第006話 ……世に出すなよ?

冒険者の仲間が居るならば、通信の魔導具も持っていて不思議ではない。


「……見えるのか」

「……はい。私も持っております。腕輪ですが」

「っ……そうか……それは自分で?」

「これは貰い物です」

「これは……か……」


気付いたようだ。そう。リンディエールは迷宮にも潜っていた。そして、通信の魔導具も自力で手に入れていたのだ。


レベル100を越えるほどの実力を身に付けるには、そういった行動が裏にある。リンディエールは元々、ゲームでもレベルは序盤で可能な限り上げたいタイプ。寧ろ、物語を進めることよりも、レベル上げに熱中してしまう子だったのだ。


それから気になったのは、老人の足。杖が脇に置かれているのと、膝掛けをきちんとかけて座っているのを見ると、状態はかなり悪そうだ。


「その……足はどうなさったのですか?」

「ん? あ、ああ……冒険者の時に無理をしたのが祟ってな……代を譲って、隠居してすぐに熱を出して……切るしかなかった」


膝掛けをめくって見せてくれた左足は、膝の辺りから下に棒のような義足が付いていた。


リンディエールはしばらく考えると、提案した。


「その義足をすぐに外せますか?」

「外せるが?」

「なら、足を生やしませんか?」

「……は……?」


思考停止ワードだったようだ。


「あ、すみません。足を再生させませんかと言いたかったんです。ここに特級の万能薬があります」

「特級っ……いや、特級でも生えたりは……っ」


現代の万能薬の特級では、欠損部を再生させることはできない。だが、これはただの特級ではない。


「今の時代で特級は、特級以上の物を言います。その上の等級は作れない……存在しないと言われているからです。ですが、これはかつて帝王級と呼ばれた特級の上のものです。なので……生えます」

「な、なるほど……」


これは完全に話が右から左に抜けているなと思いながらも、混乱中にやってしまえと差し出した。


「義足を外してください」

「あ、ああ」


ベルトで留めているだけらしく、すぐに外せた。


「さあっ、ググッと!」

「お、おお……っ、んっ、ぐっ、んんっ!?」


祖父は思わず飲み干す。すると、切断された先から光が出て、ニョキニョキっと足が生えた。張りのある肌の足、毛もないツルツルの美脚だ。世界の不思議が作用したらしく、右足と同じくらいの筋肉は付いている。


「お〜」


リンディエールは感嘆の声を上げた。


「なっ、は、生えた!!」


老人もびっくりして触って確認している。そんな老人を見て、リンディエールは手鏡を取り出して差し出した。足よりも顔の方がリンディエールにはびっくりだったのだ。


「ん? 鏡?」

「マイナス五歳肌や! いやっ、十歳もいけるで! ナイスミドルなおっちゃんになっとるよって!」

「んん? はっ!? な、わ、若返っとる!!」

「すごいわ! けどあかん! おばちゃんらに知られたら血を見るで! これはトップシークレットや!」


若返りの薬として売り出したらバカ売れすること間違いなしだが、利益よりも暴走した女は危険だ。おばちゃん達には勝てない。


「はっ、そ、そうだな。女にバレたら……殺される……っ」

「なんやじいちゃん。トラウマか?」

「ちょ、ちょっとな……」

「元気出しい……せや、たまたま迷宮から出た薬を間違って飲んでもうたゆうことにしよか……万能薬やバレるのも危ないわ……主に迷宮に行く冒険者がな……」

「確かに……っ」


おばちゃんらが冒険者を危険な迷宮に送り出すようになりそうだ。それも、取って来るまで帰ってくるなと言うだろう。横暴な貴族や商人も真っ青になる。


「ま、まあ、気を取り直して。筋トレしとってんな? 現場でも問題なく動けそうやんか」

「ワシか? ああ。筋力が落ちないよう気をつけていたよ。動けなくなれば、妻に何を言われるか……っ」

「あかんっ。それは今考えたらあかんでっ。楽しいこと考えな。な? ほんでや、じいちゃんに指揮取って欲しいんよ」

「わ、ワシに? さすがに引退した頑固じじいが出て行くのはな……」


困った表情で、また深くソファに座り込んだ。上げかかった腰が沈んでしまう。


「別に領兵動かせゆうとらんわ。冒険者の方や。元Bランクなんやろ? 隣の伯爵が地味に嫌がらせしおってな、親父も事務仕事ばっかでモヤシになりかけとるのが影響して、この辺りの冒険者の中にBランク以上のんがおらんのよ」

「なに!? あ、あのバカもん! 何やっとるんだ!」

「まあまあ、跡取りが生きるか死ぬかの不安で仕事に逃げとる腰抜けや。自分で目え覚ますまで放っとこ。それより、冒険者の方頼めるか?」

「勿論だ! 昔の仲間達も一緒にこの領に来たからな」


どうやら、全員が隠居生活となり、一度隠居するのにいい土地がないかこの辺境まで見に来たらしい。半数はこの領の出なので、里帰りも兼ねている。


「お仲間さんら、万能薬要るか?」

「……欲を言えば欲しい……だが、そう何本も……」

「あるよ? 帝王級から上は、下手に世に出せんから全部死蔵してん。作らんと感覚鈍るで、月に一度は一本作ってるしな。腐るほどあるで、隠居祝いにやるわ」

「っ、すまん。ん? 帝王級から上……?」

「せやで? 伝説級と神話級もあるねん。神話級に至ったては、頭さえ残っとったら死んで三分以内なら復活や! ゾンビにもせえへんぞっ」


ものすごいショッキングな光景で、しばらく夢でうなされたというのは言わない。興味半分でゴブリンで試したのも悪かった。命で遊んではいけない。


「……世に出すなよ?」

「わ、わかっとるって……」


外に間違えても出してはいけないことは分かっている。


「ヒーちゃんはまったく……えらいもん教えてくれたで……」


実際、ヒストリアは最初、絶対に出来ないと思って面白半分で教えた。だが、出来てしまって『やべ……』となったのだが、後の祭り。勤勉なリンディエールは、レベルも上がるからと月一の生産を止めなかったのだ。お陰で領都内に住む半数分くらいは軽く生き返らせることができる量を持っていた。


「絶対言えんわ……これは乙女の秘密で通すで……」


亜空間収納の中身が怖くて確認できなくなったのはもう二年も前なのだが、ヒストリアにも言えずにいるリンディエールだった。


そうして、領主館へ向かう。父親との対面はすぐだ。


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