つ、きちんと聞いて答えを返しているのだ。

ヒストリアは元々面倒見の良い性格だ。そして、誰よりも長く生きている。経験も豊富で、更には探究心も強いため、知識量も多い。過去の研究や歴史なども知っている。これほど頼もしい相談相手もいないだろう。頼られてヒストリアも嬉しいのだ。

もっともっとヒストリアのことを知ってもらい、多くの人と関わりを持って欲しい。閉じられた場所に居ても、意識は広く外に向けられるように。それがリンディエールの願いだ。

「って事で、頼むで」

「はい！」

そうして、日が沈み出す頃。

リンディエールは屋敷と王宮にそれぞれ転移門を開き、出口をヒストリア前の屋敷のすぐ側に用意した。

先に王宮組を通す。すると、王が真っ先に飛び出して来て、ヒストリアの方へ突撃して行った。

「リア殿〜。ようやく会えましたなあっ」

知己を得た者たちは親しみを込めて、ヒストリアの事を『リア様』や『リア殿』と呼ぶようになっていた。

《ブラムス。元気そうだな》

「ここへ来られた上に、リンの手料理と聞いては、疲れも吹っ飛ぶというものです！」

《ははっ。そうか。リンもお疲れ様会だと言っていたからな。ブランシェレルの始末は大変だっただろう》

労うように優しく目元を緩めるヒストリア。それに嬉しそうに王、ブラムレースが答えようとしたところに、クイントが割り込む。

「すぐにリン達と自分も暴れたいとか、息抜きをしたいとか、ぶつぶつ言ってましたよ」

「良いだろっ。言ってただけなんだからっ」

「隣でぶつぶつ言われるのは鬱陶しいんですよっ。私だって、リンと食事したり、買い物に出かけたりしたかったんですから！」

「……」

《クイント……》

こいつはブレないよなとヒストリアとブラムレースは目を合わせて小さく首を横に振った。

その頃には王妃やディースリム、ベンディ達も転移門から出てきていたが、数歩進んだ所でヒストリアを見て固まっていた。

彼らが落ち着くまで、ヒストリアも視線を向けずにいることにしたようだ。その中からケンレスティンとファシードが駆け出てくる。

「リアさま〜」

「リア様、お久しぶりでございます！」

《ああ。ティン、ファシー、風邪を引いたりしていないか？》

「元気です！」

「だいじょうぶよ〜」

《そうか。今日は気温もそう低くはならないが、風は止めておこうか》

「っ、お気遣いありがとうございます！」

「うれしいわあ」

ヒストリアよりも遥かに年下ではあるが、二人の体を気遣って、風を遮る結界を張った。

そして、次にファルビーラとヘルナが進み出る。

「お久しぶりです、リア様」

「やっぱりお会いするのは嬉しいですわね」

《ファル、ヘルナ。前よりも若返っていないか？》

「はっはっはっ。いやあ、先日も大暴れしましたからなあ」

「ふふふ。最近、肌艶が良くなっているんです」

《適度……よりは激しそうだったが、良い運動になったみたいだな》

「はい！」

「それはもう！」

楽しかったと、二人は満面の笑顔を浮かべていた。

「んん？　じいちゃんらの再会は済んだか？」

《ああ。そろそろ紹介してもらえるか？》

「なんや。固まっとるんかい。じいちゃん、ばあちゃん、紹介頼んでええか？　ウチ、料理の準備するわ」

「そりゃあ、構わんが」

「もう少し待ってもらおうかしらね」

初めての彼らは、ヒストリアを瞬きさえも止めて見ている。腰は抜けていないし、怯えた様子もない。ただ驚いている。もう少し待つべきだろうと判断された。

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