第005話 どれだけ刈ったんだ?

十歳になったリンディエールは、相変わらず両親と関わる事なく生きていた。この頃になると、それが当たり前過ぎて、使用人もあまり心苦しく思うことはなくなったようだ。


ますます放置される日々に、リンディエールは自由を満喫していた。今日は昼が終わるとすぐにヒストリアの所に転移している。


「いやあ、自由ってステキやわ」

《なあ、この続きとかないのか?》

「ん? 相変わらず、時代劇好きやな〜。黄門様が気に入ったんか」

《なんでもっと早く教えなかった? もちろん、アニメも面白いがなっ》


リンディエールは、この五年。記憶玉に観たことのあるアニメや映画を片っ端から登録した。自分ももう一度観たかったというのもある。


一つの記憶玉に一作品。アニメならば一期分。時代劇なら十話くらいを目処に入れた。そんな記憶玉が、ヒストリアの足下にゴロゴロと置かれている。もちろん、これはほんの一部だ。亜空間収納にも入っているのだから。


そして、最近のヒストリアのお気に入りが時代劇だった。


「しゃあないやん。アニメより時代劇の方が昔の記憶やねん。スペシャル以外は、ちっさい時にばあちゃんに付き合って観とっただけやで」


因みにリンディエールは暴れん坊な将軍様派だ。全シリーズとまではいかないが、かなりの量がある。まだヒストリアには渡していない。リンディエールが楽しんでからだ。


《そうなのか……よし、次は何だ?》

「今日は特撮を入れてみたで〜。古いのから順番にいくわ。先ずは仮面なライダーさんからや!」

《お〜! 楽しみだ!》


小さな記憶玉を手にはしゃぐヒストリアを見て、もしかして、幼児の楽しむアニメや人形劇でも喜ぶのではないかとリンディエールは苦笑した。


「まあ、寂しないなら何でもええか」


未だ解放できないヒストリア。こんな暗い森の中に一人置いていかなくてはならないのは、友人として我慢ならない。なので、リンディエールはここ二年ほど、この森で修行していた。


「ほな、少し体動かしてくるよって」

《気を付けろよ?》

「分かっとるって。あっ、コレ後で見といてや。新作の剣やで。もちろん、今までで最高傑作や!」


リンディエールはこの森で見つけた鉱石を使って、魔法による武器の製作が出来るようになった。自分で魔力を付与しながら作った武器は、当然だが自分の魔力と相性が良い。なので、魔力操作の訓練がてらこうして、時折自作しているのだ。未だ、ヒストリアが合格を出すまでには至っていない。厳しい師匠だ。


《分かった分かった。コレを観たらな》

「まったくヒーちゃんは……ほな、行ってくる!」

《おうっ》


森を駆ける。疾走するという言葉が合うだろうか。身体強化の魔法と気配探索の魔法を併用し、森に棲む魔獣や魔物を狩る。


魔法を放って倒すのは、もう苦労しない。それより魔法を剣や弓矢といった武器に付与し、直接攻撃をした方がレベルが上がりやすいことを知った。魔法の熟練度も上がるので一石二鳥だ。


リンディエールは二本の短剣を構えた。もちろん、これも自作のやつだ。


「今日は暗殺者なリンちゃんやで♪ なんやゴブちゃんらが多なっとるし、相手には困らんな」

《グギャギャ!》


独特の臭いを感じながら、蹂躙していく。因みに、服装は普通のワンピースだ。今日は特に可愛らしい薄いピンク色。汚しても魔法で綺麗になるし、汚さないようにやろうと思えば訓練にもなる。何より、服装によって動きが阻害されては実戦で使えない。


「目標は可憐で優雅に一閃できるお嬢様やでな!」

《グギャっ!》


サクサク倒しまくり、自動で亜空間へ放り込んでいく。生き物以外は入るので、本当に死んでいるかの確認もできる作戦だ。


「んん? もう森の出口が見える? ここまで出てきとるのはあかんやろ……これは……繁殖期に入ったか……ヒーちゃんに確認して、何とかしてシュルじいに報告やな」


転移でヒストリアの所に戻り、話をする。


《どれだけ狩ったんだ?》

「三日前は百ちょいや。そんで、今日は三百はおったで」

《……上位種は》

「リーダーとアーチャーがおったな。今日で……二十くらいずつや」

《キングが出てる可能性があるな……ジェネラルが居たら間違いないんだが》

「探すか?」

《いや……居るな》

「……あ、ほんまや。リーダーより強いなあ。ってか、これ森の入り口か? あっち側は管轄外やで……」


感じた気配は、辺境伯領の隣、伯爵領の端だ。この森は繋がっており、広大だ。反対側は崖で境界線。他国になる。


聞いた話によると、国境を守り、この暗闇の森の魔獣達から国を守るのが辺境伯の役目。だが、そこに当時の伯爵が横槍を入れ、森の部分に接する土地を一部奪ったらしい。危険な森だが、その分貴重な薬草や鉱石が見つかる。強い魔獣は価値ある素材にもなるのだ。きちんと対処できれば得をできると考えたのだろう。


《……あまり間引かれていないなとは思ったが……そこを突かれたか》

「伯爵領は今、税が高うて、物価が高いでな。冒険者が長居せんらしいわ。それで魔獣被害が多なって、接しとるこっちに文句ゆうてはるって。こっちの領から来た魔獣やーって。賠償を求めとるらしいで」

《……頭の悪い領主だとよく分かった》


無茶苦茶な言い分を、当然のように言ってのける。頭が悪過ぎだ。


「どないしよか……」

《他領だろう。放っておけばいい。それより、こちらの守りを優先させるべきだ》

「分かった。すぐにシュルじいに動いてもらうわ」

《ああ……気を付けて……》

「心配しなや」

《……》


リンディエールの居た場所を、ヒストリアはしばらく見つめ続ける。


《……俺は……っ》


そんな声が森に響いているとは知らず、リンディエールは屋敷に急いだ。書庫に転移すると、そこに人が居ることに気付く。


「誰……?」

「そちらこそ誰だ? ここは家の者以外入れんはずだが?」


警戒しながら進むと、いつもの勉強する場所よりも奥にあるソファに老人が座っていた。咄嗟に鑑定して驚く。


「っ、失礼しました……私はリンディエール・デリエスタと申します。もしや……お祖父様でしょうか……」

「……なるほど。報告で聞いたな。十年くらい前か。娘が生まれたと」

「……はい……」

「……」


重い沈黙が落ちる。しばらく見つめ合っていると、ヒストリアから連絡があった。


『あ、ヒーちゃん……』

《どうした?》

『その……転移した書庫にじいちゃんがおってな……父方の祖父や。そんで今、絶賛品定められ中や……』

《はあ……正直に言え。そろそろこちらの領にも影響が出始めるぞ》

『そりゃ不味いわ……分かった。あ、シュルじいが来たわ。何とかすんで』


そうして、振り返ると、ノックの音が聞こえた。


「入れ」

「失礼いたします大旦那様……こちらにいらっしゃるとお聞きしまして、こちらにはお嬢様が……ご紹介せず、申し訳ありません」

「いや……本当に孫なのだな」

「はい……?」

「これが突然現れたのでな」

「はい?」


やはり、この老人は気配が読めるようだ。ならばやりやすい。


「発言をお許しいただけますか」

「構わん」

「私は転移を使えます」

「……」

「っ、お嬢様!?」


そこで、近くに転移してみせる。


「お分かりいただけましたか?」

「……ああ……十歳とは思えんな……シュルツ。鑑定してみろ」

「は? お嬢様をですか? 大旦那様もお出来になるはずでは……っ、いえ、失礼いたします」


そうしてリンディエールに鑑定をかけるが、レベル差があり過ぎて一分もしないでフラついた。咄嗟に支える。


「シュルじいっ」

「も、申し訳ありません……ですが……お嬢様……」

「やはりか……ワシでも見えん。ギリギリまで粘ったが無理だ」

「っ、大旦那様でもですか!?」


シュルツを椅子に座らせ、リンディエールは苦笑して見せた。


「私の今のレベルは100を超えています」

「ひゃ、百!?」

「ほお……その歳で百を超えるか……だが、一切せがれからは報告がなかった」

「父には三つの時から会っておりません。顔も忘れました。それより、聞いていただきたいことがあります」

「なんだ……」


老人は少しだけ顔をしかめた。それが懐かしいと思ったのは、昔よく見た使用人達の表情と同じだったから。


「先日より、暗闇の森でゴブリンを多数確認しました。数の推移から、大繁殖期に入ったと予想します。今日は多数のリーダーやアーチャーを確認。そして、先ほど伯爵領側でジェネラルが現れたようです」

「っ!? それはっ……本当か!?」

「はい。ジェネラルの方は気配だけで、姿を確認しておりませんが、確かかと。ジェネラルが居るということは……」

「キングが居るな……シュルツ、動けるか?」


この老人、レベルは90だ。称号には『自国の英雄』とある。こういった事情にも明るいようだ。


「シュルじい。これを飲んで。魔力回復薬だよ」

「へ? ど、どちらでこれを……?」

「自作だよ。ほら、早く」

「は、はい。っ、んっ、お、美味しい?」

「自作って言ったでしょ? 味も改良したの」

「そんなこと可能なのですか!?」


この世界の回復薬をはじめとする薬は苦かったり不味かったりする。子どもには絶対に飲めない。なので、必死で改良したのだ。今シュルツに渡した初級のものは木苺味だった。


「そんなことより、報告でしょ?」

「はっ、そうでした!」

「シュルツ。ワシの冒険者仲間からの連絡だと言え」

「承知しました!」


そこで気付く。老人の親指に通信の魔導具があったのだ。


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読んでくださりありがとうございます◎

もう二回くらいは0時でいけるはず!

また明日です。

よろしくお願いします◎

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