第064話 中々のレベルやでな

何の意図もなくレングを誘ったわけではない。きちんとリンディエールの中には理由があった。


完全に怯えてしまっている第二王子のためにも、レングは必要だ。だが、実はそれとは別の狙いもある。


「第二王子も知っとる者が居る方がええしな。あ、同じ理由でそっちの長男さんも来てえや」

「もちろん。お願いします」


レングの兄スレインが嬉しそうに頷いた。


そして、忘れてはならない最も重要なミッションをレングに課す。


「あとレング、うちの兄いとちょい交友を深めてくれん?」

「フィリクスと?」

「あ、もう名前で呼び合えるようになったんやね。ええ傾向や。ウチの兄い、大分シスコン……妹好きを拗らせとってなあ。普通にウチと結婚して子ども作るとか口走るほど愛してくれとんのよ」

「……」


誰もが絶句した。


「両親はウチに関わることでは全く役に立たへんし、じいちゃんとばあちゃんも、最近はサジ投げとるでなあ……ウチに手綱握らせよ思っとるんやろうけど、ウチやりたいことも、やらなあかんことも多いんよ。そこへきて、健気なかわいい弟も引き取ったでな……はっきり言って、手が回らん。そこでや!」

「っ、う、うん……私だね……」

「そうや!」


レングもなんとなく察したらしい。


「友達が出来れば、少しは気が紛れるやろ。頼むわ」

「……多分そんなに変わらないと思うけど……」

「それは聞きたない。ウチは希望を諦めん女や!」

「……分かった……」


ちょっとでも希望があるのならば賭ける。そして、必ずしもリン自身が対応しなくてはならないもの以外は、適材適所で親や祖父母、時に知人、友人、王だろうが、宰相だろうが使う。


「ほんなら、話もまとまったし、この後すぐ移動や。荷物もなんもいらんでな。あ、馬車でうちの別邸までは移動してもらおか。侍従と侍女も置いてってや。しっかり羽伸ばせるでな」

「本当にいいのか?」


王が申し訳なさそうな顔をしていた。


「遠慮はいらん」


デキる侍従のグランギリアが、既に家令のシュルツへ連絡を入れている。ファルビーラが当主であった時は、突然の来客も多かったらしく、それほどシュルツも対応に戸惑うことはない。


最近は、リンディエールが魔法師長のケンレスティンを唐突に拉致って来たり、ファルビーラやヘルナの元パーティメンバーを誘ったりしていたので、昔の感覚が戻ってきているらしかった。


なので、多少は王族ということで戸惑うかもしれないが、宰相のクイントが滞在したこともあり、それほど身構えることはないだろう。


そこで王妃が一つ確認する。


「あの……侍女も連れて行かなくていいと?」

「寧ろ、連れて行ってもらっては困るんよ。事情も説明せず、王さまの指示で少し出かける言うて出発して欲しいねん」

「それは……まさか、わたくしの侍女にも……」

「紛れとるんよ。王子、王女の方が多いけどな。そろそろ勧誘が入る頃やったわ。第一王子の方にも、様子見のがおるでな」

「っ、そんな……っ」


口元を手で覆う王妃。王子と王女もビクリと身を震わせていた。当然だろう。それが暗殺者でなかったから良かったものの。信頼できる者たちだと思っていた中に、自分たちの情報を漏らす者がいるのだから。


「心配せんでも、今日中に王宮内の掃除はしたるわ」

「わ、分かるのですか……?」

「鑑定で一発や。人の中ではウチは中々のレベルやでな」

「レベル……そう……なのですか……?」


王へも確認するように目を向ける王妃。


「そうだな……そう聞いているが……」

「ん? 見るか?」

「見る?」


首を傾げる一同。


「あ〜、先ず【ステータス】」


自分だけに見えるようにしてから、非表示する箇所を意識する。


「称号非表示で【ステータスオープン】」


これならば色々と問題のある称号だけ見えなく出来るとヒストリアに教えてもらったのだ。



---------------

個称  ▷リンディエール・デリエスタ

 (ウィストラ国、デリエスタ辺境伯の長女)

年齢  ▷10

種族  ▷人族

称号  ▷非表示

レベル ▷286

体力  ▷4551000/4551000

魔力  ▷75002000

     /75002000


魔力属性▷風(Max)、火(Max)、

     土(Max)、水(Max)、

     光(Max)、闇(Max)、

     無(Max)、時(Max)、

     空(Max)

---------------



先ず王が目を丸くした。


「はあ!? 2、286!?」


クイントは首を傾げた。


「全属性使えるんですねっ。ん? 魔力属性の後ろが数字ではない?」


どうやら『Max』表示は初めて見るらしい。人族では先ず出ないので仕方がないだろう。逆に言えば、リンディエールは神が認めるほどの『魔法バカ』の証明だった。


他は完全に息を止めている。


恐らく、レベルの数字しか見えていない。というか、そのレベルの数字も目が滑っていそうだ。


因みに称号ありだとこうなる。



ーーーーーーーーーーーーーーー

個称  ▷リンディエール・デリエスタ

 (ウィストラ国、デリエスタ辺境伯の長女)

年齢  ▷10

種族  ▷人族

称号  ▷家族に思い出してもらえた子ども、

     家族愛を知りはじめた子、

     使用人と祖父母達に愛される娘、

     密かな愛され系女子(?)、

     目覚め人、エセ関西人(爆笑)、

     暴虐竜(魔族の偉人)の親友、

     魔法バカ(特異)、

     ゴブリンキングを倒した者、

     辺境の小さな英雄、

    *忠誠の誓いを受けし者(2)、

    *レベリング馬鹿、

    *兄に溺愛される者、

    *年上キラー(!)、

     竜の加護(特大)、

     神々の観劇対象(ニヤリ)

               【固定】、

     神々の加護(大)

レベル ▷286

体力  ▷4551000/4551000

魔力  ▷75002000

     /75002000


魔力属性▷風(Max)、火(Max)、

     土(Max)、水(Max)、

     光(Max)、闇(Max)、

     無(Max)、時(Max)、

     空(Max)

ーーーーーーーーーーーーー



『年上キラー』は見たくなかった。だが、新たに追加された印が出ているので、否応なく目に入ってきたのだ。


「……非表示のやり方聞いといて正解やったな……」


内心、ちょっとヒヤッとしたリンディエールだ。


「さてと……見て分かったやろ。ウチはレベル高いでな。精度の高い鑑定魔法が使えるんよ。掃除は任せえ」

「わ、分かりました……すべてお任せいたします……」


そうして、王都別邸に移動した彼らを、転移門で馬車ごと辺境へ送った。


その後すぐに王宮内の洗い出しをし、捕縛した者たちに、今後の計画や小さな拠点などを吐かせる。それらはクイントと王が直接行っていた。


翌日。


早朝から王都のデリエスタ家別邸には、リンディエールとベンディ、ファルビーラとヘルナ、グランギリアが集まっていた。


「さてと。ほんなら今日のノルマはそれぞれ十や。潰しまくるで〜♪」

「普通、夜陰に紛れてやるものだけど……これもアリかしらね」

「悪いことしてるわけじゃねえんだから、白昼堂々でいいだろ。朝だけど」

「暗くないのはやり易いかと……」

「それもそうね」

「それもそうだな」


国から完全に追い出すのが目的だ。なので、少々逃げられたところで問題ない。


「でも隠れられちゃったら?」

「見つかったら怖いで……と見せつけられれば問題あらへん」

「なるほど。そりゃあ、存分に怖がらせんとなあ」

「派手にやっても?」

「他に被害が出んのなら、爆破もアリやで」

「それ、リンちゃんがやりたいだけじゃない……?」

「ばあちゃんも、遠慮は要らんでなっ」

「……なるほど。分かったわ!」


途端に目を輝かせるヘルナ。それに、ファルビーラが少しばかり怯える。


「……いやいや。遠慮はしようぜ……朝っぱらから迷惑……夜じゃないだけマシか?」

「夜の騒音ほど迷惑なもんはないで」

「だよな……ならいいか」


ファルビーラも毒されてきた。


「派手にやった方が……引き取りに来る兵も分かりやすい……」

「それあるわね」

「あるある。それ大事じゃね?」

「大事やね。回収が任せられるんなら、回転率も上げられんで」

「アリね」

「アリだな」

「それでいこう……」


この日から数日。王都だけでなく辺境周辺以外の場所では、朝からいくつもの爆発音が響いた。家がいくつか倒壊し、貴族の屋敷から数人ずつ人が消えた。


**********

読んでくださりありがとうございます◎

また来週です!

よろしくお願いします◎

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る