第6話 ゴミ捨て場
ランタンの明かりに映し出される土壁や砂利の混じる地面は何の音も立てず無音だった。ただ歩くたびにどういう人間が何をこれ程までに厳重に地底へ封印したかという、想像に対しての恐怖は湧く。もはや地上の鳥のさえずりや風で揺れる木々の音などの有機質な喧騒から遮断されてきた。無機質で、丸で自分が筒を通る球体であるかの様に、何か狂気じみた圧迫感を感じる。
先程(と言ってもかなり前に感じられる)の獣の件もあり、6人は無言で進んだ。途中後ろの兵士がベイクに、運搬役を替りましょうかと訊いたが断られた。果たして1日半で辿り着いて、戻れるのか。もはや棺がいつ開くのかという恐怖よりも優っていた。
やや進むと、向こう、ランタンの光の届かない所が、あるのを認めた。なにやら、横に膨らんで掘られていてまるで休憩所といった様子の空間がある。6人は無言でそこに寄っていく。危険そうかどうか、ベイク以外の5人はそれを、彼に委ねていた。もはや信頼していたのだった。
空間には木箱が二つ。その中には兵士の物と思しき装備品、皮の肩当てや脛当て、くさび帷子、刀剣等が入っていて、戦闘で破れたと思しき跡がある。あとは麻紐の袋だったと思われるものが幾つもあるが中に入っていた物が腐敗して、長い年月を経て黒い砂と化していて、うじも湧いていなかった。
「誰かが捨てていった様だな。ここを攻略しようとした者か、はたまた、ここを掘った者達のものか」
ベイクは顎の髭を引っ張りながら言った。無事帰ったら剃ろう。
「う」
木箱の壊れた装備品を物色していたガジは声にならない声で唸った。他の5人も木箱を囲んだ。
「この上っ張りは...」
ガジはうろたえながら一枚の破れた大きな布を持ち上げた。
「この紋章は、あんたらの国のじゃないのか?」
ベイクは訊いた。
「これは今の制服になる前の、変える前のやつだ。俺が小さい時にはもう兵士たちはこの上っ張りだったから、40年以上前の物だ。ひょっとしたら、50、60、100年前の物かも知れん。また領地が広かった時の物かも」
「この制服が使われていたのは約90年前から、45年前です」
術兵が呟いた。
「まだスキラ地方とドナン地方が我が領土であった時代です。ほら、裾に両地方の紋章が」
指差して言った。
「これはどういう事だ。それ程昔にはもうこの洞穴はあったのか」
兵士の1人が呟いた。
「違う。見てみろ。木箱の底を」
ガジが中身を外に投げ出しながら言った。
「これは、シャベル、であった鉄だ。ここを掘ったのは、我々の先代兵士達、つまりナーランド領兵達がここを作ったのだ」
静寂。つまり、を6人は考えていた。
「この棺に関する記録は調べたのか?」
ベイクはガジの方を振り向きながら言った。
「調べた。これ程までの洞穴を掘るとなれば国家事業だ。建築に関する記録は調べたが、無かったのだ。ナーランド家が爵位を頂いてから全ての記録だ」
「闇に葬られた記録。入り口の文字盤に記されていた眷属、それが気になるな。ひょっとして、この棺桶の中にはナーランド家の古い血筋の者が入っていて、魔道に走って、この洞穴に封じ込められたのではないのか。ならばそのナーランド家の汚点を塗り消しているとして、辻褄が通る」
ベイクは説明した。
「だからあんなに恐れ慄いて...だが、それ程まで、心臓が止まる程まで...」
ガジは声にならない声で呟いた。
「ん?なんだ」
ベイクは訊いた。
「な、何でもない。ちょっとここを掃除して、昼食にしようじゃないか」
皆、同意した。
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