第065話 もう数日は良いでしょう?

あの話し合いの後。


王妃達、王族組とレングとスレイン兄弟は、荷物も特に用意持たずに王都のデリエスタの別邸へ馬車で乗りつけた。


同時に戻って来たディースリム達が、プリエラから説明され、恐縮しながら挨拶をして落ち着いた頃。


リンディエールが転移してきた。


「顔合わせは済んだようやな。ほんなら行くで」


あっさりと部屋の中で転移門を作り、出たのは屋敷の中。玄関ホールの端に増設された部屋だ。


先頭に立ってリンディエールが扉を開けると、連絡していたこともあり、きっちり使用人達が出迎えてくれる。


「戻ったで〜」

「「「「「お帰りなさいませ」」」」」


一斉に綺麗な礼を決める。これは、客が居るからというわけではない。リンディエールが数日空けた時も、こうしてしっかりと出迎えてくれるのだ。


因みに、当主のディースリムの帰還の時にはない。


「シュルじい。馬車は夜に移動させるでな」

「承知いたしました。それで、お客様は……」

「ああ。連絡した通りや。プリエラを置いて行くよって、後のことは頼むわ」

「はい。プリエラさんを中心にですね。お任せください」


シュルツもプリエラとグランギリアの能力が高いことは理解できているため、今回の王妃達への対応もきちんと回してくれると信頼していた。


「歓迎いたします」


改めてシュルツが王妃達へ向けて礼をすると、他の使用人達も頭を下げた。


「「「「「ようこそ、おいでくださいました」」」」」


一矢乱れぬとはこのことだと感心した。王妃達も驚いている。それから王妃達に、リンディエールは相変わらず気軽に告げる。


「まあ、とりあえず、数日ゆっくりしてえや」

「ありがとう。そうさせていただきますわ。でも、あなたはもう王都に戻ってしまうの?」

「早ければ早いほど、よおけ捕まえられるでなあ♪」


思わず踊り出してしまいそうになるほど、楽しげな声でリンディエールは答えた。


「そう……」


物凄く寂しそうな様子。惚れた男ならば置いていけないだろう。これが王妃。この国の女の頂天かと感心してしまった。


「なんちゅう可愛さ……ウチには出せん色気や」

「夕食はご一緒できます?」

「するわ!」

「お気を付けて。早く帰って来てくださいね」

「暗くなる前にやな! 任せえ!」

「お待ちしていますわっ」

「おおっ。これが人妻! ええなあっ」

「お、お嬢様……お嬢様らしくお願いします」

「はっ。あかん。オバチャン魂が出てきてもおた……っ、けどこれもヨシ!」


こうしてリンディエールは、テンションMAXで出かけた。そして数日、夕刻にはベンディと祖父母で揃って帰って来て、朝見送られて四人で出て行く生活が続いた。


全ての拠点を潰し終わった翌日。


国王からブランシェレルの活動内容の説明と共に国内外へ発表がなされた。




『これ以後【ブランシェレル】を我が国の敵とみなし、発覚次第関係者を捕縛、又は国外追放とする』




明確に活動内容を知らしめたことで、【ブランシェレル】の『組織の正当性』も揺らぎ、人々の目が厳しくなった。


リンディエール達の手から難を逃れていた『ブランシェレル』の関係者は息を潜め、早急に国外へと逃げたようだ。もちろん、リンディエールはそんな彼らをあえて見逃してやったのだ。


彼らはリンディエールの追跡魔法で、居場所が分かるようになっている。そのままこの国以外に居る者たちと合流してもらうことで、いつでも対策が出来るというわけだ。


当然だが、彼らを国内に引き込んだシェラン公爵は捕縛後幽閉となった。


進んでこれに与していた貴族達は、リンディエール達を恐れて次々に自首していっているらしい。


らしいと言うのは、後のことは全て王と宰相であるクイントにお任せして、領に引っ込んだからだ。


「リンちゃ〜んっ。このお菓子のレシピも良い? また一緒に作りましょうっ。ねえ、セリン、レイシャもどう?」

「是非! リュリさんみたいに手際よく出来るようになってみせるわっ」

「セリン姉様ならきっと大丈夫。私より出来てる……」

「あらあら。レイシャも頑張れてるわよ。ここに居る間に、もっと練習しましょうねっ」

「はいっ。お母様」


すっかり仲良くなった三人を前に、リンディエールは戸惑っていた。仲良くなり過ぎだ。


王女レイシャも、人見知りで引っ込み思案はどこへ行ったのか。ここへ来て二日ほどはどうすれば良いのか分からなかったようだが、リュリエールによって徐々に、確実に慣れていった。


どうも、実の母親からの圧力が無くなったのが良かったらしい。今では、フィリクス達とも楽しく過ごせるようになっている。


そして、リンディエールがあまりにも可憐で可愛らしいリュリエールを『リュリ姉』と呼んだことをきっかけに、レイシャはリンディエールの母セリンをお姉様と言って慕い、リュリエールを実の母親のようにお母様と呼ぶようになったのだ。


「リュリ姉……そろそろお城帰らんでええのん?」


第二王妃も幽閉されたことで、唯一の王妃となったリュリエール。いつまでもここに居ていい訳がない。


「もう数日は良いでしょう? まだ落ち着いていないだろうってヘルナ様が仰っていたもの」

「……そうやけど……」

「それに、帰るのだってすぐじゃない?」

「まあ、転移門ですぐやね……」

「ならいいじゃないっ。それに、こんなに楽しい生活があるなんて知らなかったのよ? 今まで沢山損していた分を取り返すわ!」

「……王妃が損得の話……しゃあないか……」


目一杯、羽を伸ばしているようだ。


「そういえば、フィルくんが言っていたのだけど、リンちゃんの親友? 大事な人? にどうしても会わせてもらえないって」

「……兄い……」


ヒストリアのことだ。兄妹の仲が充分以上に回復した今でも、会わせていない。ヒストリアに会わせた身内は、未だにヘルナとファルビーラだけなのだ。


「私も会いたいわっ」

「り、リン、私も会いたいのよ」


リュリエールに背中を押されるように、セリンもそれを望む。


「リンちゃん。リンちゃんの大事な人……私も会いたい」


レイシャも真っ直ぐに目を見て告げた。


リンディエールは三人に迫られ、ため息を吐いた。


「……分かったわ……はあ……これは、兄いや父も連れてかなあかんな……ちょい相談してくるわ」


気が進まないながらも、ヒストリアへ相談に出かけた。


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読んでくださりありがとうございます◎

次回、一週空きます。

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