第062話 本性出していいぞ

移動することになったのだが、リンディエールは自分とクイントと王が一緒に抜けるというのは、良くないと感じた。


「なあ、王様。ベンちゃんとかも連れてってええか? 協力してもらいたいねん」

「ベンちゃん? 誰だ?」

「ああ。リフス伯爵や」


先程、抱えられて移動する時に確認したら、ベンディの妻も居たのだ。明らかに癖のありそうな奥様連中と話していた。息子達はそちらに任せてもいいだろう。いつもはそうしているのだし。


「ベンディ・リフスか。いいぞ。後はどうする?」

「せやな……宰相さんの所の息子は二人ともやな。王子付きなんやろ?」

「そうだ。良く知ってるなあ」

「うちの情報網をナメたらあかんで」


長男が第一王子、レングが第二王子の側近候補だという情報は、当然のようにリンディエールの手元にきていた。


「あの二人もということは、あの組織のことに関係あるんだな」

「そういうことや」

「ならば、リフス伯爵には俺から話そう。息子らは……」

「あっちに奥方が居るで、ええやろ」

「なるほど。領についての話があると言えば良さそうだな」


王が個人的に呼ぶというのは、何かと理由が必要だ。だが、ベンディにはちょうど良い理由があった。新しく任せた領についての話だなと、貴族達は自然に納得してくれるだろう。


「あと、王妃らも呼んでや。第二王妃はその場でどうにかした方がええでな。できたら王子、王女もや」

「……すぐに呼ぶ」

「そうしてや。王女には悪いけどなあ。家族の事や。しっかりせなあかん」

「家族か……そうだな」


王族というのは複雑だ。普通の家族という関係は難しいだろう。だが、だからといって除け者にはすべきではない。


「ほんなら、うちは兄い達に説明して、宰相さん達と行くわ」

「わかった」


そうして、床に下ろされたリンディエールは、そのまま先ず両親とフィリクスへ説明する。


「これから、ちょい話し合いしてくるよって、兄い達は昨日頼んだ宿題を頼むで」


宿題と父のディースリムへ告げると、彼はそうだったという顔をして頷いた。


「情報集めだったね」

「せや。兄いを紹介する感じで、さり気なくやで?」

「分かった。さっき、クゼリア卿も見かけたから、そちらとも協力するよ」

「そうしてや」


あの牢へ入れたクゼリア伯爵の娘も、少し暗い顔をしながらだが、会場に来ていた。遅れて入ってきたようだ。一応は欲しい情報を喋ったのだろう。


「ほんなら、頼んだで。兄いも」

「任せてよ」


フィリクスはやる気満々だ。ここで、ある程度あの魔法陣を使ってケミアーナのように情報を漏らしていた子どもを特定するのだ。昨日の内に、クイントからもらった魔法陣を仕掛けられていた家のリストは確認している。なので、比較的分かりやすいだろう。


ただ、ほとんど付き合いのない家というのはある。デリエスタ家は中央から遠く、他家との関わりは薄い。とはいえ、先代が有名だったこともあり、話かけるのは難しくはない。


そして、やり難い所はクゼリア伯爵に任せた。娘のケミアーナが関わっていたということもあり、協力は惜しまないと約束してくれたのだ。


フィリクス達がクイントとベンディ、王に礼をして移動して行った。


ベンディと王も先に移動する。ベンディの息子二人も、夫人の方へ向かっていた。


「宰相はん。レングと長男さんも連れて移動するで」

「息子達もですか?」

「せや。ほれ、王様とベンちゃんは先に行ったでな」


リンディエールはグランギリアとプリエラに目を向けて歩き出すと、二人は説明しなくとも当然のように後ろについてくる。それはまるで王女に付き従う侍従と侍女のようだった。


リンディエールの所作も文句なく、その様子に周りは声を掛けることもできず息を呑み、見送った。クイントが苦笑するように息を吐いたようだが、気にせず王が向かった部屋に向かう。気配を読めば、どこにいるのか迷うことはない。


今更ではあるが、リンディエールに他の貴族達から変に目を向けられないようにと考えたのか、クイントも少し離れてついてきているようだ。クイントと王と踊ったことで、もう十分目をつけられているというのに、それはそれ、これはこれということだろう。


そうして、辿り着いた部屋の前。警護の騎士達は困惑した表情を隠しながらも扉を開けてくれた。


真っ先に反応したのは部屋の中に居たベンディだ。なので、先手を取って説明する。


「あ、ベンちゃんを呼んでもろおたのはウチのワガママや。協力して欲しゅうてな」

「そう……か」


ベンディの隣に座る。そして、見上げながら先に色々と確認する。


「なあ、ベンちゃん。帰るんはいつの予定や?」

「二日後だ」

「それ、奥さんと息子達を先に帰しても構わんか? ベンちゃんはウチが送るゆうんはダメか?」

「……構わないが……送るというのはアレか?」

「アレや」


ベンディには、転移門のことを教えていた。


「分かった。それでいい」

「ほんまか! なら、目一杯遊べるな!」

「っ、そう……だな」


ベンディは照れたようだ。嬉しそうに歪みそうになる口元を片手で覆って隠していた。


それが面白くないらしく、隣に来たクイントが不機嫌な声を出す。


「リン……なんでそんなに嬉しそうなんですか」

「せやかて、最近はベンちゃんも忙しゅうて、あまり遊べんかってん。友達と遊べるゆうんは、嬉しいもんやでっ」

「……はあ……友達ですか……難しいですね……」

「ん?」


何が難しいのだろうと首を傾げるリンディエール。だが、答えをもらう前に、王妃と王子、王女達が現れた。


「来たか。こっちに座ってくれ」

「はい」


穏やかな声で返事をしたのは第一王妃だ。彼女は王子や王女達にも目を向けてから、王の隣に座った。リンディエール達の向かい側だ。


その隣に第一王子、第二王子、王女と続き、最後に第二王妃が席に着く。


第一王妃以外は、リンディエールとベンディを見て不思議そうにしている。


「呼び立てて悪いな。だが、大事な話だ」

「構いませんわ。ですが……初めてお会いする方がいらっしゃいますわね」


おっとりした表情の第一王妃だが、確認すべきことはしっかりと口にしてくれる。


「そうだな。まず、ベンディ・リフス伯爵だ。そして、その隣がリンディエール・デリエスタ。デリエスタ辺境伯の娘だ」


これに眉をひそめたのは第二王妃だった。


「どういうご関係ですの? なぜ、デリエスタ辺境伯の令嬢とリフス伯爵がご一緒に? 親子でもないのに、おかしいですわ」

「ああ……その理由は後でな」

「……わかりました」


王も理由を知らないのだ。説明のしようがないだろう。むすっとしたままの第二王妃。だが、それを気に留めることもせず、王が今度はリンディエールへ声をかける。少し意地の悪い笑みを浮かべていた。


「さて……リン。本性出していいぞ」

「なんやねん。本性て。まあええわ。ほんなら遠慮なく。グランにお茶頼んでええか?」

「一番がそれかよ」

「しゃあないやん。誰かさんらが振り回してくれたで、会場でなんも口に出来とらんのよ」

「それは悪かったな。まあ、俺も飲みたいからいいか」

「ほんなら、グラン、プリエラ。頼むで」

「「承知いたしました」」


部屋の端にテーブルと茶器を出し、すぐに用意を始めた。


しかし、そんなことよりも、王妃達はリンディエールと王の様子に目を丸くしていた。


最初に声を上げたのは第二王子だった。リンディエールへ指をさし、真っ赤な顔で叫ぶように告げる。


「なっ、なんなんだ、その女! 父上に向かって無礼だぞ!」

「そ、そうです! どういう教育をしているのっ」


第二王妃もはっきりと不愉快だという表情を見せた。普通の十歳児ならば、怯えただろう。だが、リンディエールにとっては大したことではない。


「やかましいなあ。あと、人を指さすなや。それと、王様が言うたやん。本性出してええて。これが本性や。よう見とき」

「なっ、なっ!」


この間に、用意できた紅茶が配られていた。とても良い香りに、驚いていた第一王子と王女の表情が落ち着いてくる。特に、第二王子と第二王妃に挟まれている王女はゆっくりと体の力を抜いたのが見て取れた。


けれど、すぐにビクリと体を強張らせる。


「こんな無礼な子どもは初めてです! 不愉快だわ! 私は部屋に下がらせていただきます!」


立ち上がる第二王妃。だが、逃すつもりはない。リンディエールは紅茶のカップを持ち上げながら告げた。


「そないに怒ると、腹の子に悪いで? まだ三ヶ月やろ。紅茶も妊婦用にしとる。落ち着いた方がええで」

「っ!!」


第二王妃が目に見えて動揺したのが分かった。思わず足を止める。


聞き咎めたのは王だ。


「は? 妊婦? どういうことだ?」


王には身に覚えがないのだろう。


「側に居った侍従との子や。側付きの侍女らは把握しとる。口にせんのは……この女が気に入らんのやろな。どうにもならんくなってからバラしたろ思っとったみたいや。嫌われたもんやなあ」

「っ、な、なん、なんでっ、う、ウソよ! 何てことを言うの! 王! 違います! 私はっ、わ、私、無理やり……っ」


慌てて弁明する第二王妃。これで誤魔化せるはずがない。


「昨晩も約束しとったやろ。お陰で、あの侍従の居場所は分かりやすかったで」


そう口にすれば、第二王妃はハッとした。昨晩

、その侍従は部屋に現れず、今日は体調が悪いらしいと、侍女から聞いていたのだ。もちろん、その侍女はシュラからそう言うようにと頼まれていた。


「あっ、あなたが、どこかへやったのね!!」

「愛人はんは、ウチの知人の所に捕まえてあるんよ。心配せんでも、死んどらん。ちょい、キツめに拷問は与えとるかもしれへんけどな」

「あの人が何をしたと!」

「知らんわけやないやろ。アレは、ブランシェレルのナンバー2やで」

「っ、し、知らない、知らないわ!!」

「ははっ。それで誤魔化せるかい。もう、証拠品もあんたの部屋から回収済みや。どんだけ侍女さんらに嫌われとんのや。えらい協力的やったって聞いとるで」

「なっ、なんっ……っ」


そのまま、第二王妃は気絶した。


「あれま……プリエラ。端っこに寝かせといてや」

「はい」


プリエラは部屋の端でベッドを取り出し、そこに第二王妃を寝かせた。レベルからしても、抱き抱えるのも問題ないのだ。きちんと呼吸なども確認してくれていた。


そんなプリエラの様子を、第一王妃は頬を染めて見ていた。キラキラとした瞳は、少女のようだ。だが今はと、リンディエールは王の方へ目を向けた。


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読んでくださりありがとうございます◎

次回、二日後の予定です。

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