第004話 闇ギルド所属……

彼の名前はギリアン。


元冒険者でレベルは70。年齢は五十とリンディエールの父と同じくらいだ。だが、見た目は四十でも十分通用する。


昔からリンディエールの事を娘のように可愛がってくれる人。非番の日は特に父に内緒で遊んでくれるような人だった。


「ギリにい。ちょっとそうだんがあるんだけど……」

「お嬢が俺に相談? なんだ?」


頼られたことが嬉しいとその顔には書いてあった。


「みみかして」

「ん〜」


屈みこんでくれたので、小さな声で話す。


「『不死の蝶』ってやみギルドしってる?」

「っ、なんでお嬢がそれっ、痛えっ」

「こえがおおきい!」

「わ、悪い……」


ガツっと膝を蹴って黙らせた。構っていられない。


「ギリにいは『鑑定』つかえる?」

「ん? いや、あれはそれなりの素質がいるからな……確か、シュルツさんは使えたはずだ」

「む……じんせんまちがえた……」

「ちょっ、おいおい。そりゃないぜ……」

「なら、いっしょにシュルじいのとこいくよ」

「はい……」


腰に手を当て、使えないなとプリプリ怒りながら、立ち上がるギリアンを見上げた。完全にノリだ。どのみち、ギリアンの協力は必要なのだから。


抱えられてやってきたシュルツの執務室。シュルツ意外には居ないので好都合だ。


「お嬢様まで、どうされました?」


手を止めて迎え入れてくれたので、すぐに部屋に遮音と人払いの魔法をかける。


「ん? 結界?」


ギリアンは気付いたようだ。


「わたしがかけたの。『遮音』と『人払い』のまほう」

「は? お嬢が魔法? まだ五歳だろ? 教師も付いてねえのに?」

「だまって。いいからきいて」

「はい……なんでだ? 今日のお嬢はなんか怖い……?」


余計なことは後にしろと睨みつけた。


リンディエールは、昨日の夜、拐われたこと。そこで親切な人に助けられて魔法を少し覚えて戻って来られたこと。それから、鑑定魔法で見たことを一気に話す。


「きっと、みうちに、ゆうかいはんたちのなかま仲間がいるっていわれて、かくにんしたの」

「そんな……レーナとゾールが?」

「レーナが闇ギルド所属……おい。シュルツさん。まずは確認してくれねえか?」

「っ、そうですね。ギリアンはここでお嬢様と待っていてください」

「わかった」


シュルツは部屋を出ていく。人払いの結界だけ解いて、リンディエールはギリアンと待つ。


「なあ、お嬢。その……助けてくれた人ってえのは、何者だったんだ?」

「おともだちになったからいわない」

「だがよぉ……」

「……そのうちあわせるよ。けど、おとうさまたちにはないしょにしてもらうからね? まあ、しゃべってもきにしないだろうけど」

「……お嬢……旦那様は不器用な人でな……不安なのを、忙しさで誤魔化してる……坊っちゃんは大事な跡取りだ……だから……」


言いたいことはわかっている。今までの記憶を整理したことで、父親が不器用だということも理解できた。仕事に逃げるのも分かる。だが、何も言う気はない。それを選んだのは父だ。こちらから歩み寄ろうという気は起きない。


「きにしないで。わたしもきにしてないから」

「……」


今までのリンディエールは傷付いていた。父と母は、病弱な跡取りである兄のことしか見ていない。それがどれほど寂しいことか。


だから、今までのリンディエールのためにも、自分からは歩み寄らないと決めた。


「お待たせいたしました……」


シュルツが戻ってきた。


「おう。で……その顔色見たら分かるか……本当だったんだな?」

「はい……」


それを聞いて、ギリアンは立ち上がる。


「すぐに旦那様に伝令を。俺は二人を捕まえて地下牢に入れる」

「わ、分かりましたっ。お嬢様はっ……」

「しょこにいる」

「ああ。何かあっても、まさかお嬢が書庫に居るなんて思わないだろうしな。よし。落ち着くまで書庫に居てくれ」

「は〜い」


リンディエールはまんまと書庫に入り込むことに成功した。


「これでゆっくりべんきょうできるで〜♪」


なるべく奥の方に入る。机と椅子があったので、どうせならばそこでと思った。


「む……さすがにこのイスではひくいな….あ〜っとたしか、きのうヒーちゃんにもろおたなかに、いいかんじのクッションが……っ、あったっ」


野営時に使うクッションらしい。絶対に汚れないという摩訶不思議クッション。迷宮産だ。それが三つ。並べて寝床にしたらいいと言われた。


「おおきゅうて、ウチには二まいでもじゅうぶん十分そうやね……」


二つに折って椅子に置けば、良い高さになった。


『ヒーちゃ〜ん。べんきょうできるで〜』

《そうか。裏切り者はどうなった?》

ほばくさくせんちゅう捕縛作戦中や。ウチはしょこにヒナンしてん』

《分かった。なら、一応は結界を張って始めよう》

『は〜い』


こうして呑気に授業が始まった。


日が暮れる頃。ようやくギリアンが呼びに来た。


『おわったらしいわ』

《なら、今日はここまでだな。相変わらずお前は阿呆だ……》

『まかせて〜な。なんやあたまようなったんはわかるわ。またれんらく連絡するよって』

《ああ……待ってる》


ちょいちょい可愛らしいヒストリアに笑いながら、急いで片付ける。


「おわったの?」

「ん? あ、お嬢。そこに居たんか。終わったぞ……」

「そんなにたいへん大変だったの? つかれてるみたい」

「……まあな……」

「ん?」


話を聞くと、リンディエールはお試しだったらしい。両親にほとんど構われることのないリンディエールならば、メイドのレーナが二、三日調子が悪くて部屋に篭っていると言って、自分が世話をしているからと言えば次の長男を拐うまでバレないと思ったらしい。


今朝何事もなく部屋にいることを知って、レーナは相当焦っただろう。だが、そこは闇ギルドのメンバーだ。作戦失敗を判断し、今日の夜にはギルドへ連絡するつもりだったという。


ゾールはレーナに唆されただけ。酒代で給金のほとんどが消えるゾールにとって、金での取り引きは効果的だった。リンディエールとの接点もなく、事情を知らない使用人にとっては、両親に疎まれた子どもにしか見えないので、心も痛まなかったらしい。


「坊っちゃんが標的だったと知って、旦那様が怒り心頭でな……」

「あ〜、なるほど。うまいぐあいに、わたしのことごまか誤魔化せたようでよかったよ」

「っ……そんなこと……」


リンディエールと関わりを持つ使用人達は、両親に愛されることを諦めた彼女を気の毒に思っている。ただ、主人達は今、跡取りのことで精一杯。これ以上追い詰めることはしたくない。そのせいで、リンディエールが犠牲になり続けていることに後ろめたさを感じている。


だからこそ、自分たちだけはとリンディエールを可愛がるのだ。


「それじゃあ、へやにもどるね」

「お、おいおい。友達の件は?」

「そっちがぜんぶ、かたづいたらね〜。ギルドのこととか、いらい依頼したやつとか、しらべないと」

「……分かったよ……危ない奴じゃないんだな?」

「わたしにとっては」

「その言い方、気になるんだが……はあ、まあ、早く終わらせるか……」


これがきっかけで、ギリアンは今後、忙しく奔走することになる。主に王都での調査だ。お陰で、これ以降ヒストリアの事を詮索されることはなくなった。


けいかくどおり計画通りやで!』

《あ〜、スゴイ、スゴイ》


ギリアンが王都へ旅立つのを見送った時の会話がこれだった。


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