第010話 小さな英雄さん

残り総数八百を切る頃。それは地響きをさせながら暗闇の中に現れ出た。木々の頭の先近くまでの背がある。


「っ、あれが……ゴブリンキングっ……」


誰かの震える声が響いた。そして、誰もがゴクリと喉を鳴らす。カラカラに乾いていく喉。気が狂いそうになる程の威圧。


だがそんな中、リンディエールは不敵に笑っていた。


「うわあ。でっかいなあっ。けど、オークキングやのおて良かったやん。さすがにこの人数やとキッツいで」

「っ……リンちゃん……」

「リン……っ」


多くの修羅場をくぐり抜けてきたファルビーラ達でさえ、雰囲気に吞まれてしまって動けずにいた。だが、リンディエールの声を聞いて、ふっと詰めていた息が吐き出せたのだ。


「さてと、冒険者のにいちゃんらは、なんとか踏ん張って取り巻きを頼むで。ウチのこと気にせんと、魔法も打ってかまへんから」

「ちょっ、リンちゃんまさかっ」


戦闘を開始してそろそろ四時間。回復薬を使ったとしても、精神の疲労までは回復できない。まともにゴブリンキングとやりあえるのは、リンディエールや祖父母達しか残っていなかった。


ゆっくりと歩み出て、武器を構える。


「さあ、ヤろうか? 王様」

《グオォォォォ!!!》


その声に怯むことなく、小さな体が弾丸のようにゴブリンキングへと飛んでいく。


「せいやっ!」

《グゥゥゥっ!》


捻りを加えながら首筋を狙ったが、ほんの少しの切り傷しかできない。普通の剣や短剣なら折れていただろう。


「カッたいなあ。こりゃ、本気で行かせてもらうで」

《グルォォォォ!!!!》


時に頭上を飛び越え、股下をすり抜け、足を切りつけ、目を狙う。確実に命を刈り取るには、急所を狙うしかない。


そうして、一時間。粘りに粘って傷を付けていくが、やはり頑丈だ。とはいえ、着実に深い傷にはなっている。せめて一度動きを止められれば、大きな魔法で狙えるはずだ。


「な、何か、手は、ないか……っ」


息も切れ始めた。どうしようかと考える。リンディエールも無傷ではないのだ。腕は恐らく折れている。肋骨もいっただろう。


「くっ、どうすっ……」


その時、通信が入った。


『ヒーちゃん!?』

《キングから離れろ!》

『っ、はいな!』


咄嗟に嫌な予感がして後ろに飛び退く。


《グルァァァァッ》


ゴブリンキングの腹から剣が生えていた。


「あの剣……ウチが作った……っ」

《トドメをさせ! 雷だ!》

「っ、極大魔法! 落雷砲!!」


物凄い音が響いた。地響きに驚いて誰もが咄嗟に頭を抱えて伏せる。ゴブリン達も動きを止めていた。


《ガァァァァァッッッ!!》


特大の雷がゴブリンキングに落ちる。更にその力は刺さった剣に一旦蓄えられ。熱を持って腹に大穴を開けた。


ドンっ、という音と共にゴブリンキングが倒れる。絶命した瞬間だった。


「はあ……どうにかなったわ……ヒーちゃん……愛しとんで」

《なっ、ぶ、無事なら良いっ……あと、その剣は八十点》

「八っ……厳しなあ……」


そうして、リンディエールは仰向けに倒れ込むと、気絶した。


◆ ◆ ◆


音が鳴る。これは大事な繋がりの音だ。そう思って、ゆっくりと覚醒する。


「っ……ん……」

「あっ、お、お嬢様!! 大旦那さまっ、大奥様っ」


これはシュルツの声だ。そのまま部屋を飛び出していった。ドアも開けっぱなし。いつもの彼にしたらあり得ない行動だ。そして、やっと音を認識した。


『ヒーちゃん?』

《っ、なんだその間抜けな声はっ。アレから五日だぞ!》

『へ? マジで?』

《マジだっ。まったく……どれだけ心配したか……っ》


その声を聞いて、思わず笑った。


『ありがとうな、ヒーちゃん』

《ん……落ち着いたら来い》

『そうするわ。もしかしたら、じいちゃん達も連れていくかもしれへんけど』

《……別にいい。来る時は連絡しろ》

『りょ〜かい』


そうして通信を切り、体を起こしたところで祖父母が部屋に飛び込んできた。


「リン!!」

「リンちゃん!!」

「おおっ」


突然抱きつかれて、思わず避けるところだった。日本人の思考が残っているリンディエールは、これに慣れていない。両親に抱きしめられたこともないのだから尚更だ。


「痛い所はないか!?」

「リンちゃんの薬で治したけど、変な所はない?」

「ん〜。平気やで。それより悪かったなあ。最後まで付き合えんかって」


あのゴブリンキングを倒した時には、まだゴブリン達が五百近く残っていたのだ。最後の掃討戦まで保たなかったのは申し訳なかった。


「何言ってるのっ。キングを倒してくれただけで十分だったわっ」

「というかリン……お前、三千近くいたゴブリン、それも上位種を中心に半分近く一人で狩ったの気付いているか?」

「へ? そんなに?」

「そんなにだよ……」


呆れられた。夢中だったことと、総数しか気にしていなかったため、自分がどれだけ倒したかなんてことは意識していなかった。


「すごいなあ……」

「お前がな?」

「あなたがね」


呆れが八割、称賛が二割だ。割りに合わない。


「まったく……ありがとう。小さな英雄さん」

「ありがとな」

「っ、うん!」


落ち着いた所でステータスを確認する。


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個称  ▷リンディエール・デリエスタ

 (ウィストラ国、デリエスタ辺境伯の長女)

年齢  ▷10

種族  ▷人族

称号  ▷家族に思い出してもらえた子ども、

     家族愛を知りはじめた子、

     使用人と祖父母に愛される娘、

     目覚め人、エセ関西人(爆笑)、

     暴虐竜の親友、魔法バカ、

     ゴブリンキングを倒した者、

     辺境の小さな英雄、

     竜の加護(特大)、

     神々の観劇対象(笑)、

     神々の加護(大)

レベル ▷188

体力  ▷584000/584000

魔力  ▷8700500/8700500


魔力属性▷風(7)、火(Max)、土(8)、

     水(8)、光(9)、闇(9)、

     無(Max)、時(7)、空(8)

ーーーーーーーーーーーーー


色々とツッコみたくなるものが満載だったため、リンディエールは不貞寝した。


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読んでくださりありがとうございます◎

今日は短いのでもう一話!

よろしくお願いします◎

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