第063話 綺麗になり過ぎやて
リンディエールが第二王妃から目を離し、王を見ると、彼は見事にフリーズしていた。
「で、こういうことなんやけど。おーい。アレの処分とかは後で好きにしてや」
「あ、ああ……というか……なんつう話を……」
「しゃあないやん。昨日まではまさか、妊娠までしとるとは思わんかったけどなあ。あれや。後戻りできんように、完全に引き込むにはええ手やと思ったんちゃうかな」
だが、第二王妃もどうやってそれを誤魔化すつもりだったのか。半分くらいは考えなしだったのだろう。
「そんでや。いくつかあの組織の拠点が分かったんやけど、それをベンちゃんやじいちゃんらと潰して回ろう思ってなあ。ええか?」
「……そのつもりでリフス伯爵をこの場に来させたんだろ」
「そういうことや」
「はあ……頼んだ」
頭を抱えながら、王は許可を出した。
「ベンちゃんもええ?」
「……暴れても良いと……」
「せやで」
「リンも……」
「もちろんや。ファルじいちゃんとヘルナばあちゃんも、たまには暴れたいゆうとったで。一緒になっ」
「やらせてもらう」
「ほんまか。よろしゅうなっ」
冒険者としてのリンディエールやファルビーラ達だけで、これの対応をするより、国として対応もしたと分かるよう、ベンディを巻き込んだのだ。武に定評のあるリフス家のベンディだ。表に出すのにも良い。
だが何より、リンディエールが一緒に遊べるというのは大きい。
「因みに、ブランシェレルの解説は要るか?」
「……頼む」
「王妃様達やレング達も知っとって欲しいで、聞いてや」
そうして、リンディエールはブランシェレルについての話を始めた。
「『貴身病』も目処がついとる。これから生まれてくる子らの心配は今は要らん。問題は今の子らや。幸い、ここで王家への食い込みは阻止できる。後は国内の拠点を潰しまくって、国内外に知らしめて、この国にはもう手は出すべきではないと思わせられれば完了や」
この場でこれを理解できなかったのは、第二王子だけのようだ。始終、ポカンとしていた。だが、誰もフォローする気はない。
王も気にせずリンディエールへ問いかける。
「他国のは手を出さないのか? リンなら、全部根こそぎ消すと思ったんだが」
「勝手にはやらん。もちろん、情報としては集めるけどなあ。それに、他の国ではもっと派手に動き回っとったらしゅうてな。ほとんど処理されとるんよ。まあ、やからこの国に目を付けたんとちゃうかな。ツテもあったゆうんもあるけどな」
「ツテ……?」
「シェラン公爵や」
「っ……そ、そうか……まあ、アレが関わっていた以上、怪しくはなるが……」
大したことないようにリンディエールは明かしてみせるが、王やクイント達大人組にとっては、十分驚愕すべき話だ。アレと言って、王達は一度、第二王妃へ目を向けた。
「まあ、公爵はただの入り口や。引っかかったんは反省させなあかんやろけどなあ」
長く続いてきた組織ではあるが、根絶できなかったために続いてきただけであって、組織として特別強いわけではない。
リンディエールはカップを置いて、椅子の背もたれに身を預ける。
「あの組織の謳い文句は弱者救済や。まあ、弱者ゆうても、一方的に虐げられる者ってわけやない。ただの逃げや。甘えたなガキの集団や。人数集めて、自分らのワガママを通そうとしとるだけのなあ」
「
彼らは自分たちは救われるべきだと思っている。恵まれた環境を生かさず、ただ思い通りにならなかったのだと声高に叫ぶ者たち。
「発足当初は、確かに理不尽に虐げられた者たちが肩寄せ合って正しい道へ戻そうとするような集団やったみたいやけどな。今は、それにあやかろうとするバカしか
正当性が認められた組織。それを引き継ぐのだから、自分たちも正しいのだと思い込んでいる。
「どこにでも、どんな時代でも、そんな奴らは少なからず
「……」
誰もが、組織を失くすことは無理だと理解した。
クイントが静かに口を開く。
「確かに、使いたがる者は多いですね。それに、誰にでも一度は理不尽だと思うことや絶望することはあるでしょう。その時に生まれると……」
「まあ、人数が居らなまとまらんけどなあ。けど、それを感じた者を引き入れていくことは可能や。身に覚えあるやろ? 第二王子様」
「っ!!」
第二王子は説明を聞く間、怯えた表情をしていた。そして、声を掛けられたことで、声にならない悲鳴を上げた。
リンディエールは感心したように、背もたれから体を離す。
「自覚は出来たようやなあ。なんや、レングがえらい苦労しとったっぽいで、もっと話を聞かん奴かと思ったんやけど」
「リン、言い方……」
「せやかて、レング。いきなり精神的にも成長したやん。苦労した証拠やで? 全部宰相はんのせいやないやろ」
「父上は四割くらい」
レングが強気だ。これに、クイントも驚いたようだった。
「レング? 言うようになりましたね」
「あ、いや……父上が大人気ないと、本日確信しましたので」
「おっ、下剋上か? 男の子はそれくらい父親と正面から向かい合わななあ」
クックと笑えば、王子や王女達は目を丸くする。リンディエールが意地悪くでもあっても、笑う様は魅力的だった。一方、王は苦笑を浮かべる。
「リン。もうちょい年相応の受け答えをだな……」
「女は精神の方が早熟なんやで? 実年齢プラス十才でもおかしゅうない思っとき」
「いや……さっきのは親の目線だったぞ……」
「ふふ。リンは私の妻の目線で居てくれるんですよねっ。結婚しますか?」
「藪蛇やんか……せえへんよ。やから、年齢考ええて。せめてあと五、六年はウチも考えんからな?」
「心配しなくても、その間もきっちり口説き続ける予定です」
「それをすな言うとんねんっ」
一気に空気がダラけた。
「ちょい、まあ黙っとき。それより、ウチらが動く間、第二王子だけでも安全な所に置いときたいんやけど」
シッシとクイントを黙らせ、リンディエールは身を乗り出した。多少、構われたことで、クイントも満足したらしい。
「ああ。万が一捕まると面倒か」
「せやねん。そうやなあ……うちに移動させるか」
「うち……辺境にか」
後手に回る気はないが、万が一がある。捕まえに来なくても、ノコノコと第二王子が動いて出て行っても不思議ではない。
「あの辺りまでは奴らも手を伸ばせんでなあ」
「それは確実か?」
「確実や。うちと、ベンちゃんとこは問題ない。仮に入って来た所で、すぐに捕縛される」
「……どうやって……」
「鑑定で一発やで」
「いや。鑑定なんてもの……そこまで視えるものか?」
「そりゃあ、レベルの桁が違うでな」
「……まさか……」
察したらしい。リンディエールはちょっとだけ気まずげに目をそらしながらそれを口にする。
「あ〜、まあ、アレや。ヒーちゃんは過保護やでなあ。ウチの傍にアレらを近付けんように、目を飛ばしとるんよ。あの組織と闇ギルド関係の
「……凄いなそれ……」
「綺麗になり過ぎやて……まあ、ヒーちゃんはアレでまたレベルが上がるようになったとか言うて喜んどったで、止められんくてな。悪いことやないし、ええんやけど」
リンディエールと出会ってから、また外に興味が出てきていたヒストリアは、どうせならばとそんなことをし出した。
以前までは、外を見ると未練が出てきてストレスでしかなかったらしい。だが、今はリンディエールの用意した記憶玉など、囚われの身であってもやる事は山ほどある。だから、気楽に外へも気を向けるようになった。
そこで、どうせならばリンディエールに危害を加える者を排除しようと考えらしい。闇ギルドの者など、二度とリンディエールに近付けてなるものかと気合いを入れた。その過程で、その闇ギルドの多くと繋がりのあったブランシェレル関係者もチェックが入ったというわけだ。
「そんなわけで、安全なんやけど、どうや?」
「……色々と言いたいことはあるが……頼もう。ついでにと言っては何だが、二人も連れて行ってくれないか?」
「ん? 第一王子と王女も? ええで? 世話もグランとプリエラが居れば問題あらへんし、なんなら、王妃様もどうや? たまには息抜きも必要やで?」
「わたくしも? よろしいのかしら」
「ええて、ええて。男どもに任せえ。こうゆう機会にのんびり田舎で羽を伸ばすんも、ええもんやで?」
王妃は戸惑いの顔を王へ向ける。王は静かに微笑みながら頷いた。
「そうしてくれ。その方が俺も安心だ」
「……わかりました。お願いしますわ」
「任せえ。プリエラ。王妃と王女は任すで」
プリエラが一歩前に出て胸に手を当てた。
「お任せください。王妃様。王女殿下。プリエラとお呼びください」
「プリエラさん……わたくしのことは、リュリと呼んでくださる?」
「承知いたしました。リュリ様」
王妃はとても嬉しそうにプリエラへ声をかけていた。プリエラの何かが琴線に触れたらしいと、リンディエールは納得し、更についでにとレングへ声をかけた。
「レングも来るか?」
「え?」
気軽に提案されたレングは、何を言われたのか分からなかったようだった。
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読んでくださりありがとうございます◎
次回、一週空けさせていただきます。
14日頃の予定です。
今年最後です。
また来年もよろしくお願いします◎
良いお年をお迎えください。
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