第007話 そんなもん察しいや!

リンディエールは、祖父について先ずはと領主館へ向かった。途中、通信で仲間達に領主館へ来るように伝えている。


さすがは元Bランクだ。身体強化をして走る祖父は速い。だが、それに難なくついていくリンディエールに、彼は驚愕していた。


「お前は……本当に十歳か? それに、その言葉遣い……」

「あ〜、しゃあないな。うっかりしとったわ。ウチ『目覚め人』やねん。実年齢プラス十八やで」

「なっ、そ、そうか……ならば納得できる。十歳にしては言葉も堪能だと思っていたのだ……なるほど……色々おかしいのはそのせいか」

「おかしいてなんやねん!」


もう隠す必要もないからと、リンディエールはいつもの調子でツッコむ。


「ははっ。まあ例え『目覚め人』でも孫娘には変わりないわ」

「あ、認めてくれるんやね」

「ん? 当然だろう」

「いや、父親も母親も認めとらんでな。存在自体忘れとるやろ。血縁に認められるん嬉しいもんやで」

「……」


走りながらそう言えば、祖父は表情を曇らせた。


「あっ、また大事なこと忘れとったわ! じいちゃんの名前、ちゃんと聞いとらん」

「そ、そうだったか……いや、お前なら鑑定で見ただろう」

「何ゆうとん。勝手に見て勝手に呼ぶなんて失礼なことできるかいっ」

「……っ、ふふっ、はははっ、確かにそうだっ。ワシはファルビーラだ」

「なら、ファルじいちゃんやなっ。ウチはリン呼んでや!」

「リンだな。よろしく頼む」

「こっちこそ。よろしゅうな、ファルじいちゃん」


そうして、領主館に着いた。ずんずんファルビーラについて奥へ進む。呼び止められても無視だ。


「入るぞ」

「っ、父上!? あ、先程の連絡の件で……? え? ち、父上! その足はっ!?」

「喧しい! 今は非常事態だ。後にしろ。ワシが冒険者達の指揮を取って前線に出る。邪魔すんなよ。それだけ言いに来た。いいな?」

「っ、ですが……」

「ですがじゃねえよ! お前が腑抜けたせいでもあるんだぞ! 責任取ってシャキッとお任せしますと言え!」

「は、はい!!」


憔悴しているのが分かる顔色。その上にこの事態だ。今にも倒れそうだった。


「これ飲みい。トップが途中で倒れることほど迷惑なもんはないで」


差し出して執務机の上に置いたのは特級の二つ下の中級万能薬だ。だが、口を開いたのは護衛の一人。彼は領主館担当で、家に来たことはなかった。


「っ、なんの薬を飲ませようとしている! 子どもだとて領主に手を出すことは許されん!」

「黙っとき。この状況で平時と同じ対応しとったら死ぬで」

「なんだと!!」


剣を抜いたため、リンディエールは素早く男の懐に飛び込み、なぎ払うように蹴り飛ばした。


「ぐがっ……っ

「せやから死ぬゆうとんねん。剣抜く相手はよく見い。実力差を感じ取れんようでは、死ぬだけやで。それも、守ろう思う主人も危険にさらす愚行や」

「っ……」

「主を守ろうゆん気概は二百歩譲って認めたるわ。ご褒美にコレが何か教えたる。中級の万能薬や。味も調整した特別なやつやで。副作用も出ん。ちょい馬車馬のように働けるようになるだけや。ファルじいちゃんに免じて無料提供やで、感謝しいや」

「……中級の……万能薬……っ」


中級でもかなりの金額になる。領主であっても驚くようだ。


まだ店に卸したことはないが、助けた冒険者達へ提供して自主的に払ってくれた金額は大銀貨三枚。円に換算すると三万円だ。宿で一食の値段が小銀貨三〜五枚。円に換算して三百円〜五百円なのを考えると高価さが分かるだろう。


一般的に平民にとって大銀貨は大金なのだ。何よりも、回復薬より万能薬の方が圧倒的に作り手が少ないらしい。なので、初級の万能薬でも貴重だった。上級や特級なんて金貨が幾つも飛ぶシロモノだ。


「ええから飲みい! 時間がないねん! 領民、殺す気か!?」

「は、はい! っ、んっ、お、美味しい……はっ、こ、これほどの効果が!?」

「なるほど。これなら倒れる心配はないな。すまんなリン」

「ええて。倒れられたら迷惑やゆうのんは本音やで。これで三日は寝んと仕事できるわ」

「それはいい。では、行くか。仲間も来たようだ」

「ここで万能薬飲ましたった方がええで」

「うむ。そうしよう」


しばらくすると五人の老人達が入ってきた。


「おっ? おおっ!? どうなってんだよファル!! お前、その足!」

「ちょっとファル!! 若返ってないかい!? 何したんだい!」


男が二人。女が三人。詰め寄ってくる女性はなんと祖母だった。


「なっ、なんでお前まで!? 王都に残ると言っていただろう!」

「気が変わったのよ。それより!」


更に詰め寄ろうとしたので、リンディエールはこの際だと帝王級の万能薬を握って突き出した。


本来、過剰な等級の万能薬を飲むのはお勧めできない。それこそ、余分な分は寝ずにというか、寝れなくなる。だが、リンディエールの万能薬は体に馴染みやすい。


よって、体にガタが来ている老人が飲めば、たちまち不調がなくなり、悪い場所を治すので、細胞も活性化する。これによって、若返り効果が出るのだ。特に帝王級以上は、その効果が顕著に出そうだ。


「これはウチ特製の万能薬や。黙っとってくれるんやったら飲んだらええ。マイナス五歳……いや、十歳いけるで」

「飲みましょう」

「「「「えぇぇぇぇっ!!」」」」


彼女はあっさり飲んだ。そして、十歳どころかもっと若くなった気がする。元は見た目六十。それが四十代になった。美魔女もびっくりだ。彼女は不調が少なかったようだ。


「は、母上!?」

「ん? どうなったの?」

「どうぞ」


手鏡を差し出した。


「いやぁぁぁぁっ! 若返ってるぅぅぅっ!」

「い、いやぁて……まあ、ええか……どうや? そっちのおっちゃんは腕も生えるで。顔のかっこええ傷も治ってまうかもしれへんけど」


男の一人は片腕がなく、目も片方大きな切り傷で見えなくなっている。冒険者は総じて、歳を取ってからファルビーラのように病気になり古傷を悪化させることがある。片腕、片足になるのはそのせいだ。だから、冒険者は老後を穏やかに過ごせるように終の住処を探す。


「お、おう……いや、最近は引きつって痛い時があるから、治るんなら別にいい」

「そうか? なんならウチが斬り付けて同じようにしたるよ?」

「……遠慮するわ……」


同じ傷にも出来そうだし、魔法も上手く使えば問題ないと思うのだが残念だ。隻眼のおじちゃんは大事にしたかった。


「そっちのおっちゃんも、病気治るで」

「……知っているのか……?」

「なんとなくや。ほれ、飲みい。女性陣はみんなもう飲んだで?」

「「いつの間に!?」」


そうして全員が十歳から二十前後若返った。


「なら、元Aランクパーティの実力、見してもらうで」

「任せろ! 暴れたくて仕方ねぇよ! もう傷は付けてねえ!」

「かっかっかっ。蹂躙してやるぜ!」


病気だった男も別人のようだ。これはやらかしたかもしれない。


「さあ、行くわよー! ブタ共を潰して鳴かせてやるわ!」

「ふふふ。血を浴びると美容に良いって本当かしら……うふふ」

「あとは筋力付ければ完璧よ! 運動にはもってこいね!」


男たちは震えた。


「ね、ねえさんら、カッコ良すぎやろ! これや! このトキメキを待っとってん!」


リンディエールは興奮した。恋のトキメキは要らん。求めていたのはこのトキメキだ。


「ほな行くで〜!」

「「「おー!!」」」

「「「お、おー……」」」


男性陣に元気がないが、戦場に立てばシャキッとするだろう。


そうして部屋を出る時、懐かしい人に出会った。


「ん!? お嬢!?」

「ギリにいか。こっちに帰って来たんやね。あ、一人護衛を潰してん。これ飲ましたって。金はきっちり後でもらうよって」

「へ? え? ちょっ、お嬢!? 説明!!」

「そんなもん察しいや! 男やろっ」

「男、関係ないわ!!」

「ええ、ツッコみや!」

「意味わからんて!」


グッジョブと親指を立ててサムズアップをかますと、リンディエールは祖父母達と領主館を後にした。


「……一体……何が……? ギリアン? お嬢って……それに、あの髪色……」

「はあ〜……マジで言ってます?」


ギリアンは盛大にため息をついて見せてから、部屋で倒れている同僚へ目を向ける。そして、リンディエールから放り投げられ、思わず受け取った薬を見る。その意味を察した。彼はきちんと察せられる男だ。


「お〜い。そいつ、内臓やってるから下手に動かすな。中級の万能薬が要るくらいだからな。これ飲ませろ」

「はっ、はい!」


近くにいた若い同僚の一人が急いで受け取り、飲ませに行った。手が震えていたのは、高価な薬を手にしたからだろう。その間に領主も色々考えていたらしい。


「ギリアン……あの子は……娘……なのか?」

「そうっスね。それで……まさか名前忘れたとかないよな? 本当……マジで殺されるぞ」

「っ……い、いや、忘れてなんて……っ」


領主は真っ青になって、ようやくなんとか万能薬を飲み干すことが出来た護衛へ目を向けていた。それを見てはっきり言っておく。


「俺、お嬢とファルビーラ様たちからは護らないからな?」

「っ!?」

「なんだよその捨てられたガキみたいな顔。自業自得だろ。何度も今まで確認したよな? 俺のは外敵から護る仕事であって、身内は範疇外はんちゅうがいだから。心配すんな。死んだらしっかり証言してやる。『家族を蔑ろにした結果だ』ってな」

「だ、だがっ……」

「お〜い。仕方ないとか言ったら、さすがの俺も殴るからな? そんで、お嬢に雇ってもらうわ。早いとこ、遺書用意しとけ。あと、すぐに仕事始めろ。お前が死ぬより先に住民や兵に死人が出るぞ」

「わ、わかった」


領主は、せっかく万能薬を飲んで良くなっていた顔色を真っ白に戻しながら、頭を振って意識を切り替える。領主としてはそれなりだ。急いで指示を飛ばすのだった。


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読んでくださりありがとうございます◎

もうねっ。行けるとこまで毎日行くよ!

また明日!

読んでくださりありがとうございます◎

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