第7話 罠

 何が起きたのか理解出来なかった。


 6人は、宙に放り出された。


 落ちてゆく感覚が肉体を無視して心臓と肺を撫で上げる。


 また上げる。


 また。


 着地する前にベイクは辛うじて、転落しているのだと感じた。昼食を食べて直ぐの事だった。出発して、10分と経っていなかった。

 罠だった。

 ベイクはやっとで頭から落下するのを、身を立て直し、柔らかい土の上に左肩から身を打ち付けた。


 頭は打たなかったが意識がはっきりするまで時間がかかった。体感で6メートルくらいは落ちただろうか。体を反転させて大の字に寝て、上を見上げた時、自分達が綺麗な四角形の穴を落下してきたのを見た。これは人工的な落とし穴。

 ここを作った人間が侵入者を立ち入れまいとする仕掛けなのだ。ある程度の重さで作動する。


 「おい」


 ベイクは上を向いたまま辺りに問いかけた。


 「おい」


「退いてくれないか」


 下から声がして、ベイクは驚いて飛び起きた。


 「重い」


 ベイクは声のする土を素手でかき分けた。すると自分が引いてきた棺が出てきた。その下には腕。ベイクが棺を退けると、半分埋もれた大男が、土を吹きながら咳払いした。


 「いたた」


 ガジはそう言いながら起き上がった。


 「うう」


 左の暗闇からもう一つの声。


 「レオ、無事か。みんな!返事をしろ」


 ガジは足を投げ出して座ったまま叫んだ。

 ベイクは手探りでランタンを探し当てたが、最初のは粉々に砕けて把手だけになっていた。次のは何とか使えそうだ。ベイクは着火した。


 「おーい。みんな」


「大丈夫か」


 ベイクはレオと呼ばれた術兵を探し出して座らせた。


 「大丈夫です。足を挫きましたが。下が柔らかかったので」


 レオは左右を見回して、黙った。


 「おーい」


 ガジはまた声を上げた。


 「無駄だ。駄目みたいだ」


 ベイクは言った。


 「何だ」


「他の、3人は死んでる」


ガジは息を飲んだ。そして立ち上がってうろたえる事もせず、静かに頭を垂れた。

 少しして、生き残ったレオは他の3人の荷物を整理したり、遺体を綺麗に横たわらせてやろうと、立ち上がった。


 「う」


「どうした?」


 ベイクが訊いた。ガジは下を向いてびくともしない。


 「棺が...」


 レオが震える声で言った。


 「空いていなかったですよね?」


「なに!」


 ガジは大声を上げて棺の少し空いた隙間から中を覗き込み、次の瞬間、勢いよく蓋を開けた。いや、剥ぎ取ったと言ってよかった。

 ベイクはしげしげとランタンを当てて中を見る。3人とも絶句した。

中は真っ赤なビロードの当て布以外、なにも無かった。何がが入っていたと思しき空間にはそれは入っていなかったのだ。


 「なんだ。これは」


 ガジは頭を抱えた。


 「すでに出ている。復活しているのか」


 ベイクが言った。


 「棺を山に放り投げたのは、この棺の主本人なのか?」


「いや、中身を取り出した輩かも知れん」


「何か聞こえませんか?」


 レオが呟いた。


 「なんだ!」


 先程の部下の死でやや動転しているガジが背の大剣に手を当てた。


 「違います!何が水の音が、微かに」


ベイクが歩いてランタンを照らしてみた。


 「横穴が続いている。経年で水脈が流れたか」


 ベイクはこの落とし穴の地面が柔らかい事に、合致がいった。少しずつ水が侵入していたのだ。


 「危険じゃないのか」


 ガジは少し冷静さを取り戻した様だった。


 「この穴を登るのか。それにこのままおめおめ帰れるか!」


 ベイクの高鳴る感情を、ガジは初めて見た。やはり彼はかつて人の上に立って、戦士たちを従えた人間だ。動物的に、直感でそう感じる。

 3人は後で3人の死んだ兵士を回収しやすい様に紐で括って、出口に近い壁際に横たえた。後で皆で迎えに来る。必ず、決着はつける。3人は水が浸食した穴を進んだ。

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